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【完結】暑苦しい公爵子息から告白されました  作者: 桜海冬月
最終章

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中盤戦

前々回に初登場した護衛長の名前ですがマリックからブルーノに変更しています。

報告を忘れていてすみません。(-_-;)

フェンリルに多大なる損害を与えた火焔の魔術具の効力が切れた。すかさず魔力を全力で解放する。


「パウリーナ様、私が支えますから魔力解放に集中してください」


初めてのことで負担も大きいためかフラフラとよろけたわたしをリアーナが支えてくれる。


ハンスが置き捨てた小魔石に封入されている魔力を吸収しようとしていたフェンリルだったが、わたしの方がより美味しそうな餌に見えたのだろう。小魔石を放り捨てると走り始めて、妨害のために放たれたハンスの槍をとても手負いとは思えない反射速度で払い除けた。


既に作戦通りリアーナは側面に入っていて、ブルーノ隊も作戦の意図を理解してリアーナとは反対方向で時を窺っている。

わたしの守りにはリアーナと交代したハンスが付いていて、ハンスは魔術の力で戻ってきた槍の矛先をフェンリルに向けて突き出すようにしている。



私が状況確認をしている間にもフェンリルは刻一刻と迫っている。


かなり近づいていて怖いがこれも作戦を成功させるため、少々震えようが我慢しなければいけない。


「大丈夫です。私がパウリーナ様をお守りします」


不安に気づいたハンスがわたしの肩に手を置いて震えを落ち着かせてくれる。

このように緊迫した状況にも関わらず、わたしは恥ずかしいような嬉しいような不思議な気持ちになる。

ただ、思考の対象がフェンリルからハンスに切り替わったお陰で恐怖が自然と薄れ和らいでいく。

恐怖ではなく信頼と安心を目に宿したわたしはフェンリルを力強く見据えた。


あと少し、もうちょっと引き付けて


「今です!」


わたしの声を合図にして止まっていた味方が動き出した。

リアーナは弓矢を一射してすぐに剣で斬りかかり、ブルーノ達は各々の得意な武器で攻撃する。


「ジャーマレクタ」


コルネリウスが護衛している魔術師達もそれに呼応するように槍状に制御された炎魔法で追撃する。


今までの攻撃の中でも一番強い攻撃でダメージも大きかったはずだが、フェンリルは動きを止めることなくわたしたちに近寄る。


「お二方が危険だ!負傷させることよりもフェンリルの動きを止めることを最優先に攻撃せよ!」


ブルーノが叫んだ。

他の騎士は承知の意を表するとすぐに足に攻撃したり、正面に立って槍や盾で動きを止めようとするがフェンリルは障害をはね除ける。


「パウリーナ様、騎士達が動きを抑えてくれているお陰でフェンリルは止まらずに直進することに意識を傾けすぎています。今のうちに道を逸れましょう。そうすればアンリエット達の更なる加勢も間に合います」


そう言われて始めてフェンリルの視線がわたしというよりも前方に向いていて、どちらかといえば前に進むことに主眼を移していることに気がついた。

恐らく攻撃の痛みに耐えながらもわたしという目標物に辿り着くためにはそうするしかなかったのだろう。

だが、わたしたちにとってはとても大きな機会だ。

今までのようにわたしの魔力に執着されれば、動きの速さの問題で必ず追い付かれるが今の状況ならばなんとか逃げ切ることも不可能ではない。


それなのに······


「ハンス様、足が、足が動きません」


フェンリルの威圧の残像を見たのか、それとも魔力を外に放出し続けたことによる魔力欠乏と疲労の結果なのか、どっちが正解かは知らない。

ただ、ひとつだけ本能的に理解できるのは力が入らなくて動けないことだけだ。

そして、その事さえわかればこの場では十分だった。


そう、わたしは逃げられない。


ハンスも当然の如くその結論にたどり着いたようだ。

一瞬の困惑のあと頭を抱えた。


逃げられなければ、必然的に迎え撃つ以外の方法がなくなるわけだがわたしは戦力としては最底辺だ。

ハンスは騎士としての実力は学生の中では随一で成人騎士と比べても決して劣るものではないが、流石に一人でフェンリルを押し止められるほどではない。


「パウリーナ様、以前に渡した魔術具を使ってください!根本的な解決には至りませんが時間稼ぎにはなります。騎士はパウリーナ様が魔術具を使う前に離れるように!」


攻撃しながらも全体を俯瞰して見ていたリアーナの助言が聞こえた。


「パウリーナ様、持っていらっしゃいますか?」

「はい。グラーツ=ド=フォリンで観光する前にリアーナから、"ハンス様が何かしたら使うように"と言われて渡されました」


ハンスが決まりの悪い表情になる。

リアーナとその後ろにいるであろうお姉さまからの信用がないことに落ち込んだのだろう。


魔術具自体の詳細は知らないけど、ハンスが何かをしたら使うように言われていたということは対象が一定時間触れられないようになる魔法でも組み込まれているのかもしれない。


騎士達の攻撃という足枷を外されたフェンリルは速度を上げて直進する。

わたしは例の魔術具を起動した。

その直後、紫色に光る魔法陣が出現したと思うと薄ら碧色の衝撃波が生まれてフェンリルを強襲して、そのまま数メートルの距離まで吹き飛ばした。


「これは······恐ろしいですね」


あまりの威力にわたしは黙り混み、ハンスの口調もタジタジで声には恐怖が混じっている。

本来ならばフェンリルを弾き飛ばしたことに喜ぶべきなのだが、リアーナはハンスに対して使用させるつもりだったから素直には喜べないのだ。


「ですが、結果的にはリアーナがあの魔術具を渡していた事が功を奏しました。······いえ、やはりまだ油断はできません。もう一度フェンリルが向かってきます」


フェンリルを吹き飛ばしたことで安堵して緩んでいた表情をハンスは引き締めて厳しげな顔になる。

恐怖から安堵に、そして緊張へと移り移ろうハンスの感情の揺らぎも面白く、もっと見ていたかったがわたしも緩むわけにはいかない。

おそらくリアーナとお姉さまはハンスに使うことを考えて、最初の衝撃は強くしつつも後を引くほどの怪我にならないように調節したのだろう。

となれば、リアーナの根本解決にはならないという言葉にも納得がいく。

ただし、街の中でハンスに対して使用するという点では疑問符を打たざるを得ないけど······


何はともあれ態勢を建て直しアンリエット達が到着するまでの時間を稼げたことに変わりはない。

アンリエットの隊よりも先に到着したオリヴェールの隊はリアーナ達に合流してフェンリルを抑えるべく飛び掛かった。


もうすぐ戦いが終わると思います。

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