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【完結】暑苦しい公爵子息から告白されました  作者: 桜海冬月
最終章

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決着・・・でも、

魔術具での攻撃が上手く嵌まったこともあり、騎士達の方が有利に戦いを進めている。

フェンリルにも余力は残っているようで、魔力障壁による騎士達の攻撃の防御や魔獣でも上位になれば感覚で扱える魔術を利用した迎撃を行っている。


その事もあって、戦いは互角に近い状況になっているけれど、最初の頃に纏っていた染み出すような王者の風格とこの場における絶対的強者であるかのような余裕綽々な居佇まいは感じ取れない。


どうしてかというと、アンリエット達は今まで休息を取っていて、ブルーノ達は途中参戦のため戦闘の合計時間が制限されていてフェンリルよりも体力的な余力を残しているし、数的な面でも騎士達の方が圧倒的に有利だからだ。


「トルステン、お前は俺と共に正面から攻撃をするぞ。他の者はリュークの指示に従って積極的援護を、オリヴェール達はハンス様とパウリーナ様を守る位置に立って攻撃の隙を見つけ次第、無理をせず優先すべきことを優先して援護してください」


騎士達はアンリエットの指図通りに各々の持ち場につくと、アンリエット達が後ろを気にせずに攻撃できるように補助を行っている。


そして何よりも、こちらに勝利を占う風見鶏が向きつつある要因はこの様にアンリエットを初め、ひとつ前の作戦に参加できなかった面々のやる気の高さだ。

特に、さっきは魔術具に助けられて大事には至らなかったとはいえ、危険に晒されたときに守れなかったことを悔やんでいるらしい。


彼らが獅子奮迅の動きをしてくれるお陰でフェンリルの注意がそちらに向き、他の騎士が動きやすくなっている。


その中でも目立っているのがオリヴェールとリュークにリアーナだ。

前の二人はフェンリルに魔力を使わせることで支援をしていて、アンリエット達のような派手な攻撃をしているわけではないが、魔力障壁を破壊して再構築させて魔力を消費させたり、小さな斬撃波でフェンリルの気を逸らして防御を減らし、アンリエットの攻撃の相対的な威力が上がるように援護している。

二人の行動は地味ではあっても集中の邪魔になるのか、所々でフェンリルからの魔術攻撃を受けることもあるが、熟練した騎士のオリヴェールは難なく相殺してさらに、少しだけ反撃を返すという素晴らしい芸当をやってのけており、リュークもまた中和に長けた水の魔術に適性が高いようでこちらも苦戦していない。

そして、リアーナは誤射がほとんどない完璧な精度を誇る弓矢で援護していて、他の騎士の手を借りながら矢に魔術を搭載してフェンリルへのダメージを増幅させている。

同時に他の騎士達も簡単な魔術で主として戦う五人に補助魔法を掛ける者やオリヴェールと同様中距離からの斬撃波で攻撃する者など様々ではあるが、お互いを邪魔しないように攻撃の棲み分けを無意識のうちに行っているようだ。


そのどれもが体をひとつしか持たないフェンリルにとっては嫌なものだろう。


ただし、押しているとは言えども油断は禁物で、決して深追いせずにじわりじわりと追い詰めていく戦法を採用しているようだ。

簡易的なものであっても魔術を操っている以上はある程度の知能と魔力操作力を備えているはずなので、逸った所を襲われて総崩れになるのを防ごうということらしい。

一見すると絶好の追撃の機会をみすみす逃している消極的で弱腰ともとれるこの作戦だけど、総力を挙げた上で膠着している今の状態を鑑みれば、下手な博奕を打って均衡が崩れる危険を孕む作戦よりも、多少時間が長くなろうとも冒険せずに確率の高い安全手をとった方がいい。


戦いは膠着から少しずつ騎士達の優勢に傾き続け、夕日が見え始めた辺りだった空は月が見え始めており、夕方の時間帯に終わりを告げようとしている。


「総員、ここから一気に畳み掛ける。弓矢を持っている者は回転率を上げて射ち続けよ。持っていない者は私と共にフェンリルに近づき、徐々にアンリエットの攻勢に溶け入るようにして攻撃を始めよ。決して逸ってフェンリルに盛り返す機会を与えないように、私もしくはブルーノ殿の許可を得てから攻撃に入れ」


