9 隠し通路
嵐がやってきた。
天の水底がひっくりかえったような大雨が、時をきざむごとにそのいきおいをまし、日が暮れたころになると、猛烈な風と雷鳴とが、赤い屋根のちいさな家をおそった。
こんなにひどい嵐は、アンナもニックも、はじめての経験だった。
家中の壁が、ギシギシと音をたててきしみ、いたるところで雨もりがしている。
ふたりは迷路のような家をかけずりながら、手わけしてバケツをおいたり、屋根の穴をふさいでまわらなければならなかった。
「ニック、もう板がないわ!」
「こっちもだ!」
たりなくなった道具をとりに、ふたりは倉庫へと走った。
ガタガタと窓がなる廊下をとおりぬけ、洞にそって螺旋状にまがった階段を、ぐるぐると降りていく。
ようやくたどりついた倉庫は、まっ暗でしずまりかえっていた。
アンナは手さぐりで火打石を探しだし、ランタンに火をともす。
ゆらゆらとした、たよりない灯りに照らされたそこは、ほこりっぽく、すこしぶきみな雰囲気につつまれていた。
たてながの洞に、うずたかく積みあげられた棚には、工具や材木がところせましとつめこまれている。
ふたりはいそいで、使えそうな板やくぎなどを集めていった。
その時だ――。
ひときわ強い風が吹き荒れ、家がぐわんと横だおしになった。
「きゃあ!!」
「あぶないッ!」
大きな棚がふたりの真上へたおれてくる。
かんいっぱつ横へころがり、下じきにならない場所へ避難する。
次の瞬間、けたたましい轟音とともに棚がたおれ、板や工具があたりにちらばった。
心臓が胸から飛び出しそうなほど、バクバクと音をたてている。
「……ア、アンナ、無事?」
「あ、ありがとうニック……だいじょうぶよ」
しかし、倉庫はめちゃくちゃだ。
さいわい家がひっくりかえることはなかったが、散乱した家具を前に、ふたりはとほうに暮れた。
「……もしかして、これ、かたづけなきゃいけないの?」
「……考えたくないなぁ」
ふたりは同時に、はぁ~、と大きなため息をついた。
「――……あれ?」
ふと、視線をあげたアンナは、おかしなものを見つけた。
棚があったところの壁に、ぽっかりと大きな穴があいている。
「こんなところに、穴なんてあったかしら?」
不思議に思ってのぞきこめば、それは穴ではなく、ひどくせまい通路のようだった。
この家に、自分たちの知らない場所があったなんて。
まるで隠し通路のように、こつぜんと現れたそれは、かなり奥のほうまでつづいている。
ふたりは、ごくり、と息をのむと、好奇心に瞳を輝かせた。
「「……いってみよう!」」