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大樹の冒険  作者: 天川藍
7/22

7 大空洞の村


ポコロ族の村は、大樹のまんなか、(みき)にぽっかりとあいた大空洞(だいくうどう)のなかにある。


アンナとニックは、荷車に焼きたてのお菓子をつめるだけつめて、ちいさな家を出発した。


枝道(えだみち)を西へ進むにつれて、しだいにあたりが暗くなり、緑のにおいが濃くなっていく。

(みき)の周辺は、いつもこんなかんじだ。

昼でもどこかうす暗く、じめじめとコケむしている。


日あたりのよいアンナたちの家のまわりとは、えらいちがいだ。

いくえにもかさなった大樹の枝葉(えだは)に、太陽がさえぎられ、空さえもろくに見ることができない。


しかしながら、そのぶあつい葉っぱのカーテンのおかげで、村はいつも、つめたい雨や風から守られている。

――だがしかし、嵐となれば話はべつだ。


「あ、いま、風笛(かざぶえ)が鳴ったわ」


アンナの耳に、遠くで尾をひくような低い音が、かすかにきこえた。

風笛(かざぶえ)とは、大樹のあちこちにつりさげられた筒状の笛で、強い風が吹くと、自然に音が鳴るようにつくられている。


重く大気をふるわすその音色は、嵐が近づいてくるまえぶれだ。

しかしまだその音は弱く、村の人たちには届いていないだろう。


「……いそごう」


ふたりは足をはやめて、荷車をおす手に力をこめた。



   *     *     *



しばらくいくと、目の前に巨大な壁が見えてきた。

いや、壁ではない。それは、あまりにも圧倒的な、大樹の(みき)だ。


そそりたつ絶壁のような幹のなかほどに、ぽっかりとあいた大きな穴。

あれこそが、ポコロ族の村の入口である。


そぼくな幾何学(きかがく)模様(もよう)が彫りこまれた巨大な門をくぐると、なかは吹きぬけの大広間になっていた。


首が痛くなるほど高い壁面には、広間をぐるりととりかこむ回廊(かいろう)がなん層もかさなり、その奥からにぎやかな音や話し声がもれてくる。


回廊のむこうには、大小さまざまな横穴があいていて、そのさきに家や、お店や、図書館などがひしめくようにならんでいる。


横穴は迷路のようにいりくんでいるため、それぞれの通路のさかいには、あざやかな織り目の布が、空間を遊ぶようにたれさがっていた。


アンナは瞳をほそめて、ほう、とため息をついた。

壁や床は、ほとんどが光るキノコやコケにおおわれていて、大空洞(だいくうどう)の全体をほんのりと明るく照らしている。


そこはまるで、光と色の洪水のようだった。


「いつきても、ここはにぎやかね!」

「うん」


ふたりは足ばやに、大広間のまんなかにある市場へとむかった。

お昼すぎという、もっともにぎわう時間帯だけあって、市場へとつづく道はたくさんの出店で活気づいている。


にこやかに声をかけてくれる村人たちへ、手をふりかえしながら、ふたりは市場のはしに荷車をとめた。

そこには、大きなニレの切りかぶがあって、お菓子をならべるにはうってつけなのだ。


なれた手つきで、赤いチェックのテーブルクロスをひろげ、おばあちゃんのケーキやパイを荷台からおろしていく。


そうこうしているうちに、いつのまにか、ふたりの周囲には人だかりができていた。


「おや、東の枝のふたごじゃないか! 元気にしてたかね?」

「あらまあ! そっちの枝では、もうポムの実が食べごろなの?」

「焼きたてのいい匂い! おひとつくださいな!」


あっというまにお客さんが集まってくる。

アンナは、あわててたちあがると、両手をひろげて声をはりあげた。


「ま、まってまって! 順番にならんでくださーい!」


それからは、目がまわるような忙しさだった。


ちなみにポコロ族のお金は、特別な焼き印をおした〝どんぐり〟である。

パウンドケーキはどんぐりひとつ。パイもひときれ、どんぐりひとつ。焼きポムとコンポートは、どんぐりふたつと交換だ。


アンナが注文をうけてお菓子をわたし、そのうしろでニックが、せっせと切りかぶに商品をならべていく。


あんなに大量にあったお菓子の山は、みるみるうちになくなっていった。


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