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◇121 カノン子爵家からの招待状

■本日二話目の更新です。





「では発音してみましょう。『なんでやねん』」

「なんでやねん……」


 いや本当に。なんでやねん。

 今現在、私は家庭教師のストラム先生から他国の言語を習っているのだが、これがどこをどう聞いても関西弁なのだ。

 私には京都だ大阪だ、いろんな関西弁をごちゃ混ぜにしたような、なんちゃって関西弁にしか聞こえない。

 シンフォニア皇国とも交易のある、遠方のジョールリ王国の言葉なのだが、九女神様、適当に作ってないよね……?

 確かにゲームの中に出てきたお助けキャラの一人が関西弁で喋っていた気がするけど、あの人もジョールリ王国の出身だったのだろうか。

 うむむ、なんとも微妙な気持ちになる……。なんでテキストに『儲かりまっか?』『ぼちぼちでんな』って書いてあるのよ……。それ、使うことある? 地球でも使わないと思うよ……?

 まあ、皇族はある程度多言語を使えないといけないらしいので、一つ楽に覚えられる言葉があるのはありがたいけどさ。

 シンフォニア皇国の皇族は数が少なく、そのためお父様は臣籍降下していない。もしも皇王陛下やエリオットに何かあった場合、次の皇王になれる権利を持つ。

 その娘である私も皇位継承権を持っている以上、こういった外国の言葉を学ぶのは必須なんだそうだ。

 私は『学院』に入学するまでに、貴族としてあらゆることを学ぶ必要がある。

 本来なら生まれてから今までの間にいくつか学んでいるべきなのだが、私は三歳までの記憶が無く、三歳からは貧民街スラムで暮らしてきたため、その知識が全くない。

 まあ三歳じゃ、そこまで重要な常識を覚えていたか怪しいけど、前世と貧民街スラムの記憶がある分、貴族側からすれば、とても変わった子に見えるらしい。

 なので、語学、歴史、礼節、芸術、武術、音楽、社交、乗馬、ダンス、etc(エトセトラ)etc(エトセトラ)……覚えることがとにかくいっぱいなのだ。

 中途半端に大人の頭を持っているため、その必要性がよくわかるし、割と早く覚えてしまえるのが微妙に辛い。

 まあ私の場合、エステルと一緒に勉強しているため、負けないぞ、というライバル心も多少はあったが。

 あの子ヒロインだからか、本当に物覚えがいいのよね……。主人公補正ずるいわあ……。

 冬になると外出する機会も減り、部屋の中で遊んだり、勉強することが多くなった。たまにお茶会を開いたり、招かれたりもする。

 何回か繰り返しているうちに、それなりに仲のいい子もできたし、お茶会自体にも慣れてきた。

 公爵家に来て半年以上。なんとか貴族令嬢としての皮を被ることができるくらいにはなったかな?


「そういえば貴族向けに売り出したダウンジャケットが流行ってるみたいですね」

「ええ、子供向けのも作って正解だったわ」


 午後のお茶を飲みながら、お母様とそんな話をする。最近、お茶会に行ったり招いたりすると、ダウンジャケットを着て来る令嬢をちらほらと見かけた。もちろん、私が最初に作ったカーキ色のおじさん向けのやつではなく、お母様がデザインしたレディース向けのオシャレでスタイリッシュなやつだ。

 元々は私やお母様が着て、お茶会へと出掛けて行き、広告塔になっていたのだが、それを真似する人たちが増えてきたのだ。

 あったかくて軽いダウンジャケットは評判が良く、すぐに貴族たちに受け入れられた。フィルハーモニー公爵家としてはウハウハである。

 同じように、エステルのユーフォニアム男爵家では庶民向けのダウンジャケットを作っていたが、最初はそこまで売れてはいなかった。

 しかし貴族の間で流行り出すと、まずは裕福な商人などから、次にオシャレをしたい若者を中心にと、どんどん売れていったという。


「来年になったら真似されてしまうんでしょうけどね」


 お母様が苦笑気味に話す。

 基本、商標権などない世界だが、それでも『この貴族家から売っている商品だぞ』というのを示す、いわゆるブランドロゴやシンボルマークは存在する。

 それをそのまま使って偽物を販売すれば捕まるが、独自のダウンジャケットを作って売るのは違法ではない。要は区別がつけばいいのだ。

 ダウンジャケット自体はそこまで秘密があるわけでもなく、真似しやすいからな。パクる商人は出てくるだろうな。質の良し悪しはあるだろうけど、それを選ぶのは消費者だ。


「にしても……いつの間にこんなブランドロゴ作ったんです?」

「うふふ、いいでしょう。サクラブランドよ?」


 私はダウンジャケットに描かれている、桜の花を模したロゴをなんともいえない目で眺めた。

 いつの間にか私のブランドが作られていた件について。いや、いいんだけどね?

