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契約という名の冒険を  作者: 猫目
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始まりの場所編

『またね』

その神様の言葉を最後に俺の体が浮遊感に包まれ、視界は真っ白に染まっていく。

そして緩やかに、何処かに吸い込まれていくような感覚に変わっていく。

あぁ、本当に始まる。

次の場所は何処だろう、どんな仲間に出会えるだろう。

記憶だけを頼りにするならば、初めての冒険。

普通なら不安や恐怖というものもあるのだろう。

だが既視感というものはやはり拭えず、不安も恐怖も無かった。

ただ今回の冒険を楽しみに心踊らせていた。

やがて吸い込まれるような感覚もなくなり、始まりの場所に着いたと直感的に悟った。


《3》始まりの場所

目を開くと、そこは神殿のような場所だった。

といってももう随分と風化していて、壁や柱が所々崩れている。

壁画のようなものも見受けられたが、大部分が消えているか崩れているかで、元の姿は見る影もない。

そして薄暗く、誰かが出入りしている様子もない。

他に何かないかと探していると、神殿の奥へ続く扉が少し開いているのを見つけた。

開いている隙間の部分から、青白い光が漏れていた。

外に続いているという感じではないが、扉はその一つだけだった。

扉の先は青白い光と同じ色の霧に包まれた部屋だった。

《4》自分の中に居る者

そしてその部屋に突然

水の中に雫が落ちたような音が響き、青白い霧の色が変わっていく。

部屋の霧が段々と水彩画のような景色を造っていく。

気づけばそこは

白い霧が立ち込め、落ち葉が地面を覆い

そして季節が冬に変わる直前のような寒さに包まれている場所に変わっていた。

この場所の雰囲気を例えるとするなら

人が立ち入ってはならない迷いの森、とでも言えそうな場所だ。

そして俺は、何処かへ向かわなければならないと思いつつも、体が固まったように動けない。

「グオォォォォオオ…ギャアァァァァアア!!」

一切動かない体に不安を覚えていると、突然何かの雄叫びが森に響き渡った。

地を這うような声から、この森全体に響くような甲高い声に変わる雄叫び。

その雄叫びを上げた正体が近くに居るとわかった瞬間

先程まで全く動かなかった体が、その正体を追うように動き始めた。

自分の意思とは関係なく、ただひたすらに森を駆けていた。

早く見つけなければ、早く倒さなくては。

何も理解していないのに焦りだけが頭の中を巡る。

[見つけなきゃ]

何を?

[雄叫びの正体を]

何故?

[倒すため]

何故倒す?

[それが契約だから]

混乱と焦りの中、まるで自分の中に全てを知っている誰かが居るかのように

自問自答を繰り返していた。

そして雄叫びの正体を見つけた瞬間、体と頭が

【自分の中の誰か】に乗っ取られるような感覚に陥った。

そこからは

自分の動きを自分の中から見つめているような感覚になっていた。

目の前に居るのはグリフォンだろうか?

最早元は何だったのか分からない状態の肉を喰らっていた。

体を乗っ取っている俺の中の誰かは

携えていた剣を抜き、素早くグリフォンに斬りかかった。

飛翔されないよう片方の翼を斬り落とし、痛みで怯んだのを見逃さず背中を切り裂く。

それでも尚息のあるグリフォンの頭に剣を突き刺したことで、グリフォンは息絶えた。

グリフォンに反撃する余地すら与えない動き

乗っ取られているとはいえ、自分がやったと思うと恐くなった。

そして息絶えたことが確認出来ると、乗っ取られている感覚が消えた。

困惑したまま呆然とグリフォンの死体を見つめていると

「いっ、今のは一体…貴方は何者ですか…!?」

突然誰かに声をかけられた。

声をかけてきた人を見ようと思った瞬間

また水の中に雫が落ちたような音が響いた。

そして気づけば、青白い霧が立ち込める神殿へと戻っていた。

《5》限界と始まり

「今のは何だ…?妙にリアルで…あぁまだグリフォンを刺した感触が残ってる…」

先程から、混乱、困惑の連続だ。

[なんだ、この程度で疲れたのか?]

追い討ちをかけるように、また何かが起こった。

誰かに、頭の中に直接話しかけられていると言えば分かりやすいだろうか。

[返事くらいしろよ、おーい?]

「さっき、俺の体を乗っ取った人?」

正直もう限界だが、無視をするわけにもいかない。

限界の頭で考えられる可能性を導き出した。

[お、返事したな、そうそうお前が考えてる通りだよ]

[あーそうだ、今回のお前の冒険が終わるまでお前の体の中にいるから、よろしくな]

…あぁもう、何でもいい、とりあえず休みたい。

俺は結局、神殿の中で倒れるように眠ってしまった。

[あらら…まぁ最初は毎回こうだもんな]

[またよろしく、主さん]

これから、俺の中にいる人との冒険が本格的に始まろうとしていた。

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