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妄想の帝国

妄想の帝国 その32 ニホン大自粛悲喜劇 自粛警察取り締まり編

作者: 天城冴

新型肺炎ウイルス感染拡大防止のため、緊急事態宣言がなされたニホン国。外出、営業の自粛が叫ばれる中、県境を越えて出かける人やら、店の営業を続ける人々に対し、自粛警察なるものが嫌がらせを続けていた。歪んだ正義感にかられた自塾警察の面々は今日も他県ナンバーの車に私的制裁を加えようとするが…

「おい、見つけだぞ」

新型肺炎ウイルスの影響で、全国中に緊急事態宣言がなされ自粛要請が叫ばれるニホン国のとある道路。6人乗りの車に乗っていたのは6人の中年から初老の男性。

「県外ナンバーか、この自粛要請中に許せん」

「川を挟んで隣町とはいえ、他県は他県だ」

「だいたい、こっちは在宅勤務。テレワーク強制だぞ。帰りに飲みにもいけないんだ!」

「キャバクラの女の子が“店がつぶれそうだから助けて”って必死のコールくれたのにいけないんだぞ、くそ!だいたい金もない、接待と偽って経費で落とすのは無理だし」

「お前らはまだいいよ、再就職先があったんだから。俺なんて早期退職。この騒ぎでバイトもパア。出かけようにもどこにも行けないんだぞ、その点年金暮らしの奴はいいよな」

「年金暮らしだって、マスク購入とか通販の買い物増えたりして大変なんだぞ。どこにも行けないからって妻が高級食材なんぞ頼むからクレジットの請求がああ」

と、自粛要請のあおりをくらって愚痴る男たち。狭い車に太めの6人がひしめきあっているものだから、車内はいわゆる三密状態。それこそ新型肺炎ウイルス蔓延の危険性のある行為なのだが、当の6人は気にもとめない。一応マスクはしているが、ガーゼ製のうえ、顔に対して面積が狭すぎて鼻やら顎やらがはみ出ている。

「ん、何か作業しているようだぞ」

「ひょっとして仕事中なんじゃ」

「仕事なら不要不急じゃないってことか?」

「し、しかし、県をまたいで仕事する必要なんてあるのか!」

「そうだ、そうだ、地元でやれよ!」

日頃越境して通勤しているのも忘れ、勝手なことをいう男たち。しかも一部はテレワークとはいえ勤務時間中なのだが、そのこともすっかり忘れたようで

「ここは俺たち自粛警察の出番だ!」

「自粛しないでウロつくやつは天誅だ!」

と口々に言いだして、車を降りる男たち。帽子をかぶり、ご丁寧に“自粛警察”の刺しゅう入りのお揃いのジャンバーを羽織っている。いわゆるヤンキーだのの集団のようだが、本人たちは

「正義の自粛警察参上!」

「自粛破りは許さない!」

と本人たちは治安を守るヒーロー気取り、悪の自粛破りを取り締まろうと、県外ナンバーの車に近づいた途端!

『違法集団発見!』

『通報のあったジャンバーを着用、仲間とみられる』

頭上からスピーカーの声

「な、なんだ!」

「ど、ドローン?」

驚く男たちに車の中からアームが出てきて、腕をがっちりつかむ。

「うわああ、こっちもロボットだあ!」

と叫ぶ男の鼻に綿棒を突っ込み、即座に回収。そして

『検体回収、数分後に結果判明!』

「な、なんだ、結果って、まさかこれ」

「け、検査?」

あわてふためく男たちを次々拘束するロボット。

標的にするはずだった車にひきずりこまれた男たちは座席にくくりつけられた。

「わああ、なんなんだ、これ」

「ま、まさか囮?」

「お、俺たちは世のために~」

と、喚く男たちにスピーカーから声がした。

『ハローハロー、聞こえているようだね』

「な、なんだ、アンタ!」

不意に聞こえてきた女性の声に思わず反発するが

『あー、必要ないんだけど、一応説明。自粛警察を名乗る暴力集団があるという通報を受けてモノホンの警察が取り締まりに来ました』

「ええええ!」

『アンタらがやってることは器物破損に脅迫行為に…』

罪状をずらずら並べられて面食らう男たち。

「お、俺たちは自粛を破るような輩をこらしめただけで、その」

と反論するも

『人を脅したり、妙な貼り紙したり、投石したり、アンタらのやってることが犯罪。だいたい自粛って自分からするもので他人が強制していいもんじゃないから。そこらへん政府もあいまいだから厄介なんだけどさ』

とさらに追い打ちをかける声。

「し、しかし、正義がー」

『いや、単なる八つ当たりでしょ、外出できない、キャバクラで遊べない、テレワークで自分のIT音痴や無能さが部下やら社長にもわかってしまって恥ずかしいんでしょ。っていうか勤務中の人もいるでしょ?』

ハッとする男たち、ま、まさか。

「も、もしかして、このまま逮捕されるのか!しょ、職場にも家族にも」

『あー、もちろんバレるね。アンタらだって自粛してなーいとか言って他人の氏名、住所、そのほかネットにアップしたでしょーが。といってもこっちは本物の警察だから、公表はそんなにしないけど、今回は場合が場合だからねえ』

「そ、そんな、なんで」

『あー、自粛言いながらアンタら、あちこち出掛けたでしょ、三密で。しかも役に立たない小さな布マスク、それも洗わないで使いまわしで。洗わないとウイルスついたままで危ないんだよ、そんなことも知らないの?つまりウイルスを蔓延させる、広げやすいことしたわけ。おまけに重症化の危険性のある年代、性別、高血圧などの疾患あり、喫煙歴ありだから。重症化されたら医療崩壊促進で困るんだよね』

「そんな俺たちが…」

『アンタらのお仲間の一人に突っかかられた人から陽性反応がでちゃってねえ。その人は幸い軽症だったけど、突っかかった方のお仲間探したら発症後で、残念だったわ』

「もしや、あいつ…。最近連絡取れないと思ったら」

『というわけで、アンタらも感染の可能性大。しかも県外の人襲ったりして感染拡大をしかねない危ない集団なんで、このまま隔離させてもらうわ』

不意に車が動き出す。

「わー、どこに行くんだ!」

『自動運転で隔離施設に直行だよ、まあワクチンや治療薬の研究も兼ねて施設なんだけど。アンタらには治験に協力してもらうわ。全員感染してるみたいだし、ちょうどいいでしょ。刑務所に入るより実験台のほうがマシなんじゃない』

「いやだー」

「う、訴えてやるー」

と最後の抵抗を試みる男たちだったが

『あ、この会話記録に残んないから。そもそも被疑者に懇切丁寧に説明する必要ないからねえ。まあ後で権利の説明は直接、いやガラス越しにするけど』

「ひいい、このまま拉致かあ!」

『危険な感染者を隔離だよ、正確には』

泣きわめく自粛警察クラスターを乗せ、車は目的地を目指し、県境を超えて走り続けた。


どこぞの似非民主主義国家では警察と名乗る集団がちらほら見えますが、名乗るのもやってることも法に触れていると思われます。ウイルス蔓延を防ぐには検査と軽症でも隔離を徹底。自粛を強制という言語矛盾のアホなことをさせるなら休業補償などを充実させることに限ります。弱者に八つ当たりするより、賢いトップ陣に挿げ替えた方が、感染拡大も防げ経済も早く回復すると思うんですがねえ。

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