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我らの宝物  作者: 朝風由紀菜
3/10

僕がこの世界に生まれたのは、運命の女神様の悪戯なんだね。

 遠夜の頬についた米粒を取って食べる。にぱぁと笑って「ありがとー」と礼を述べてくれる。

 小さく「どういたしまして」と返して昼飯を完食。食後のコーヒーを飲みながら、遠夜と談笑していた。

 午前の授業の英語が難しかったと遠夜はしゅんとなりながら言う。ドイツ語は自由に操れるのに。

 後日本語も不自由。不思議だと思ったが、思い出してみれば昔はドイツに住んでいたんだ。

 十歳になるまで、ドイツにいて。父親の転勤で日本に帰ってきた。十六になって、ようやく遠夜は日本になれた。

 それでも、難しい日本語は理解ができない。それと、日本の情勢も分かっていない。

 ドイツだけど、田舎と違って都会には危険な人間がたくさんいる。ましてや、遠夜は愛らしいから。簡単に攫われる。

 何度誘拐未遂があったことか。

「十夜、次の授業なに?」

「確か、体育」

「ほうほう。何するの?」

「さぁ」

「そっかー」

 空になった紙パックを潰しながら、遠夜は空を見上げていた。何かあるのかと思い我も空を見上げる。

 眩しいぐらいの青空が広がっているだけだ。

「あのねー」

「ん?」

「たまに、不思議な夢見るの。俺は、どこかの家に住んでいて。そこに、恋人と友人がいるの」

 遠夜の言葉に思わず紙パックを握り締めてしまった。思い出すなと念じる。

 だって、それは――

「後、幼馴染と従姉弟がいるの。でね、十夜達が、悪者で。俺それ見て悲しくなった。それで、最後は」

 だめだ。遠夜。言うな。頼むから。

「友人と恋人に見捨てられて、幼馴染に看取られるの」

 手から握りつぶした紙パックが落ちた。くすくす笑う遠夜の声がやけに遠く聞こえた。

 我はその夢を知っている。だって、それは夢ではない。実際にあったことだ。

 くらりと眩暈を覚えた。一番思い出してほしくないことだった。平穏な生活。幸せな日常。

 それだけ、遠夜に知っていてほしかった。

「Ich wurde in dieser Welt geboren ist der Unfug der schicksalhaften Göttin.」

 意識を失う前。温和な遠夜からは、想像できない憎らし気な声でそんなこと呟いているのが聞こえた。

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