オリヴェールがフェンリルの魔力障壁を破壊しながら騎士達の多く居る方向に顔を向けて言った。

そろそろ闘いを終わらせに掛かるようだ。


「このままじわりじわりと攻めていくと思っていたのですが、どうかしたのでしょうか?」

「夜になると動きを取り辛くもなりますし、太陽が出ている今のうちにできれば完全討伐を、最低でも転覆不可能なくらいに戦いの方向を決めてしまいたいと考えているはずです。他にも、ウルフ系の魔獣は総じて月明かりの下では魔術の威力が若干増大するので、その前に魔力を削って打てる魔法の数そのものを減らしたいのでしょう」


どうやらオリヴェールの先程の攻撃も夜に差し掛かる可能性を見越してのものだったらしい。

わたしはそこまで見通すハンスに感嘆しながらも、戦いの全容を見守る。


リアーナ達弓を射ている騎士は見違えるほどに回転速度を上げている。流石に精度は落ちているが、フェンリルの総合的な損害は大幅に跳ね上がっている。

オリヴェールはアンリエット達の攻勢に一人ずつ混ぜ混ませながらも攻撃は続けていて万事において抜かりはないようだ。


膠着していた戦いは騎士達が最後の天王山と言わんばかりに全力で武器を振るっていることで、塞き止められていた水が溢れ出すように騎士達のペースになっている。


ずっと一番の反撃を受け続けていて、疲労の色が濃くなっていたアンリエットとトルステンも最後の力を振り絞って魔術を駆使した最大攻撃を連発している。


「では、私も最後の準備をします。危険があるかもしれないので少し離れていただけませんか?リアーナ!矢が尽き次第こちらに来るように」

「最後の準備?」

「はい。アンリエット達の全力を使い尽くしてもフェンリルを倒しきれなかった場合は私が止めを刺すことになっています。とはいっても槍を投げるだけですが」


わたしが問い返すと、ハンスは「」と唱えて、シュテルンを投げ槍に変化させて答えた。


変化させた槍にはどんどんと莫大な量の魔力が練り込められているのがわかる。


ハンスの準備には時間が掛かりそうだったので、戦いに目を向けるとフェンリルは完全に守勢に回っていて防御のための魔力障壁の展開に全力を注いでいた。

魔法術式もなにもない単純な魔力の結晶ではあってもその密度は常人が作るそれとは比べ物にならないほど濃い障壁なので破壊には時間がかかるはずだが、オリヴェールやリューク達一部の騎士によって何とか破壊されているため、風見鶏は加速度的に傾いている。


ただし、騎士達は砕けた魔力障壁の破片の魔力を受けたり、破壊のためにフェンリル攻撃のために全力を出し続けていたので限界が近づいている。


次の一撃を放つのが限界という有り様の騎士達も多いが攻勢を緩めるつもりはないようだ。


「ここで倒せなくてもハンス様が止めを刺してくれる。次の攻撃には残っている力をすべて込めた最高の攻撃をせよ!」


アンリエットの号令を受けて騎士達の疲労に満ちた空気があっという間にピリピリとした空気に入れ替わった。


騎士達はフェンリルを囲うように拡がると、雄叫びを上げながら剣を振り下ろす。

剣の色は赤や黄色、碧や緑といった各々の得意な属性の色が浮き出ていてその剣筋に後を引く色が芸術作品を作っているようだ。


ドンッと大きな音が響いて攻撃が命中して騎士達が離れると同時にハンスが持っていた槍を投げる。


ぶつかった音と破裂音が辺り一面を埋めつくし、わたしはあまりの五月蝿さに思わず耳を塞いだ。

フェンリルを捉えていた視界もいつの間にか舞い上がった砂ぼこりによって遮られて、触覚だけがこの世界と繋がっているように感じられる。


「パウリーナ様、目を開けてください。終わりましたよ。フェンリルを討伐しました」


一段と優しげなハンスの声が耳元に聞こえて、目を開くとそこには倒れ伏したフェンリルの姿があった。


「誰も死なずに終わってよかったです」


わたしは安堵の気持ちから時々お姉さまに対してするようにハンスに抱きついた。


その時だった······


視線の端に黒く禍々しい影が移り込んだかと思うと支えられていたはずの体が一気に重くなった。


そして、そのままハンスは地面に倒れた。

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