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113/116

◇113 唐突に婚約者

あけましておめでとうございます。なろうでは初更新になります。今年もよろしくお願い致します。





『は、え、あの、な、なにを仰って、いるのか、よく……』

「僕と婚約しませんか、と言いました」

『聞き間違いじゃなかった!?』


 ぼふっ、と音が聞こえそうなほど、リーシャ皇女が真っ赤になってあわあわと狼狽える。

 かく言う私も、やっぱり聞き間違いじゃなかったと、頭に手をやる。いきなりなにを言い出すのだ、このアホ皇子は……!


「エリオット、あんたねえ……。皇国うちと帝国の仲の悪さを知っているでしょうが。どう考えても現実的じゃないわよ?」

「仲が悪いからこそ、だろう? 皇国と帝国が親戚になれば、友好国になれるかもしれない。少なくとも即戦争、という状態にはならないんじゃないかな?」

「えー……? そんなうまくいくかな……?」


 私がエリオットの提案を疑っていると、少し考えるそぶりを見せていたレティシア皇女がおもむろに口を開いた。


「……悪くない提案かもしれない」

『おっ、お姉様!?』

「まあ、お聞きなさい。リーシャがエリオット殿下の婚約者になれば、皇国と友好関係を結ぼうとしている貴族にとっては旗頭となるわ。そして、そこに私とフロスト兄上が加われば、ダルケル兄上も父上も無視はできない。帝国にとって貴方は重要な人物となる」


 ああ、そういう……。いわゆる帝国内にいる皇国派と呼ばれる貴族たちを一気に味方につけてしまえるわけか。

 よく考えてみたらそりゃそうか。うまくいけば次代の皇国の皇妃が帝国の皇女だ。その影響は計り知れない。その尻馬に乗りたがる貴族も多いだろう。

 皇帝もそれを無視して、この話を蹴ることは難しいと思う。下手したらその貴族たちに完全に槍玉に上げられるからね。


「リーシャ殿下を一気に重要人物にしてしまえるわけか……。確かにいい手だとは思うけど、皇王陛下と皇妃様がなんていうかなあ……」


 エリオットは皇太子である。当然、その結婚には国の思惑も絡んでくるはずだ。

 とはいえ、もともとのゲームでは私が婚約者だったしな……。あの夫婦、そこまでの損得は考えていないのかもしれない。


「父上と母上は僕が説得する。二人とも僕が気に入った人が一番いいんじゃないかって言ってたし、たぶんなんとかなると思うよ」

「……ひとつ聞いておきたいのですが。殿下がリーシャに婚約を申し込んだのは打算からですか? それとも同情で?」


 レティシア皇女が鋭い目でエリオットに視線を向ける。嘘は許さないといった目だ。


「打算も同情も全くない、とは言えませんが、リーシャ殿下を好ましく思っているのも事実です。彼女と話しているととても心が安らぐんです。同年代の女の子と話して、そんな気持ちになったのは初めてで……もっと彼女のことを知りたいと思いました」


 ……なんか引っかかるな。私らは心が安らげないって言われてる? エリオット、後でお話しようや。


「リーシャ殿下は素直で、真面目で、人に気遣いのできる、とても心の優しい方だと思います。ともに人生を歩むならそんな人がいいと……そう思いました」

「ふふふ。なるほど。リーシャ、貴女はエリオット殿下をどう思いますか?」

『ふえっ!?』


 話を向けられたリーシャ皇女が顔を真っ赤にさせて、わたわたと手を彷徨わせる。これはかなりテンパっているなあ……。


『わっ、わたしは、その、素敵な、人だと、は……思い、ます、けど……』


 リーシャ皇女がもにょもにょと小さな声で答える。

 素敵な人……? 本性は六面パズル大好きな、ド鈍いボンクラ皇子だよ……? ここってリーシャ皇女の夢の中だから、変なフィルターがかかってたりしない?


「サクラリエル……。もうちょっと表情を隠してくれるかな?」

「おっと」


 いかんいかん、顔に出てたか。


「リーシャの方が嫌でなければその話、前向きに検討させていただきます。もちろん、婚約までですが。くれぐれも私を失望させないようお願いしますね?」

「はい。ありがとうございます。後悔はさせませんよ」

『ううっ、勝手に話が進むよう……!』


 なんか当事者のリーシャ皇女を置いて、話がズンドコ進んでいるけど、これっていいこと……なのよね?

 リーシャ皇女の立場を良くするには、帝国にとって重要な人物であるとした方がいいんだろうな。その方が帝国が混乱しないために、手を出しにくくなるってことなんだろう。なら……。


「じゃあ私とは友達になりましょう」

『え?』


 私の唐突な発言に、わたわたしていたリーシャ皇女が目を点にしてこちらを向いた。


「もともと殿下たちは【聖剣の姫君】である私のことを調べにきたのではなくて?」

「そうですね。確かにその面もありました。ダルケル兄上は誇張された噂に過ぎぬと過小評価していましたが、フロスト兄上は慎重にいくべきと考えていたようです」


 過小評価ね。まあ、噂に尾鰭おひれがついていたのは確かだけれども。

 魔剣ディスコードが呼び出した影騎士や霊峰エルドラのアンデッドたちを私一人が倒したことになってたしね。あの話を聞いたら『いや、嘘だろ』ってなるよ、普通は。実際、嘘だし。だけどこの際、それも利用させてもらおう。


