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【完結】暑苦しい公爵子息から告白されました  作者: 桜海冬月
最終章

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目覚め

「お目覚めですか」


わたしが目を覚ますと、目の前にはハンスがいた。

ハンスから黒き魔術を取り除いたあと、意識を失ってしまったらしく、わたしは何処かの医務室に運び込まれたらしい。

ハンスの状態が不安だったけど、辛そうな様子もなく体に後遺症を抱えている素振りもないので、神官が上手く処理してくれたようだ。


「ここは?」

「フォリン大聖堂です。私も意識を失っていたものですから当時の詳細は人伝でしか知らないのですが、フェンリルとの戦いの後で救護の神官が到着して、私たち二人が特に重症だと判断されたのでそのまま大聖堂で治療を受けることになったようです」


コルネリウスが呼んでくれていた救援は何とかハンスが限界を迎える前に辿り着いたようだ。


でも、わたしも重症?


魔力を失くしているわけだし無傷ではないと思うけども、ハンスに庇われたお陰で外傷も黒き魔術を直接受けることもなかったはずだ。


「わたしも重症だったのですか?」

「ええ。むしろ原因も対処方法も分かっていた私よりも、パウリーナ様の方が重症で危険な状態だったそうです。治療のあとに話す機会があった上級神官によると、パウリーナ様は意識を失ったまま魔力を各所に放散した状態で、大量の血を吐いていたそうです」

「血ですか?」


ハンスは頷いた。

大量の魔力を放出し続けたことで体がその圧に耐えきれずに血管の破裂に繋がったのかもしれない。

内部出血の対処をしなければならなかったならハンスの言う通り、出欠箇所を探しながらの治癒魔法で、術式も高度になるから、確かにわたしの方が重症だ。


「アンリエット達も急に私の方に駆け寄ったと思ったら大量の魔力の移動が見えて、気付いたらパウリーナ様が地面に倒れ伏したと言っていました。説明を聞いてもよくわからなかったので、何があったのか教えてくださいませんか?」

「はい。分かりました。あまりに荒唐無稽で証拠のあるものでもないので、信じてもらえない可能性もありますが·····」


わたしはハンスに夢の中で癒しの女神とおぼしき女性に邂逅したこと、その女神からハンスを助ける方法を教わって協力してもらったことを話した。

そして勿論、魔力の前借りという不思議な手法を用いた副作用でわたしの魔力がほとんどなくなっていてこれからも回復する見込みが薄いことを話した。


「今のパウリーナ様の周りには以前とは比べ物にならないほど魔力が少ないとは思っていましたがそういう事情があったのですか。······ですが、それはつまり上級貴族としての資格を失うことになりますよね」


ハンスは沈痛な面持ちで返した。ハンスを助けるためにわたしが地位という名の犠牲を払ったことに対して多大な責任感を感じているようだ。


「まあ、そうですね。でも、後悔はしていませんよ。そもそもハンス様が黒き魔術の攻撃からわたしを守ってくれなかったらこの世界で息をすることも存在も消えてしまっていたのですから。それに比べれば魔力がないことくらい軽いものです」


わたしの言葉を真剣に聞いていたハンスが話し終わった途端に泣き崩れた。


「私が、不甲斐なかったばっかりに、貴女の大切なものを奪ってしまいました。償っても償いきれない罪です」

「ですから、もう一度言いますがハンス様のお陰で今生きていられるのです。魔力くらい本当にどうってことないんですよ。それよりも······」

「ですがっ!魔力自体は確かに命に比べれば軽いものかもしれませんが、魔力は貴族にとっては自分の地位を示すものであり命同然のものです。そんな大切なものを、私なんかのために捨てさせてしまった」


この後数回同じような遣り取りを繰り返したが、あまりにも長く迷宮のような言い合いだったので割愛させてもらう。


責任を感じるのは別にいいけど、人の話を聞かない点と場所を弁えずにうるさくする点は切実に直してほしい。

ここは神殿、それも格式高いフォリン大聖堂だ。大聖堂内部には厳かな装飾が為されていて、どう考えても喧騒は似合わない。

そもそもここは医療用の区画なのだ。当然、わたしたちや治療を請け負う神官たちの他にも怪我人や病人がいる。

彼らはわたしたちの無限ループする遣り取りを聞いていて楽しいはずもないし、むしろ頭に響いてすごく迷惑に思っていることだろう。


そして、責任を感じるのは何度も言うようにいくらでも勝手にしてもらって構わない。

責任を感じられる当の本人のわたしが感じる必要がないと言っているのだから、心中でどう考えるかは別として、少なくとも表面上は責任の念を収めてほしい。


「もー!本当にいい加減にしてください!わたしはわたしの好きな人に悪感情を進んで抱きたくはないのです。これ以上責任が何だのとか言ったら怒りますし、最悪ハンス様のことも嫌いになるかもしれませんよ」


怒られるのがそんなに嫌なのか、と思ってしまうほどの剣幕で涙をこぼし謝罪を始めた。


「と、とりあえず声量を下げてください。ここは大聖堂の治癒室な訳ですから大きな声は憚られるものなのです」


一周回って引くくらい従順になったハンスはわたしのお願い、というか命令に素直に従って声を小さめにした。

元々が大きすぎるだけあって今でも平均的な治癒室での声量を鑑みれば大きめではあるが、許容される範囲までには落ち着いた。


わたしは声をそれ以上大きくしないように釘を刺してから本題に進む。


「それよりもハンス様はどう考えているのですか?豊富に持っていた魔力を失って、上級貴族でもなくなるわたしをどう扱いますか?」


ぶっちゃけハンスとのお付き合いや進める予定の婚約の解消も全て白紙になる可能性も覚悟している。

身分差のある結婚も容認され始めているこの国ではあるが、上級貴族、特に爵位継承者の婚約や結婚はある程度の魔力や聖霊力が必須とされている。

なので、ハンスがどう思おうと白紙に戻される可能性の方が圧倒的に高い。


「パウリーナ様が受け入れてくれるのならば婚約の手続きを進めさせていただく予定ですが」

「え?」


最悪の回答を予想していたわたしは、まさかの言葉に質問の答えに疑問を重ねた。


「でも、フラベル公爵は認めてくださるのですか?」

「きっと大丈夫です。父上は上辺だけで人を判断するような浅はかな人間でも格式を大事にしている人でもないですから。どうしても、認められないようであれば私は公爵位の継承権を放棄してでも貴女と結婚します。勿論、貴女さえよければですが」


わたしの中の張り詰めていた空気が一転して安堵にまみれたものに変わる。


「婚約は結ばないと言われたらどうしようかと不安に感じていましたので、本当によかったです。わたしもハンス様と一緒にいたいです」

「やはり、パウリーナ様は暗い表情よりも笑っている方がお似合いですよ。でも、怒っている表情も可愛らしくて個人的には大好きです」


ハンスは自身の言葉にわたしが頬を赤らめたのを見て、悪戯が成功したように笑った。

さっきの仕返しのようだ。


「······ハンス様のバカ」


照れ隠し代わりにわたしはボソリと呟いた。

フェンリルに襲われてから今までで、一番幸せな時間が流れていた。


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