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歩く

作者: 白川玄馬

 今朝から雨が降っていた。それはポツポツと控えめに、しかし絶えず降り続いている。

 少女は小さなビニール傘を差しながら湿気にうねる前髪に苦闘していた。何度も何度も入念にとかした髪であるにも関わらず、今はもう見る影もないほど乱れている。

 水に濡れた土の香りに新緑のほろ苦い香りが混ざり合い、気持ちだけは高揚していたが、反面彼女の表情は重く暗い。自分の感情がうまく機能していないようで気持ちが悪く、八つ当たりをするようにローファーのつま先で小石を蹴飛ばした。

 傘から滴り落ちた雫が少女の背中を濡らす。ため息を吐いた。

 なんだか自分が馬鹿馬鹿しく思えた。一生懸命に詰め込んだカバンの中身が全て消えてなくなってしまったような虚無感を覚えた。自分が無心に進んで来た数キロメートルがまるで無意味のようにも思えてしまい、ついには歩が止まってしまう。

 後ろを振り返る、しかしそこには今まで歩いてきた道しかない。平坦で、平凡で、平和な道のり。そして少女が向かう先には山がある。高い高い山、その先がどうなっているのかも分からず、しかし何かがあるのだと信じて目指していた山がある。

 もしかしたら何も無いのではないだろうか。

 それまで少女はその先に自分の未来とか希望とか、夢とか愛とか奇跡だとかを期待していた。それは現実から目を背けるためだけの希望的観測に過ぎないのだが、少女はそれを強く信じ、それ以外の一切を考えることは無かった。

 つま先がじんじんと痛むたびに自分にとって嫌なことばかりを考えてしまう。雨足は常に一定で、まるで時間が止まってしまったかのような息苦しさを感じた。

 やがて少女は傘を差すのを止めた。今更引き返すには歩きすぎた、精一杯の言い訳である。

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