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「もしかして、これは金貨かい?」

「そうだよ。見れば分かるだろ?」


さも当然、といった顔をする妖精に、老婆は言った。


「実物を見たのは初めてなんだよ。貧乏人には、金貨なんて縁のない代物なのさ」

「……これは人間が、この森に隠していた、お宝さ。僕たちには必要のないものだから、君にあげるよ」

「こんなに、いいのかい? こんなにあったら、村の衆がお腹いっぱい食べれるねぇ」


老婆の言葉に、妖精は渋い顔をした。


「そのお金は、君にあげるんだよ。人間は欲深いものさ。こんな大金見せたら、どう変わるかわからない。家族に身ぐるみ剥がされて、またこの森に戻ってこないでよ?」

「でも、このお金があれば、年老いた人間が山に捨てられることが減るかもしれないよ。今年は干ばつで畑がだめだったんだよ。餓死者が出てもおかしくないぐらいなんだ。渡さないと、捨てにくる人間が増えるだろうね」


淡々と客観的な事実を口にする老婆に、妖精は白旗を上げた。


「わかった! わかったよ! 君はお人好しだね! じゃあ、半分だけ、君の息子に届けておくよ! だから、君はもう村には戻らないと約束して!」

「ありがとう、親切な妖精さん」


どうせ村には戻れない。最後まで反対していた息子は喜んでくれるだろうが、息子の嫁には二度と戻らないでくれと言われていた。

息子の嫁とは同居していたが仲が悪く、敵視されており、ずっと居心地が悪かった。


(もう、あの家に私の居場所はないからね。……息子の憂いが減るなら、これ以上嬉しいことはないよ)


ただ、愛する息子に何も残してやれなかったのが心残りだった。


(あれだけ働いても、ちっとも生活が楽にならなかったからねぇ……)


妖精のおかげで、心残りはなくなり、老婆は晴れやかな気分だった。


老婆は若返りの薬を飲んだ後、「こんなに魔力高いのに、魔法が使えないなんて、宝の持ち腐れだね」と、薬が体に馴染むまで、妖精から魔法を教えてもらった。


「自分の時間なんて、持つのは久しぶりだね……」


老婆──見た目は若くなったサマンサ──は、ぼんやりと、バチバチと燃え盛る焚き火の炎を見つめた。


「そういえば、若い頃は冒険者になりたかったんだっけ。せっかく若返ったんだから、何かに挑戦してみるのも悪くないかもしれないねぇ。……それなら、ギルドのある町に行くとするかね」

「なになに? サマンサ、町に行くの? 僕も付いていって、いい?」


頭の中の考えを呟きながら整理していると、すっかり仲良くなった妖精が現れて、サマンサの頭の上に座った。


「妖精さんも来るのかい?」

「この辺りは、たまに魔物が出て危ないからね。町ぐらいまでは送るよ。あと、妖精さんって言うのやめておくれ、ファビーという素晴らしい名前あるんだから」


サマンサと妖精ファビーは、山を2つ越えて町に辿り着き、ギルドに冒険者として登録した。


「この町に来たのは久しぶりだけど、なんだか様変わりしているねえ。家も増えたし人も増えたし、……なんだか人が多すぎて、酔ってしまいそうだよ」


サマンサの記憶にある町の様子は一変していた。道には屋台が立ち並び、所狭しと威勢のいい掛け声が上がっていた。


「サマンサ! あれ、なに……!? すっごく、いい匂いなんだけど……!」

「それは私も分からないね。フライドポテトとは書いてあるけど、味が想像出来ないよ」

「フライドポテトを知らないのかい? 一見さんだね? ほら、すこし試食してごらんよ、美味しいよ!」


町では異世界から召還された人間がもたらした食べ物が多く売られていた。


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