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【完結】暑苦しい公爵子息から告白されました  作者: 桜海冬月
最終章

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強襲

間に合わなかったです。


※前回の時間設定を夕方としていましたが、変更して四時頃としています。

休憩を終えて出発した馬車は山道を進んでいる。

日が暮れる前に高低差の激しい地点を通り過ぎたいという御者の思惑によって、馬車のスピードはとても速くなっている。

暗くなれば照明の魔術で辺りを照らすのでそこまで問題ないと思っていたが、御者曰く魔術による照明と天然の照明では動きやすさが違うらしい。


「それにしても魔獣が多いですね」


ハンスが日が傾き始めた外に目を向けながら言った。


「本当に」


行きは急いでいたこともあるだろうが、魔獣と遭遇したのはたった一度だった。

しかし、帰りは休憩の以降だけで既に5回目だ。

下級の魔獣が大半なので、今のところ馬車はそこまで大幅に行程を送らせているわけではないが、それにしても魔獣との遭遇頻度が高すぎる。


「塵も積もれば山となる、とならなければ良いですがこの様子では難しいですね」

「確かにいくら下級の魔獣でアンリエットたちには簡単に処理できる魔獣だとしてもこれ程までに数が多くては時間がかかりますよね」


下級の魔獣は群れることが多く、一体一体は弱くても攻撃すべき対象が多くなるので、そこそこ強い魔獣を少数相手するよりも時間も掛かるし魔力も使う。

現時点では魔術師の魔力に余裕があるので、魔獣を一網打尽にする広範囲魔法を軸にして、取り零した魔獣や弱った魔獣を騎士たちが仕留めるだけで終わっているが、まだ何度も続くことになれば何処かで魔術師の魔力が枯渇してきて更に時間を食うことになる。


「終わったようですね」


ハンスが呟いた。騎士たちは落ちている小魔石を広い集めるとまた馬車に乗り込んで、それを確認してから御者が馬を動かす。

まだまだ当初の予定よりも時間的な余裕はあるが、ハンスが懸念していた通り雲行きが怪しくなってきた。



そして、一時間近くが経ち山道も終わりが見えてきた頃······



「また魔獣が襲ってきました。これで何回目でしょうか?」


わたしは少しうんざりしながら言った。

最初こそ、数少ない経験で飽きずに見ていることが出来たがここまで回数を短期間のうちに重ねれば段々と嫌になってくる。


「12回目ですね。流石におかしいです」


ハンスによると、魔獣に襲われること自体は割りと良くあることなので回数が多少多くても、下級の魔獣ばかりのうちはそこまで懸念の必要はないらしい。

下級の魔獣は魔獣たちの食物連鎖では当然下位の存在なので森の食料が減れば後がなくなって、人間を襲うこともあるからだ。

冬で森の実りがほとんどない時季ならばなおさらのこと襲われる回数も増えるだろう。

ただし、小一時間の間に一時間というのはそれを加味しても多すぎる。

そもそもの話として食料に困った下位の魔獣が襲うのは人間だけではない。ヒエラルキーの問題で人間が襲われる方が確率は高いものの、中、上位の魔獣も襲われる対象になる。

その場合は狙われた魔獣が子供であったり、弱っていたりでもしない限りは返り討ちに遭うだけだ。

つまり、人を襲う下位の魔獣の数も減る。


「春が見え始めているこの季節は既に森の実りも少しではありますが出来ているはずです。だから、生き残った魔獣が無理をして人間を、それも魔力の多い貴族が乗っている馬車を襲う理由はありません」


一般的な魔獣にとっての強さを図る指針は魔力量だ。魔力が多ければ旨味のある餌となるが自分よりも圧倒的な魔力を持つ相手に挑むことは食料に困窮でもしなければしない。

しかも、ハンスが述べたように今は森にも食料が少ないとはいえどもあるのだ。

冬の真っ只中のことならともかく、今になって襲い始める理由はない。


となれば考えられるのは一つ······


「大きな脅威に晒されているため如何しても強くなろうとする魔獣の生存本能が働いているのですね」

「恐らくはそうではないかと思います。そう考えれば魔獣たちが僅かに血気だっている理由も我々を襲う理由も説明できます」


ハンスはそこまで言うと窓の外に視線を向ける。

わたしもハンスと同じように外を見た。


「戦い方が変化していますね」


アンリエットは魔術師達の魔力を温存しておくべきだと考えたのか、数回前まで使っていた一網打尽にする広範囲魔法を用いる戦法を取り止めている。

その代わりに、騎士が魔獣たちを囲うような隊形をとってじわじわと内側に寄りながら追い詰めていく戦法をとって魔獣を殲滅している。


「時間は最初の戦い方よりは要するようですが、魔力的なことを考えれば良い戦い方ですね」

「そうですね。目の前の戦いだけでなくその次に来るかもしれない戦いに備えている、先見性のある戦い方です。それに、魔力もですが騎士たちも素早い動きをほとんど必要としないので、有事の際には可能な限り万全な体制を保てる堅実な方法だと思います」


わたしの感想を肯定して補足するように、ハンスがアンリエットの戦い方の講評をした。

その言葉と表情から察するにハンスにとってもアンリエットの戦法は状況をしっかりと捉えた最善の戦い方なのだろう。


わたしはハンスから襲ってきている魔獣の種類や特徴についての説明を受けながら見ていると、ハンスは途中で説明をしていた口を閉ざし、顔を僅かに青ざめさせた。


「あの魔獣は下位ではありません!どうして襲う側にいるのだ!」

「ハンス様、どういうことですか?」


ハンスが目を止めた魔獣は魔獣の中でもある程度強い中程度のランク帯にいる魔獣で、ちょっとやそっとのことでは生存本能が発動するような弱い魔獣ではないらしい。

おまけに固い甲羅を備え付けているので、生半可な攻撃が通じないという厄介な特質を持っているそうだ。


「アンリエット!スチィーワがいる。警戒しろ!」

「ハンス様、分かりました。リアーナ、スチィーワの対処を頼む!他の騎士はその他の魔獣の殲滅を最優先に行い、魔術師はリアーナの補助をするように!」


騎士たちはアンリエットの指示に頷くと、先程まで従事していた任務を再開させるが、その動きはさっきまでよりも少しだけ早くなったような気がする。

スチィーワとはそれほど危険な魔獣なのだろう。



ハンスの緊急の助言によって、アンリエットたちが迅速に行動できたことによって大した被害を出すこともなくスチィーワとその他の魔獣を殲滅しようとしたときだった。


ドンッ!ドシッ!


何かの魔獣の足音らしい大きな地響きの音が辺り一面を多い尽くした。


「どうして、こんなところに······」


どんな魔獣を見ても言葉を絶やすことのなかったハンスが絶句した。

灰色の夕日を浴びて輝く綺麗な毛並みと大きな鋭い角を持つ三メートルは優に越えていると見える魔獣がわたしたちの視界に映ったのだった。


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