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【完結】暑苦しい公爵子息から告白されました  作者: 桜海冬月
最終章

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無題 『慟哭』

地面に倒れたハンスは黒く禍々しい魔力に取り巻かれながら悶え苦しんでいる。


「ハンス様!」


茫然自失として声もでない私の横を満身創痍で満足に動けないはずのアンリエットが気合いで足を動かして通り過ぎ、ハンスに駆け寄った。


アンリエットはハンスを抱えるようにして持ち上げながら口元に耳を当てた。


「息が······息がほとんどない」


周囲を漂っていた戦いの勝利で浮わついた空気がまるで最初からなかったかのように霧散した。

騎士達の中でも一際ハンスとの関係性が深いアンリエットは激しく泣き崩れていて、他の護衛騎士達もそれぞれが呆然としていたり、泣き崩れていたり、現実を受け入れることを拒否するように頭を振っていたり様々な反応をしている。


わたしたちの間に流れる時間が、世界が、凍りついて停止した。


「なんと!すぐに処置をしなくては!」


医師の心得も少しだけながら身に付けているコルネリウスはいち早く動きを再開してハンスの胸の辺りを何度も圧迫して呼吸を戻そうとしている。

でも、黒い魔力の妨害もあってか普段しているほど簡単には戻らないようで、コルネリウスの額には焦りから来る汗が滲んでいる。


わたしはハンスに向けて手を伸ばそうとするが上手く動かせず、距離が縮まらないどころか広がっているような感覚さえ覚える。


わたしの言うことを今だけは何一つ聞いてくれない手足に何度も空想の中で鞭を打って、やっとの思いでハンスの元にたどり着いたときにはコルネリウスはすでに医学的な処置を終えて魔術師に何かを言っていた。


「コルネリウス、ハンス様は、ハンス様はどうだったのですか?もちろん、息は戻せましたよね?······ねぇ、そうでしょ」

「どうやら魔力によって呼吸という動作そのものと意識を封じ込められているようです。今は死なない程度には息をしておられますがこの先はどうなるか······我々にできることは少しでも公爵子息を侵している魔力の影響力を取り除くための魔法で一秒でも長く息を保たせることです。後はフォリン大聖堂の上級神官の到着を待つしか········私の力が及ばず申し訳ございません」

「そうですか」


本当はコルネリウスの責任がないことを明示しないといけないのに、たった一言しか口から出てこない。


思考する術をを隠されたようにぼうっとする。

朦朧とする意識の中でわたしはつい数分前まで元気に笑顔で私を守って支えてくれていたのに今は力なく横たわっているだけのハンスを見た。


認めたくない事実が、少しでも目を逸らしたい事実がわたしに容赦なく突きつけられる。


うそ。


どうして、起き上がらないの?

どうして、声を出さないの?

どうして、笑ってくれないの?


どうして、どうして、どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして·······


滲む視界の中に溶けるように見えなくなっていくハンスに向かってわたしはただ一言


「ハンス様の嘘つき」


とだけ呟く。


ずっと一緒にいるって言ったのに


神様を敵に回しても、大精霊様を敵にしてでもわたしの元から離れないって言ってくれたのに。

公爵になってくれなくてもいいから、騎士としてみんなを引っ張っていく強さなんて無くてもいいから、裕福じゃなくていい、貧乏でもいいから。


だから········



目を覚まして。

起き上がって。

笑顔で話しかけて。

また、デートしようよ。

どこだっていいから。


そして、ずっと一緒にいてください。


わたしを一人にしないで


本当の意味で孤独なわけではない。


わたしには放任主義であまり干渉しないけど大切にしてくれるお父様がいる。


何かあったら抱き締めてくれるお母様がいる。


小さい頃からずっとお世話をしてくれて第二の母といっても過言ではないアイナがいる。


相談に乗ってくれて色々と助けてくれるお姉さまと叔父のフェリシス公爵一家がいる。


リアーナやフリーダ達、学園の友人がいる。

セブリアン伯爵家で働く使用人達がいる。


他にもたくさんの大切な人がわたしの周りにはいる。


でも、みんなに共通しているが一人一人が私にとっては唯一無二の存在で、他の誰にも代わって貰うことのできない大切な人だ。

同じように今のハンスはわたしにとっては掛け替えのない大切な存在、いわば心臓のようなものだ。

ハンスがいなければ他の何が満たされていたとしても寂しさを拭いきれないし、不可解な孤独感に苛まれて心にぽっかりと穴が開いたままになるだろう。


「ハンス様、帰ってきて。わたしのとなりにいて」


わたしのお願いに答えたのか、女性の透き通るような声が脳裏に直接響いた。


『彼をうつつに引き戻せるとしたらどうしますか?』


わたしはハンスが目覚めてくれるならなんだってするつもりです。


ん?


勢いで返答したけど誰が声をかけたんだろう?

リアーナも魔術師の子もこんな声じゃなかったし、他の人たちは全員が男性だから違うしなあ。


『目を瞑って意識を内側に集中させてみてくださいな。そうすれば、貴女も私を見れますよ』


わたしの脳裏に黄緑色のとても綺麗な髪をしている女性が現れてわたしに微笑みかけて囁いた。


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