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我らの宝物  作者: 朝風由紀菜
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彷徨う恨み


 あの世界では、我は遠夜と遠夜の幼馴染の敵の様な存在であった。呪いを広めた元凶。

 遠夜が嫌われるように仕向けた犯人。

 それでも。遠夜の幼馴染棚田七星は、離れていこうとしなかった。恋人や友人が離れても、あいつは頑なに遠夜を守った。

 以前、我に嘘を教えた罪悪感なのかは分からないが。時折、あいつは我に謝る。

「十夜、ごめんね」

 正直謝られても許すわけはない。けど、遠夜が全面的に七星を信じているなら。我も信じざるを得ない。

 そんなことがあると、何故か我と遠夜の意識はリンクするのだ。いや、正確には対峙、か。

 真っ暗な世界で、全てに絶望した遠夜と会うのは辛かった。

 全てを恨みながら、遠夜は死んだのだ。最後に遺した手紙には、自分に対する恨みつらみを書いて。

「なんで、俺生まれたんだろう。この身体は、片割れの物なのに。なんで、俺が俺として存在してる? 誰からも愛されなかったくずなのに。最後は最愛の人に捨てられて。なのに、なんで生きてんの。死んじゃえ。本当、早く消えろよ」

 また、我が実体を持ち。何故かその手紙を発見したときは、遠夜はかなり苦しんでいたのを知った。

 自分を恨み。周りを、世界を恨んだ遠夜。それなのに、まるで神様の悪戯の様に再び命を授かった。

 記憶がない分、その恨みは見えないだろう。けど、今。記憶が戻りつつある。その恨みは、どこに向かうのだろうか?



 ⌛



 ふわっと意識が浮上する。真っ白な天井が視界いっぱいに広がった。鼻腔をくすぐる消毒液の匂いに「ああ、ここは保健室か」とひとり呟いた。

 微妙に痛む頭を抑えながら、身を起こす。きょろきょろと辺りを伺うも遠夜も保険医もいない。

 ベッドから出ようとした時、ドアが開く音が聞こえた。

 パタパタと近付く足音。シャッとカーテンが開けられる。

「Guten Morgen」

「……Guten Morgen」

「急に倒れるから、びっくりしたよー」

 心配そうに遠夜は、我を見て言葉を紡いだ。申し訳ないと思いつつ、遠夜があのことを思い出すとなるとかなり辛かったのだ。

「ごめん。遠夜」

「ううん、大丈夫。それより、さ。帰り、いつもの場所でお話ししたいの」

 一瞬、遠夜から表情が抜け落ちた。ぞっとするほど冷たい眼差しでどこかを見ながら。

 しかし、それはすぐになくなり。いつもの、表情がコロコロ変わる遠夜の顔になった。

 話。きっと、いいことではないだろう。そう思いつつも我は無言で頷いた。

 はい、と渡された鞄を手にして我らは保健室を後にした。駐輪場に停めていた自転車を押しながら、いつもの場所に向かう。

 公園について、飲み物を買って。人気の少ない水辺に向かう。遠夜はあの時から、水辺が好きだった。

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