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契約という名の冒険を  作者: 猫目
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神との契り編

プロローグ


君が今から読むのは

〈何度も記憶を消し、数えきれない程の冒険を繰り返す〉

という契約を、この世界の神様とした一人の男の冒険物語の一つ。

君がこの物語を読んでいる間も、男は記憶を消して冒険をしているかもしれない。

はたまた休息中にその男本人がこの物語を読んでいたら、それはそれで面白いかもしれないね。

その時の俺がどんな顔をしているのか見れないのがとても残念だ。

…さぁ知ってくれ。

この世界の美しさと残酷さを…

神様と人の存在を越えた絆が生まれたことを…


《1》終わりのとき

「今回の冒険は終わりか。次はどんなところかな?」

目の前には漆黒の竜。

周りには旅の中で出会った仲間がいる。

ウィザード、ナイト、アサシン、スナイパー、ウォーリア…

俺は様々なジョブの仲間と共に、たった今この竜を倒した。

普通なら強力な敵を倒した喜びで舞い上がるのだろう。

だが俺を含め、周りの者は全員寂しそうな暗い顔をしていた。

俺の体が光り始める。

やがて体が光の粒となり、少しずつ体が透けていく。

戻るときが来たのだ。

契約に従い、今までの記憶を消して始まりに戻るときが。

俺の体は光が砕けるように消え去った。

周りの仲間を【また】置き去りにして。


《2》永久の始まり

目が覚めると目の前には白い空間が広がっていた。

ただ、正確に言えば真っ白というわけではない。

自分の足元に何処かの世界を真上から見ているような景色が広がっている。

自分がとても高い所に浮いていて、そこから世界を見下ろしているような感覚に陥る。

『やぁリラン、今回の冒険はどうだったかな?』

不思議な光景に目を見張っていると、唐突に声をかけられた。

ショートヘアの白銀の髪、黄金の瞳、白く透き通った肌色をした中性的な顔立ちの人が立っていた。いや、人と言って良いのだろうか。

目の前のナニカからは何処か人ではない雰囲気を感じる。

その雰囲気に警戒し口を開けずにいると、目の前のナニカが先に口を開いた。

『あぁすまない、驚かせてしまったかな?』

『安心していい、危害を加えるつもりなどないよ』

嘘を言っているようには感じないが、こんな可笑しな場所に平然といる存在の言葉を信用するのは容易ではない。

恐怖からか、単なる興味からか、はたまた本能的にか。

俺はいつの間にか目の前のナニカに向かって質問攻めをしていた。

此処は何処だ、貴方は何者だ、何故自分のことを知っている

とまぁこんな具合に、兎に角質問し続けていた。

『おっと待つんだ、そんな一気に質問しないでおくれよ。焦らなくても一つづつ説明するさ、まずは落ち着くことから始めよう』

…確かに落ち着くことは大切だ。

そう思い深呼吸を繰り返した。

少し冷静さを取り戻すと、目の前のナニカは

『それじゃあ、質問にお答えしようか』

先程俺がした質問に答えてくれた。

『一つ目、私が君のことを知っているのは、私が君を選んで此処に呼び寄せたからだ』

『そうは言ってももう随分と昔の話なのだけれどね、話がややこしくなるからそこは省略させてもらうよ?』

最後が疑問系なのは、それで良いか?という意味だろう。

正直「呼び寄せた」だとか理解できないことを言われた上に、それが随分昔のことで…なんて説明されたら本当に頭が追い付かなくなる。

そうなったら最初に逆戻りだ、俺は頷いて次の質問に答えてくれと促した。

『うーん、私が誰か、此処が何処かというのを別々に答えると、また君が混乱してしまいそうだね…』そう言って少し悩んでいた様子だったが、やがて口を開いた。

『そうだな、まず此処はこの下に広がる世界の地盤のような場所、そして私はこの空間そのものの地盤だ、あぁやっぱり…どちらにしろ混乱させてしまったね…』

それほどわかりやすい顔をしていたのだろうか。

まぁ図星ではあるのだが。

『ここで私が更に情報を与えてしまうと余計に混乱してしまうだろう、何となく理解が追い付いたら教えておくれ』

その気遣いは有りがたくもあり、少し困るものでもあったが、俺なりに考えをまとめた。

この空間が下に見える世界の地盤、つまり支えのようなもの。

そして目の前にいるナニカはこの空間の支え…。

そこまで考え付いて、俺は悟った。

ナニカは地盤の地盤。

つまり世界と空間の二つを同時に支えている。

そしてナニカの口振りからして、ナニカの地盤は存在しない。

「神」

その一文字が俺の頭をよぎった。

目の前のナニカは、変わらず人の良さそうな笑みを浮かべてこちらを見ている。

それを見て恐怖に似た、けれどまた違う感覚が俺を襲った。

そんな俺の様子に気づいたナニカは

『何か聞きたいことはあるかい?さぁ、何でも聞いて?』

次の俺の言葉を知っているような口振りで、言葉を促した。

特に遠回しに言う必要はない。

どうせいつかはこの質問をぶつけるときがくる。

何故かそれを直感的に感じ取っていた。

だから素直に、ナニカに質問をぶつけた。

「貴方は神なのか?」と

察してはいたが、ナニカはその質問に驚くこともなく、戸惑うことも迷うこともなく、ただ一言

『そうだよ』

とにこやかに答えた。

その答えを聞いたとき、俺は不思議な程納得していた。

自分で考え出して質問したとはいえ、こんなにもあっさり受け入れてしまうものなのか。

ナニカ改め、神に対してではなく、自分自身に疑問をぶつける羽目になってしまった。

『君はいつも通り、あっさり受け入れた自分に混乱するんだね』

そう言って神は少し笑っている。

その光景に懐かしさを覚える。

先程からずっとそうだ。

考えをまとめて結論を出したとき、結論に確証を得る為に質問をしたとき、そして今の光景…

全てに既視感があり、神もまた、全てのやりとりを経験したことがあるような口振りをしている。

そして俺と神は、流れる水のようにさらさらと、質問と回答を繰り返した。


質問と回答。

その全てを書き連ねても、どうせまたいつか同じやりとりを繰り返す。

だから今回は

今この物語を読んでいる君が、今後のことを理解できるように、重要な内容だけを書き記しておこう。


まず俺は、この神様と契約をしている。

神様が創った世界を旅して、その世界で一番強く、一番害をなしているモンスターを倒す。

分かりやすく言えば勇者紛いの冒険だ。

そしてその冒険が終われば、俺は記憶が消えた状態でこの神様がいる空間に還ってくる。

そしたらまた、前とは違う場所に冒険に出る。

それをほぼ永久的に繰り返すという契約だ。

他にも、この契約をした経緯や、何故神様が俺を選んだのかとか

色々と話したことはあるが、それはまた次の機会にするとしよう。

どうせこの物語は、書き加えられていくのだから。


『さぁ、今回は此処に行ってもらおうか、またね』


さて、ここからは俺の冒険物語を君に伝えていこう。

退屈はさせないから、どうか楽しんでくれ。

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