表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大樹の冒険  作者: 天川藍
2/22

2 赤い屋根のちいさな家

ポコロ族の家は、(みき)や枝にぽっかりとあいた(うろ)のなかにつくられる。


家の形にこれといった決まりはなく、それぞれが好みの枝を探しては、自由におもいおもいの理想の住みかをたてるのだ。


アンナとニックは、枝道(えだみち)をかけ走り、赤い屋根のちいさな家へと帰りついた。


青あおとしたツタにおおわれたくぼみに、こぢんまりとおさまった白壁(しらかべ)

そこには、大小さまざまな丸い小窓があって、そのうちのひとつから、とてもよい匂いがただよってくる。


「ただいまー! おばあちゃん!」


「たいへん! たいへん!」


ふたりは競うように玄関マットをふみこえ、細い廊下をドタドタと走りぬけた。


アンナたちの家は、ななめ上へむかってのびる枝の(うろ)のなかにある。

けっして広くはないが、ちいさい部屋がいくつもあって、その数は両手の指よりも多い。

せまい廊下は迷路のようにまがりくねり、なかには、はしごを使わないとたどりつけない部屋もあるのだ。


アンナは、この冒険心くすぐるちいさな家を、とても素敵だと思っている。


おばあちゃんがいるキッチンは、東のいちばん奥にある。


開けはなった丸い窓から、さわやかな朝日がはいりこみ、かまどにかけた大鍋(おおなべ)からたちのぼる湯気(ゆげ)が、ゆらゆらといい匂いをはこんでくる。


いつもの、おだやかな朝の風景だ。

しかし、ふたりのそうぞうしい足音によって、その空気は一変した。


「嵐がくるわ!」

「嵐がくるよ!」


ふたりは同時にさけんだ。

あわただしい孫たちの登場に、大鍋をかきまわしていたおばあちゃんは、ゆっくりとふりかえった。


「あらあら、それはたいへんだこと」


のほほんとした声でこたえながら、ちいさなおばあちゃんは、かまどで焼けたどんぐりパンをお皿にならべ、ダイニングへもっていく。

ふたりの言葉に、あわてるそぶりはまるでない。


アンナたちは顔を見あわせた。

嵐というのがきこえなかったのだろうか?


いや、それはない。おばあちゃんはもともと、とてつもないのんびり屋さんなのだ。


アンナとニックは、バタバタとおばあちゃんのそばへかけよると、両わきから花がらの()しゅうがはいったエプロンを引っぱって、かわるがわるに口をひらいた。


「ねぇ、嵐よ? 嵐がくるのよ!? いそいで家中の雨戸(あまど)をしめなきゃ!」

「外にほしているキノコや薬草も、とりこまないとダメになっちゃうよ!」


おばあちゃんは、そんなふたりの頭を、やさしくぽんぽんとなでた。


「そうかいそうかい。それなら、しっかりごはんをお食べ。ちょうど、おいしいパンが焼けたところなのよ」


「そんな(ひま)ないって!」

「いますぐ作業にとりかからなきゃ!」


せわしないふたりの態度に、おばあちゃんはすこし強い口調でいった。


「アンナ、ニック。たいへんな時ほど、おいしいものをたくさん食べなきゃいけないよ。それが、元気の(みなもと)だからね」


「「……元気の、みなもと?」」


ふたりはそろって首をかしげた。

おばあちゃんはたまに、こうやって、よくわからないことをいう。


「それにね」


おばあちゃんは、ふわりと笑うと、窓の外へ目をむけた。

開けはなった窓からは、そよそよと、ここちよい風が流れこんでくる。


「このぶんなら、夜まで嵐はやってこないよ」


なぜ、そんなことがわかるのだろう?

ふたりはますます困惑した。


アンナとニックのおばあちゃんは、うんと長生きしているぶん、とてももの知りだ。

もしかしたら風の声だって、きこえるのかもしれない。


とにもかくにも、こうなってしまったら、ごはんを食べおわるまで作業をさせてもらえそうにない。


アンナとニックは目くばせすると、大急ぎでスープを食器へよそうのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