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3分読み切り短編集

今年の目標

作者: 庵アルス

 今年も残すところあとわずか。

 ひと通りの掃除が終わった部屋で、僕はごろんと寝転んだ。コロコロをかけたばかりのカーペットは、ふわふわで快適だ。

 寝そべって、スマートフォンで料理動画など見ていると、しばらくしてチャイムが鳴った。

 ひとり暮らしなので、代わりに出る人もいない。僕は動画を中断して、重い身体をあげた。

「はーい?」

「やっほー!」

 訪ねてきたのは、同じアパートに住む友人だった。

 遊びにきたー、と元気よく、ゲームとお菓子、飲み物まで入ったトートバッグを見せつける。

「まぁ、どうぞ」

 今年は、お互い実家に帰ることもできなくて、年末年始の予定はなかった。

 友人は大掃除を終えたか不明だが、とにかく暇だったのだろう。

 友人はトートバッグから、カルピスとジンジャーエール、個装のカルパスを出した。わかっていやがる。

「買ってきたの?」

「いや、クリスマスに買い込んだ残り」

 僕がコップを用意する間に、友人は勝手知ったるという感じで、持ってきたゲームをテレビと接続している。どうせ放送されているのは、往年のドラマの再放送か年末特番ばかり。つまらないから問題はない。

 友人は、日本全土の物件を買いながら双六(すごろく)するゲームを起動した。

「九十九年でいい?」

「いいけど晩ご飯どうする気?」

「カップ麺でよければ家から持ってくるよ!」

「おにぎらず作るけどカップ麺がいいの?」

「ありがとうごちそうになります!」

 調子のいい友人にキラキラとした眼差しを向けられ、僕はコントローラーを台所に持ってきて、ラップで包んで操作することにした。こうすれば、手がベタベタでもコントローラーを汚さなくて済むし、コントローラーの雑菌も食材に移らない。

 友人は僕の他にコンピューターキャラをひとり追加し、双六を始める。

 僕はおにぎらずを作りながら、順番が回ってくるとコントローラーを触って駒を進めた。最初のうちは所持金もカードも少ないので進みが悪い。

 出来上がった料理を持っていく。おにぎらずの中身は生姜焼きの残りだ。ついでに作ったは、モヤシのナムルと、ピーマンのツナ和え。

 その頃には、ゲーム内で二年が経とうとしていた。お邪魔キャラが登場し、体良くコンピューターキャラに押し付けながら、順調に進んでいる。

 やりながら、友人がこんなことを訊ねた。

「今年の目標ってなんだった?」

「それ今訊く?」

 年の始めならともかく。

「あとちょっとで来年だしさ」

「そうだな」

「今年の目標って達成してない気がするんだけど、なんだったっけ、ってなって」

「今年はもう、色々と仕方なくないか」

「いやでも、なんもしてないよ」

「ネットでも言われてるけどさ、もう生きてるだけでえらいよ、今年は」

 幸いどちらも健康だし、周りに不幸もなかった。

 だけどそれは当たり前ではなく、ある日突然失われるものだと、痛感させられた一年だった。

 仕事など、必要以外は家にこもりがちになった。それでも気分が落ち込まなかったのは、この友人のおかげだ。友人が同じ敷地内に住んでいてよかったと、今年ほど強く思ったこともなかった。

「来年また美味しいもんでも食べような」

「作ってくれるの? ありがとう!」

「お前も自炊していいんだよ?」

 どこまでも調子のいい友人と、来年も、その先もずっと、仲良くあることを願う⋯⋯そんな年の瀬だった。

2020/12/30

良いお年をお迎えくださいませ。

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