一歩踏み込む勇気と蛮勇と無謀
奇妙な感覚があった。自分が作り変えられるような……
「私は、ここどこ?」
キョロキョロと首を振って周りを見ると、白塗りの壁が見えた。壁には一切のの汚れや染みがなく、目がチカチカして落ち着かない。
「君は誰?」
また首を振ると白い髭を蓄えた子どもが近くに立っていた。目に悪い悪趣味な塗装も彼の嗜好だろうか。
「……」
もう一度首を振ると何もなくなってしまった。髭を蓄えた子どもは視界から消え、目に優しくない白壁だけが見える。
ここは違和感だらけだ。違和感がある度に新しい違和感が塗りつぶしていく。
「私は死んでしまったのでしょうか」
もはや思い当たるのは神か天国かしかなかった。
「どなたかいますでしょうか?」
「……」
「反応はなし、と」
神様に使う敬語なんて知らないので適当に喋りかけるも反応はない。
いよいよここがどこなのかわからない。
「まあ、いっか」
何も考えずに身近な物から観察しよう。とりあえず手近な壁に凭れつつ立ち上がる。
……フニ。
「あれ、やわかい?これは何だ?」
壁だと思っていたものは明らかに感触がおかしく、マシュマロにのような柔らかさと弾力を持っていた。しかして壁として直立するだけの固さがある。
……。
…………。
………………。
カチン。
暫く夢中で触っていると鍵が嵌ったような感覚を手に感じた。そのまま手に任せて壁を弄っていると鍵の開いたような音が聞こえ、眼の前が開けた。
「なんじゃこりゃ」
……今、目に見えた通りに話すぜ。壁だと思っていたものは大きな門だったらしい。視界が開けるとそこには青空と石畳、ついでに夕空も向こうに見えた。
後ろを向くときちんと青空があった。なんてこった。
「私は大きな物を見落としていたようだな」
「……」
「とりあえず中に入っとくか」
門の閉め方もわからないのでとりあえず勝手に入ってやろうと思う。中には操作盤もあるだろう。閉めてあげた方が断然いいっしょ?
ギギギギギギ。
バタン。
中に入ると勝手に門は閉まってしまった。
「謎機構……えー……」
本当によくわからない技術だけど閉まるんならそれ以上はない。私は怒られる心配がなくなったことに安堵しつつも、少しだけ勝手に閉まったことが気がかりであった。
そんな違和感は置いておき、とりあえず門の中を散策しようと思う。できれば屋根のある寝床を見つけたい。
「いや何もないんだけど。てか門の中に石畳がある癖に建物が1個も見えないのおかしくない?」
変に不気味な光景に動悸がする。明らかに心霊現象とかそっち系が起こりそうな予感がする。いつだって予感だけで、実際心霊現象にあったことはない。しかし世界に1人だけしかいような感覚は心細かった。
とりあえず喋りまくろう。霊は独り言やしりとりで撒けるとどこかで聞いた。話題に詰まったら、次はしりとりだ。
「いやなんもね〜。建物なんて欠片もないし、人影もまるでないし。虫すら見かけないんだけど」
門の中は街並などなく、ただただ空虚であった。地面は一帯が石畳であり、足跡すら観察することはできない。
フワリ
風は少し身構える程冷たかった虚しさに圧し潰されそうになる。頭が冷えてしまうと余計なことを考えてしまう。私は1人なんじゃないか。
……そういえば私は誰だ?ここに来る以前の記憶がない。知識として街や人は知っている。でも何も知らず何も覚えていない。
風が苦しい。
「……は?」
……風はどこから来たのだろうか。ふとしたことだが何かとてつもなく嫌な予感がする。
風の吹いた方へ急がなきゃいけない。
走り始めた途端、風は強くなり始めた。近づく程強く吹いてくる。
「まずいまずいマズい!」
どんどん風が強くなる。もう意味わからん強さで普段ならどこかで見た面白映像のように吹き飛ばされても可笑しくないんじゃなかろうか。でも足は止まらず、風を切り裂いて……そんな優雅じゃないが、風にぶつかるようにしてその奥へ進んでいく。明らかに感覚以上の出力が出ているが後日筋肉痛になって返ってきそうで怖い。
シーン
……風が止まった。体は大きな一歩を踏み出して未だ空中にある。
一瞬、ほんの僅かな一瞬で私は下の景色が見えてしまった。
崖だぁ。
でもそれ以上に、明るい。灯りがいくつも見え、好物のボアを焼いた匂いがする。久しぶりに匂いを感じた。嗅覚が脳を活性化させる。
私は記憶喪失だったかもしれない。でも思い出した。私は“ライン・エアフォート”。空魔長の父を持ち、機械弄りが好きでこの間死にかけた馬鹿だ!PTSDの治療でフロイト館医と出会ってから眠気が酷かった。きっとこれも夢なのだろう。夢で死ぬと覚醒するんじゃなかったか。なら崖から飛び降りることで現世に戻ろう。
ダンッッ!!
思いの外強い衝撃と痛みを感じた瞬間、眼前は真っ赤になって意識は消失した。
読んでいただいたことに感謝
プロットはありますがあまりに遅筆なせいで見切り発車のようなものとなっております。ご容赦ください。