血は水より濃いとは言うものの・・・
血縁の無い養父と娘の絆の話。
結果から言うと、実父の訴えは却下された。
実父と実母は裁判長に罵詈雑言を吐いているが、結果が覆ることはない。
一年前、実父は自分こそが父親だと実母を脇に抱きながら訴えてきた。19年間一度として顔を見せたことすらないのに。
私と実母を家族に迎え、養父を引き剥がそうとした。
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今日からちょうど20年前、私は関東の病院で産声を上げた。
黒い肌と共に。
当時私を取り上げた医師や看護士たちは驚いたことだろう。なにせ父母共に日本人なのだから。
実母が何をしたのかは言うまでもない、けれど養父は私を娘と受け入れた。養父の両親や姉は猛反対したが、養父は頑としてそれを聞き入れなかった。
後に養父が言うには、実母と別れる勇気がもてなかっただけらしい。
実母は私に物心がつくまでに育児放棄したが、養父は今日まで一度として見放さなかった。
私は幼稚園ではもちろん、小学校でもずいぶんといじめにあった。
四年生のとき、養父と大喧嘩し(私が一方的に怒鳴っていただけだが)、家を飛び出した。
行く当てもなくさ迷っていたら、義伯母に家へと誘われた。
義伯母は黙って私の話を聞いてくれた。
私が全てを吐き出した頃、義伯母は静かに語った。周囲の反対を押し退けて養父は私を娘と受け入れたと。養父は両親から、私と実母と縁を切るまで絶縁だと言ったらしい。それでも養父は私を見捨てなかった。
私はあの家に戻ることにした。
外に出ると、雨が降っていた。
義伯母と共に帰路を歩いていると、養父は傘もささずに私を探していた。
私を見つけるなり、養父は私を抱き締めた。
ごめんなさい、ごめんなさい。
実母は家で酔い潰れていた。
翌日、養父は風邪を引いた。
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大学に入って、私はあの人に出会い、婚約した。
どこから聞きつけたのか、あの人が国際的な大企業の跡取りだと知った実父が、実母と三人で暮らそうと言ってきた。
実父とはこの時が初対面だったが、実母とはちょくちょく会っていたようだ。
私は全力で拒否したが、実父はDNA鑑定を持ち出し裁判まで仕掛けてきた。
一年後の私の誕生日、実父と実母の訴えは却下された。
近所の方の証言もあり、実母が育児放棄していたことも採用された。
養父と実母は私が高校の時に離婚していた。
実母が養父の稼ぎを実父へ渡していたことが解ったからだ。
後日、実父と実母の付きまといがストーカー行為と認められ、接近禁止令が下された。
二度と会うことはないだろう。
大学の卒業を待って、私はあの人と結婚した。
バージンロードを歩く養父の顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
義祖父母も涙でぐしゃぐしゃだった。家出事件のあと、義伯母の説得で養父と仲直りしたのだ。
翌々年私は、あの人に似た黒肌の息子と、私に似たペールオレンジの肌の娘を産んだ。
―――おまけ――――――――――――
養父があの人の姉から猛アタックを受けている。
養父が義兄になるのも時間の問題かな?
・私
黒肌の女子。戸籍上は両親共に日本人。
・養父
《私》の戸籍上の父親。血縁はない。
本編終了後、《あの人》の姉と結婚し、二児を儲ける。
実は年収600万の高給取り。仕事を選ばなければ8桁いける有能だが、《私》と暮らすことを優先した。
・実母
《私》の母。日本人。
《私》が2歳を迎える前に育児放棄する。
《実父》に総額2000万を超える金を渡していたことがバレて離縁される。
・実父
アフリカの黒人。《私》の血縁上の父。
親からは勘当されている。
ヤバいところから金を借りている。
・あの人
欧州人と日本人のハーフで日本人。黒髪。
子供は二卵性双生児。
・姉
《あの人》の姉。金髪。
《私》と《あの人》との結納式で《養父》に一目惚れする。
自力で会社を起こしており、《養父》の勤め先とも取引がある。ニアミス?
・父方の祖父母
本編未登場。《実父》の両親。
件の裁判で初対面する。こっちとは仲違いしていない。
ひ孫にデレデレ。
・母方の祖父
本編未登場。《実母》の父親。
《実母》と完全に縁を切っているため、《私》との面識は皆無。
《実母》の母親は行方不明。