「その【聖剣の姫君】とリーシャ殿下が仲良くなって、友達になったら、帝国としてはどうしますか?」

「それは……なるほど。さらにリーシャの価値が上がりますね」

『また勝手に話が進むよう……。でも……友達……?』


 再びおろおろとするリーシャ皇女だったが、少し考え込むような素振りを見せる。あれ、嫌だったかな? 上辺だけの友達でも問題はないけど、どうせなら本当に友達になりたいんだけども。


「リーシャ殿下は私と友達になるのは嫌ですか?」

『そ、そんなことは! え、えっと……わ、私でよければ……お、お願いします!』

「その、ルカやティファのように呼んでもいいかしら。友達に接するように。抵抗があるなら……」

『い、いえ! リーシャとお呼び下さい! と、友達ですから!』


 リーシャ皇女……いえ、リーシャが真っ赤にした顔でにじり寄ってくる。おっと、意外と前向きだったようだ。


「では僕もリーシャと呼んでもいいですか? 婚約者ならそれくらいは許されるかと思うのですが」

『は、ははは、はい! どうじょ!』


 エリオットの言葉に慌てて答えたリーシャが噛んだ。くそう、可愛いな。この子、小動物のような可愛さがある。


《盛り上がっているところ悪いが、そろそろ帰還してくれぬか。我の霊力もしんどくなってきたのでな》


 リーシャの可愛さにほんわかしていると、琥珀さんからの声が届いた。それじゃそろそろお暇しますか。


「じゃあリーシャ。次は現実の世界で会おうね」

「リーシャ、向こうで待っていますからね」

「私の大切なリーシャ……。今までのこともこれからのことも、たくさん話しましょう」

『は、はいっ!』

《では、意識を戻すぞ》


 世界が光に満ちていく。私の目の前に真っ白な世界が広がっていき、やがて意識は途切れた。



          ◇ ◇ ◇



「……んお?」


 目覚めると知ってるような知らないような曖昧な天井が見えた。


「微妙な天井だ」

「あ、起きたのかい? サクラリエル」


 むくりと私が寝ていたソファから身体を起こすと、エリオットがこちらを向いていた。が、すぐに視線を前へと戻す。

 その先には泣きながら抱き合う姉妹の姿があった。あやや、一番寝坊したのは私か。

 私の膝の上に琥珀さんがぴょんと飛び乗る。


『無事戻ったようだな。ふう、少し疲れたぞ』

「琥珀さん、お疲れ様。後で『ラヴィアンローズ』のケーキを出してあげるからね」

『ホールで二つは欲しいぞ』


 はいはい。わかりましたって。


「サクラリエル様、お見事でした。さすがは【聖剣の姫君】。神々の寵愛を受けし方の御力、しかと拝見させていただきました」

「いやいや、大袈裟だから」


 ルーレットさんがうやうやしく頭を下げてくるが、勘弁してください……。そういうの本当に困るのよ……。福音王国で変に騒がれるとね……。

 リーシャが目覚めたという情報はすぐに広まり、皇国の者たちはみんな胸を撫で下ろした。

 招待した秋涼会で暗殺事件が起こり、帝国の皇族が亡くなったなんてことになれば、間違いなく戦争になっただろうからね。

 事件は同じ帝国の者が引き起こし、倒れた皇女も五体満足で無事に目覚めた。皇国としては、帝国の内輪揉めに巻き込まれた、という体裁を取ることができる。

 とはいえ、毒物を会場に持ち込ませてしまった不手際もあるため、こちらに非が全くないとまでは言えない。

 もっとボディチェックとかして、徹底して調べるべきだったか。あまり他国の招待客にそういうことをすると、『信頼していない』と言っているようなものだからできなかったんだよね。

 自国の者には徹底していたのだけれども。うちの国の者が毒を盛ったなんてことになったら大変だし。

 まあここらへんはお偉いさん同士での話し合いだ。向こうだって、自分の国の恥をことさら広めたいわけではないだろうし。

 今はそれよりももっと大きな問題がある。



          ◇ ◇ ◇



「────すまん、よく聞こえなかった……なんだって?」

「ですから、リーシャ皇女と婚約をしたいのです」


 エリオットの言葉に、いやいやいや、と笑いながらかぶりを振り、『こやつめ、ハハハ』と言わんばかりの笑顔を向けてくる皇王陛下。現実見ようぜ、おいたん。

 やがて本当だと理解した皇王陛下が焦ったように私に尋ねてくる。


「え? おい、サクラリエル、どうしてそうなった?」

「えーと……若さ故の暴走、ですかね……?」

「暴走が過ぎる!」


 知らんよ、お宅の息子に言いなさいよ。こっちだってびっくりしたんだから。


「エリオットはその、リーシャ殿下を好きになったということなの?」


 ズバリと核心を皇妃様が聞いてくる。母親としてはそこ気になりますよね?


「そうですね……。好きなのかな……? 一緒にいて楽しいと思いますし。あの人とならうまくやっていけると……そう思いました」

「そう……。なら私からは言うことはないわ」

「おい、リシェル!?」


 あっさりと認めてしまった皇妃様に皇王陛下が焦り出す。

 エリオットはその後もこの婚約にどういうメリットがあるかを懇々(こんこん)と説き、最終的には皇王陛下が折れた。


「エリオットにはプレリュードかメヌエットの王女をと考えていたのだがなあ……」


 あ、それは無理だよ。二人とも全くその気がないからね。

 なんだかんだでリーシャに決まって良かったような気がする。あの子がこの国の未来の皇妃様なら……悪くはないんじゃないかな?

 今は違うけど、ゲームでは私が婚約者だったんだよね……。なんとなく、やっと肩の荷が下りた気がした。

 


 




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