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◇105 接待のお仕事





「そんなことがあったなんて……。お力になれず申し訳ないです……」

「確かエステルは治癒系の『ギフト』を持っているんじゃったな。そう落ち込むな」


 しょぼんとするエステルにティファが慰めるように声をかける。

 エステルの持つ『ギフト』【聖なる奇跡】は、ただの治癒ではなく、病気も治してしまうとんでもない『ギフト』なんだけども、世間的には単なる治癒系の『ギフト』だとされている。

 あの場にエステルがいたら私もポーションのことを思い出すことなく、解毒を彼女に頼んでいたかもしれない。

 そうなるとエステルの『ギフト』がみんなにバレてしまう可能性もあったわけで。結果、エステルがその場にいなくてよかったとも言える。

 私たちは遠慮するエステルを強引にガゼボへと引き込み、これまでの出来事を説明していた。リーシャ皇女は大丈夫だろうか……。毒は消したし、あとは意識が戻ってくれたらいいんだけども。

 心配ではあるが秋涼会の接待役としては、この場を放棄するわけにもいかない。今頃、お母様や皇后陛下、お祖母ばあ様も事態の収拾に動いているだろう。

 事実はどうあれ、『少し問題がありましたが、もう解決しました。大したことじゃありませんよ?』というスタンスで押し通すしかない。

 あの侍女頭がどうやって毒薬を持ち込んだのか、他に仲間はいるのか、なんて疑問は全部後だ。ともかく私は任務を完遂するだけ。うむ。


「それにしても遅かったわね。そんなにトイレ混んでた?」

「いえ、戻ってくる途中、何人かの御令嬢に捕まりまして……。このドレスのことを根掘り葉掘り聞かれました。私より身分が上の家の方々でしたので、振り払うこともできず……」


 あー、そういうことか。私もだけど、このなんちゃってゴスロリ服はこの場では目立つからなあ。


「サクラリエルのと同じようなドレス。かわいい。私も欲しい」

「赤いのがあるならわらわも欲しいのう」


 ルカとティファにも気に入ってもらえたらしい。エルティリアちゃんはあまりドレスには興味はないらしく、さっき出されたコンビニのお団子をもぎゅもぎゅと口いっぱいに頬張っている。喉詰まるよ……?


「作ってくれた仕立屋クーチュリエを紹介するから、そっちで交渉してもらえれば。持って帰るのは無理かもしれないけど、後から国に届けるのはできると思うよ」


 さすがに二人の滞在期間中に作り上げるのは難しいだろうからね。

 エステルも迫られた御令嬢にそう言って切り抜けたそうだ。あとは仕立屋クーチュリエとの交渉次第ってことだね。

 ちなみにアイディア料として、あの仕立屋クーチュリエがゴスロリドレスを作るたび公爵家に幾らかのマージンが入ってくることになっている。

 私が決めたんじゃないよ。いつの間にかお母様と仕立屋クーチュリエの間でそーゆー話が決まっていたんだよ。さすがお母様、抜け目のない……。

 まぁそれぐらいちゃっかりしてないと、公爵家の嫁は務まらないのかもしれないけれどさ。


「それにしてもエリオット皇太子が秋涼会に飛び込んでくるなんて……なにを考えているのでしょうか? そう思いませんか、サクラリエル様!」


 エステルがぷんすかといった感じでエリオットに怒っている。まあ、褒められたことではないけども。実際、皇后陛下たちに連行されていっちゃったし。


「うーん……。だけども、エリオットたちが覗いていたから犯人がすぐ捕まったわけで……」

「それは結果論です! 婦女子を覗き見るなど貴族紳士のすることじゃありませんよ!」

「たぶん言い出しっぺはジーンだと思うぞ……。あの馬鹿の考えそうなことだ」


 怒りが収まらないエステルに、私の背後でビアンカがそう言いつつため息をつく。

 幼馴染として呆れてるのか、全てを諦めたのか。まあ私もジーンが言い出したんだろうなとは思ったけれども。そしてリオンはそれに巻き込まれただけと見た。可哀想に。

 だけど本当にあの三人が介入してこなかったら、今ごろこんな普通にお茶なんかしてられなかったと思う。

 間違いなく秋涼会は中止になって、ここにいる全員が犯人を探すために留め置かれただろう。

 主催者である皇后陛下、および皇太后であるお祖母様の面目は丸潰れ、皇族の権威は失墜していたかもしれない。

 ひょっとして帝国の第二皇子の計画もそれを含めてのことだったのかも。

 帝国の皇女を暗殺したことにより、帝国との戦争が勃発。皇族に対しての不信から国内はまとまることができず、不利な戦況になる……ひょっとして伝統派も煽って内戦までさせようとか考えていたのかもしれない。

 そう考えると行為自体は問題があったが、間違いなく彼らの行動はこの国を救ったのだ。

 そこんところちょっと考慮して、なるべくお叱りは手心を加えてほしいとは思うけども。


「しかし中立であった第四皇女が第二皇子と対立、第一皇子派に回るとなると……これは帝国は荒れるのう」


 ティファが虚空を睨みながらそんなことを呟く。

 他所よそ様の国を引っかき回そうとして、自分の国が引っかき回される羽目になるとは第二皇子も思いもしなかったろう。自業自得、因果応報、悪因悪果だ。


「帝国が内乱になる?」

「いや、さすがに皇帝も第二皇子もそこまで馬鹿ではあるまい。水面下での暗躍はあるじゃろうがな。だが、他所よその国に手を出している状況ではなくなったじゃろ。メヌエットとしてはありがたいがの」


 ルカの質問にティファがそんな見解を示す。ティファのところのメヌエット女王国も帝国と国境を接している。

 うちとは違って間には砂漠があるから、そう簡単には侵攻できないだろうけど、女王国と帝国も決して友好的な関係ではない。過去に何回か侵略行為をされているらしいし。


「我々としては王位継承争いに勝ってほしいのは第一皇子側じゃ。母上に今日のことを知らせれば、第一皇子派と接触しようとするじゃろうな。皇国もそうじゃろ?」

「たぶんね。宰相さんあたりが動くだろうなぁ……」


 あの抜け目のない宰相さんがこのチャンスを逃すわけがない。間違いなく動くね。こっちには七音の一族という切り札もあるし、向こうの情報はすぐに手に入ると思う。

 それにここまで小細工されて、皇国としても黙っているわけにはいかないだろう。ここらでガツンとやってやらにゃ……!


