今年の目標
今年も残すところあとわずか。
ひと通りの掃除が終わった部屋で、僕はごろんと寝転んだ。コロコロをかけたばかりのカーペットは、ふわふわで快適だ。
寝そべって、スマートフォンで料理動画など見ていると、しばらくしてチャイムが鳴った。
ひとり暮らしなので、代わりに出る人もいない。僕は動画を中断して、重い身体をあげた。
「はーい?」
「やっほー!」
訪ねてきたのは、同じアパートに住む友人だった。
遊びにきたー、と元気よく、ゲームとお菓子、飲み物まで入ったトートバッグを見せつける。
「まぁ、どうぞ」
今年は、お互い実家に帰ることもできなくて、年末年始の予定はなかった。
友人は大掃除を終えたか不明だが、とにかく暇だったのだろう。
友人はトートバッグから、カルピスとジンジャーエール、個装のカルパスを出した。わかっていやがる。
「買ってきたの?」
「いや、クリスマスに買い込んだ残り」
僕がコップを用意する間に、友人は勝手知ったるという感じで、持ってきたゲームをテレビと接続している。どうせ放送されているのは、往年のドラマの再放送か年末特番ばかり。つまらないから問題はない。
友人は、日本全土の物件を買いながら双六するゲームを起動した。
「九十九年でいい?」
「いいけど晩ご飯どうする気?」
「カップ麺でよければ家から持ってくるよ!」
「おにぎらず作るけどカップ麺がいいの?」
「ありがとうごちそうになります!」
調子のいい友人にキラキラとした眼差しを向けられ、僕はコントローラーを台所に持ってきて、ラップで包んで操作することにした。こうすれば、手がベタベタでもコントローラーを汚さなくて済むし、コントローラーの雑菌も食材に移らない。
友人は僕の他にコンピューターキャラをひとり追加し、双六を始める。
僕はおにぎらずを作りながら、順番が回ってくるとコントローラーを触って駒を進めた。最初のうちは所持金もカードも少ないので進みが悪い。
出来上がった料理を持っていく。おにぎらずの中身は生姜焼きの残りだ。ついでに作ったは、モヤシのナムルと、ピーマンのツナ和え。
その頃には、ゲーム内で二年が経とうとしていた。お邪魔キャラが登場し、体良くコンピューターキャラに押し付けながら、順調に進んでいる。
やりながら、友人がこんなことを訊ねた。
「今年の目標ってなんだった?」
「それ今訊く?」
年の始めならともかく。
「あとちょっとで来年だしさ」
「そうだな」
「今年の目標って達成してない気がするんだけど、なんだったっけ、ってなって」
「今年はもう、色々と仕方なくないか」
「いやでも、なんもしてないよ」
「ネットでも言われてるけどさ、もう生きてるだけでえらいよ、今年は」
幸いどちらも健康だし、周りに不幸もなかった。
だけどそれは当たり前ではなく、ある日突然失われるものだと、痛感させられた一年だった。
仕事など、必要以外は家にこもりがちになった。それでも気分が落ち込まなかったのは、この友人のおかげだ。友人が同じ敷地内に住んでいてよかったと、今年ほど強く思ったこともなかった。
「来年また美味しいもんでも食べような」
「作ってくれるの? ありがとう!」
「お前も自炊していいんだよ?」
どこまでも調子のいい友人と、来年も、その先もずっと、仲良くあることを願う⋯⋯そんな年の瀬だった。
2020/12/30
良いお年をお迎えくださいませ。