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大樹の冒険  作者: 天川藍
15/22

15 未知の樹壁へ

大樹の中心――天までそそりたつ巨大な(みき)へたどりついたころには、東の空が白みはじめていた。


ニックを助けるためには、ここから断崖絶壁ともいうべき大樹の幹を、たったひとりで降りていかなければならない。


アンナは細い枝に足をかけ、まじまじと大樹の下をのぞきこんだ。

ここからさきは、完全に未知の領域だ。


巨大な垂直の樹壁(じゅへき)には、階段はおろか、道らしい道もなく、ところどころに手つかずの荒れたしげみがいく手をはばんでいる。


さいわい、アンナがギリギリとおれるほどのみぞ(・・)や、太いツタがいくつも巻きついていて、これらを利用し、壁面へはりつくようにすれば、どうにか降りることはできるだろう。


ただし、ひとたび足をふみはずせば、奈落の底へまっさかさまだ。


「……やってやろうじゃない」


気合いをいれて、目もとにしたたり落ちてきた雨水を手ではらう。

覚悟はすでにできている。


アンナは、ゆっくりと両手を壁面へはわせ、しんちょうにせまい樹壁(じゅへき)のみぞをくだっていった。



   *     *     *



それは、想像していたよりも、ずっと困難な道のりだった。


壁面には、さまざまな植物が根をはっていて、そのからみあった枝葉を、ひとつひとつナイフで切り落としながら、アンナはさきへすすんだ。


夜中の悪天候にくらべると、すこし風はおさまっていたが、強い雨がなおもザァーザァーと降りしきっている。

雨でぬれた足場は、とてもすべりやすくなっていた。


視界も悪く、すすんだ道がたまに途切れたり、通れないほど先細ってしまうので、そのたびにもときた道をひきかえし、新たなルートを探さなければならない。


そうやって行っては戻り、行っては戻りをくりかえしているうちに、アンナはだんだんと意識がもうろうとしてきた。


無理もない。結局あれから一睡もしていないのだ。

しかしそれでも、アンナはニックを助けたい一心で、けんめいに足を動かした。


「……まってて、すぐに、すぐにいくから」


荒い息をはきながら、頭上を見あげる。

遠くのほうに、ちいさなしげみがゆれていた。おそらくアレが、最初に降りてきた地点なのだろう。


アンナは落胆した。

ずいぶんと時間がたったはずなのに、まだこれっぽっちしか進んでいないのかと思うと、もどかしいあせりがわいてくる。


「……いそがなきゃ」


いまごろニックは大怪我をして、苦しんでいるかもしれない。

根の国で、恐ろしいめにあっているかもしれない。


いやな想像がつぎつぎと浮かんで、アンナは不安でいっぱいになった。

しかし、はやる気持ちに反して、じょじょにまぶたは重くなり、視界が白くかすんでいく。


「――わっ!」


ふいに、太い枝を切り落としたとたん、足もとのしげみがごっそりと崩落した。

あやうく落ちかけたところで、とっさに頭上の枝をつかみ、からくも難を逃れる。


「……あっぶない」


アンナは、冷や水をかけられたかのように、さーっ、と背筋を凍らせた。

足もとには、鈍色(にびいろ)雲海(うんかい)がとぐろを巻いて、ゴロゴロと不穏な音をたてている。


アンナは震える手に力をこめて、なんとかもとの場所までよじのぼった。


「……なにやってるの、わたし!」


アンナは大きく頭をふった。

しっかりしなきゃ、と心では思っても、すでに体は限界だった。


このままでは、ニックを探しだす前に、自分が命を落としてしまう。


「……すこしだけ、……すこしだけ、休もう」


アンナは、風よけに使えそうな(うろ)を見つけると、重たいリュックサックをどさりとおろし、ぬれたマントをぬぎすてた。


そして、そのまま倒れるようにうずくまると、たちどころに泥のような深い眠りへ落ちていった。


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