「サクラリエル様、そろそろ他の方々にも御挨拶周りに行かれた方が……」

「えー……?」


 私が帝国への怒りを燃やしていると、おずおずと後ろに控えていた律が話しかけてきた。

 この会場(未成年エリア)のホストである以上、ずっとここにいるわけにもいかない。……いかない? ダメですか、そうですか。はぁ、行けばいいんでしょ、行けば。


「ちょっと回ってくるわ……」

「接待役は大変じゃのう」

「がんばれ」

「頑張って下さい!」

「わ、私もついていきましょうか?」


 エステルがついてこようとしたが断った。変に特別扱いすると、ややこしいことになるかもしれないし。

 まあ、この席にいる時点で手遅れかもしれないけどね……。


「とりあえずどこから行けばいいのかな?」

「えっと、まずは侯爵家の方々のテーブルからですね。あちらです」


 ビアンカを連れてガゼボを出て、そのまま律の教えてくれた先に向かう。

 皇国に公爵家は四つあるが、私のフィルハーモニー家以外の三家には未成年者がいない。まあ、だからこそエリオットの婚約者相手に私が筆頭で挙げられたわけだが。

 確か残りの公爵家はコンチェルト家とコーラス家とファンタジア家。

 このうち、コーラス家とファンタジア家は五代ほど前の王族から分かれて興された家で、王家の血を引いてはいるが、もはやかなり遠い。

 フィルハーモニー家が今の皇位継承順位でいくと、この中では一番上なのだが、その次に続くのがコンチェルト家だ。

 この家の当主は女性当主で、先代の皇王陛下の妹であった人らしい。

 つまり今の皇王陛下とお父様の叔母、私の祖父の妹に当たるのだ。この方が皇位継承順位でいうと私の次、第四位の方になる。

 まあ、御年齢が皇王陛下よりもかなり上の方なので、現実的には第五位の人が即位することになると思われるが。

 いや、そこまでいくには皇王陛下、エリオット、お父様、私の四人が亡くなったという状況が必要なんだけどもね。

 なので、我が国の未成年参加者で次に地位の高いのは侯爵家となる。

 エリオットの誕生日パーティーで挨拶はしたのだけれども、正直言ってあまり覚えていない。

 それにあのラグタイム侯爵令嬢のインパクトが強くてね……。

 もうラグタイム侯爵家は改易になったのでこの場にはいないが、もしいたら取り巻きA……アンネマリー嬢に挨拶に行かないといけなかったのだろうな。伝統派の筆頭家の令嬢だったし。

 とりあえず今回挨拶に行く侯爵家が率いるグループは、私たちの家の敵対派閥じゃない。中立派ってところだ。

 だから名前とか覚えていないんだけども……。


「あちらの真ん中の席にいらっしゃるのがリフレイン侯爵家のメルフリース・テラ・リフレイン様です」


 さすが律。できる側仕えを持って私は幸せだよ。

 私がテーブルに近づくと、皆がその場で立ち上がり、軽いカーテシーで挨拶をしてくれた。メルフリース様を入れて全部で五人。まあ間違いなく全員中立派の家の子供たちだろう。


「ご機嫌よう、メルフリース様。楽しんでいただけてますでしょうか?」

「ご機嫌よう、サクラリエル様。見たこともないお菓子や飲み物ばかりで、先ほどからとても驚いております!」


 メルフリース様は私と同じくらいの御令嬢だ。同じくらい、とは年齢がであるが、身長ははるかに負けている。たぶん六つか七つだと思うんだけどな……。最近の子ってデカくない? 私が小さすぎるだけ? ちゃうわい。

 メルフリース様は少しウェーブのかかった明るい栗色の髪を肩まで伸ばした、快活そうなお嬢様だった。

 

「特にこの栗を使ったお菓子はとても美味しくて! まさか栗がこんな甘くなるなんて!」

「モンブランですね。お気に入りいただけてなによりです」


 メルフリース様はテーブルの上に置かれたモンブランを絶賛する。この国だと栗は焼き栗か蒸し栗くらいで、甘露煮みたいにはしないみたいだからね。まあ、砂糖も高いし、栗もあまり取れないらしいから仕方ないと思う。


「我がリフレイン領では栗が採れる山がいくつかあって、秋になればよく食べるのですけれども、こういった栗のお菓子があるとは思いもしませんでした」

「リフレイン領では栗がたくさん採れるのですね」


 ほほう。それなら【店舗召喚】を使わないでもモンブランを作れるかもしれないな。お父様に頼んでリフレイン領の栗を……ん? んんん?


「リフレイン……メルフリース……」

「はい?」

「あ、あの、失礼ですけど、メルフリース様には双子の御姉弟ごきょうだいがいらっしゃいませんか?」

「え? は、はい、王都にはいませんが確かにベルフリートという双子の弟がおりますが……」


 はい、ビンゴー。

 しまった……。リフレインって名前で思い出せよ……。

 この子、エリオットやジーンと同じ、『1』の攻略対象の双子のお姉ちゃんだよ……。







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