 聞けば、例の野草化粧水やマニキュア、メヌエット女王国のカカオを使ったチョコレートなんかにもこのロゴが使われているらしい。

 知らん間に公爵家が取り扱う商品には、全てこのロゴが使われ、サクラブランドというものが確立していた。

 しかも商業ギルドに『サクラ商会』として登録されていて、その商会長には私がなっていたのだ。

 六歳児が商会長っておかしいでしょ……。あとサクラ商会だとなんか偽物っぽいんですが。そう感じるのは私だけだと思うけど。


「サクラちゃんが思いついたものを商品にして売るための商会だからそれでいいのよ。売ることは私たちがやるから、サクラちゃんは売れるものを考えてくれればいいわ」

「きがるにいってくれるなあ」


 売れるものを考えて、って、かなりの無茶振りだと思う。実際、化粧品もチョコレートも売れているようだけども。

 できることといったら、私の【店舗召喚】で呼び出した店で売っているものを、こちらの世界にあるもので作って売る……という感じになるかなあ。

 トマトの栽培がうまくいけばホットドッグも売れるだろうし。ティファのところと交渉して香辛料を安く手に入れられれば、カレーだって作れるかもしれない。

 食べ物ばっかだな……。まあ一番簡単に作れるからなあ……。

 あとはリバーシとか将棋とか玩具関係かな? コンビニにミニサイズのものが売っていて、お父様や皇王陛下にやらせてみたら意外と好評だった。

 こっちの世界にもチェスのようなものはあるから馴染みやすいんだろう。


「新しいものを売り出そうと作れば、それだけ仕事が増えて人手が必要になるわ。そういったことをするのも貴族の務めのひとつよ?」

「なるほど。新しく誰かの仕事を作り出せるわけですか」

 

 商売にはそういった面もあるか。私が何かを売ることで、誰かの仕事が発生してお金を得ることができる。そういう考え方はなかった。

 確かにリバーシみたいなのを売ろうとすれば木工師が、ハルジオンの化粧水を作ろうとすれば採取する人間が必要になってくる。

 私が売ろうとしなければ、その人たちには無かった仕事だ。

 『民が富まなければ領は富まず、国も富まない』とストラム先生が言ってたな。

 そこに暮らす民の生活から経済を回さなければならないわけか。

 ならば、やれるだけやってみよう。売れるものを考えるのは難しいかもしれないが、地球むこうで売れたものを考えることはできる。

 とはいえ、今は冬だからな……。動くのは春になってからかなあ……?

 私がぼんやりとそんなことを考えていると、扉をノックする音がした。

 お母様の『どうぞ』という声に続いて皇都公爵家のメイド長が顔を出す。


「奥様、パーティーの招待状が届きました」

「あら、どこからかしら?」


 お母様は招待状を受け取ると差し出し人の名を確認する。


「あら珍しい。カノン子爵家からだわ」

「カノン子爵家?」

「学芸で名を立てる者が多い貴族家でね、カノン子爵家はストラム先生の遠縁に当たる家よ」


 へえ、ストラム先生の。家系的にそういう血筋なのかしら。ストラム先生も元『学院』の教師だし。


「あそこの家はなんというか、学芸一筋という感じでね。あまりパーティーなどは開いたりしないものだから、珍しいな、って思ったの」

「あまり社交に重きを置いていないんですね」

「そうね。変に政治に関わってしまうと、学ぶのに障りが出てくることもあるから。それにストラム家と同じようにカノン家は『学院』の教師を務めている人も多いの。そういった意味でもどこかの家と特別親しくなるのは、ね」


 ああ、公平を謳う『学院』の教師が一部の貴族家と癒着していると見られるわけか。

 『先生、うちの子のテストの成績をこれでひとつ……』となんて賄賂をもらってたり? まさかね。

 考えすぎだとは思うけど、そう思われるのは嫌なんだろう。痛くもない腹を探られるのは面白くはないしね。


「やっぱりストラム先生繋がりで来たみたいね」

「行くんですか?」

「特に用事もないし、行こうかしら。クラウド様も大丈夫だと思うわ。サクラちゃんは……」

「お留守番してまーす」

「そうね」


 くすくすとお母様が笑う。こういったパーティーには、基本的に子供を連れていってもいかなくてもいいことになっている。

 もちろん子供がなにか粗相をするリスクを親が背負えるのなら、であるが。

 上級貴族の子供なんかは、けっこう親に連れて行かれるようだ。デビュタントの前に、今のうちから社交界に慣れておけ、ということなんだろう。

 面倒くさいので、私はパス。大人たちのパーティー会場で、ぼーっと見ているだけの置物になるのは御免だ。料理が美味しいわけでもないし。

 しかしカノン子爵家ねえ……? なにか引っかかるよーな……?

 『学院』の教、師…………。


「あっ!?」

「ど、どうしたの!? サクラちゃん?」

「い、いえ、なんでも! えと、お母様、そのパーティー、やっぱり私もついて行っていいですか!?」

「い、いいけど……。なんでそんなに鼻息荒いの?」


 思い出した! カノン子爵家ってあのカノン家か!


 ジェレミー・カノン。


 『スターライト・シンフォニー』における、エリオットと同じ攻略対象の一人。

 そして前世での私の一番の『推し』でもある。

 ジェレミーは『学院』の先生で、エステルの担任でもある。学校の先生、年上枠だ。

 紳士で優しくて、少し憂いを秘めた大人の包容力がたまらんのよ! 

 当時中学生だった私の胸を見事に撃ち抜いたね。まさか三十路の男性に心奪われるとは思わんかったよ。いや、相手はゲームのキャラだったけども。

 でも、この世界には本物のジェレミー先生がいる。本物の『推し』が。

 これが会わずにいられるかってんだい!

 ゲーム登場時は確か三十二歳だったかしら? なら今は二十二歳か。もうすでに『学院』の先生にはなっているはずだ。

 この時期なら冬季休暇で実家に戻っている可能性は高い。つまり会える可能性が高いってことよね!


「うおお、テンション上がってキタ────!」

「サクラちゃん? よくわからないけど、とにかく椅子から下りなさい。お行儀が悪いわよ」


 椅子の上に立ち、両拳を突き上げて吠えている私にお母様からお叱りの言葉が飛んできた。すみません、ちょっと取り乱しました。








 

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