大っ嫌い。……ごめんね、嘘です。本当は、大好き。
「はい、お茶。ちゃんと水分補給しなきゃダメだよ」
鏡夜から渡された緑茶のペットボトルを二人は受け取りゆっくりと飲んでいく。
ふぅ、と息を吐いて十夜は二競技目をぼーっと眺めていた。特に面白みもない。
でも、クラスメイトが活躍してる。当然か。まぁ、頑張れと内心声援を送る。
遠夜は、ブルーシートの上でゴロゴロしている。
そして、始まった長距離走。遠夜は最下位。我は一位。
遠夜は最下位でも最後まで走り切ったことに満足していた。去年は、50メートルで終わったもんな。
この後の競技は我等は出ることも泣く昼休憩。トイレと言い席を外した遠夜。弁当を広げてくれる鏡夜。
我も少しトイレに行こうと席を立つ。もちろん、事前に言って。
校内のトイレ目指して歩いていると後ろから声がかかった。
「遠夜!」
ああ、この声は知っている。よく聞いていた。振り向くことなく校内に入る。
「待って! 俺、思い出したの! それに、遠夜に謝りたい!」
もう。うるさいぞ。仕方なく我は振り向いた。
「と……おや?」
想像していた容姿とは、違って驚いたのか海月碧は目を丸くしていた。
なにか文句でもあるのかとばかりに彼を睨む。
と、そこに、
「十夜―」
彼が待ち望んでいた遠夜の登場。
海月碧は更に目を丸くして我と遠夜を交互に見ていた。
「遠夜? え、でも……」
「あ、おい……?」
遠夜と海月碧が見つめあっている。遠夜も海月碧も困惑を瞳に映して。
先に視線を逸らしたのは遠夜だった。脱兎のごとく駆け出す。
「待って! 遠夜!」
海月碧も駆け出す。我が出来るのはなにもない。これは、二人の問題だから。
碧に見つかって俺は走っていた。息が切れても足が痛くなっても走っていた。けど、壁が目の前に迫り立ち止まったのだ。
荒い呼吸を整え後ろを振り向く。碧は、息一つ切らしていなかった。
徐々に近付いてくる碧から、逃れようと後退する。でも、背後にあるのは壁だ。逃げれない。
「遠夜。話をーー」
「嫌だっ! なにも聞きたくないっ!」
両耳を塞いでその場にしゃがみ込む。罵詈雑言なんて聞きたくない! 絶対に嫌だ!
そう思っていた俺に予想外の言葉が降る。
「ごめんね」
泣きそうな声で言われた言葉に、俺は顔を上げる。碧は、今にも泣きそうに両眼に涙をためていた。
なんで? なんで、そんな顔してるの?
分からず碧の顔を見つめる。
「俺ね。あの時、遠夜にどう接していいか分からなかった。だから、離れちゃった。けど、けどね。本当はそばにいたかった。遠夜とずっと一緒に。それこそ、死ぬまで。なのに、離れてごめんね。こんな最低な俺、大っ嫌いになったよね」
「そ、うだよ。大っ嫌い! 碧なんて、嫌い。嫌い、だ、もん……っ」
大っ嫌いと言うたびに胸がひどく痛んだ。両目から涙があふれてくる。本当は、本当は……。
「……でも、俺は遠夜のこと好きだよ。大好き。愛してる」
「……っ」
「でも、この想いも遠夜を苦しめちゃうよね。ごめんね。好きになって。でも、遠夜のこと好きなままでいさせて……っ」
碧。碧! ごめんね、嘘だよ。大っ嫌いなんて。大嘘なんだよ!
立ち上がり俺は碧に抱き着いた。驚く碧が息をのんだのが分かった。
「嘘、ついてごめん。大っ嫌いなんて、嘘なの。本当は、本当は大好きだよ。碧のこと。今も、前も。ずっと、ずっと」