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9話 初めての禁忌

 メイジ・クローア。

 ひと昔前に魔法で大国を滅ぼした張本人であり、今俺の手にある日記の持ち主でもある。

 彼が生まれたのは武の力のみを固持し、魔法を認めない国だった。

 メイジはある時森で魔法使いに助けられ、魔法使いに憧れを持った。

 彼は魔法の修行をし、その才能で大魔法を会得したが…

 彼を疎ましく思った連中の策略で家族が皆殺しにされてしまったらしい。その連中の中には王族もいたとか。

 その上で武の国の物が魔法を使うなぞ恥を知れとか心無い暴言を聞き、メイジは激怒し、国を滅ぼした…

 要約するとこんな感じだ。

 結局のところ屋敷の手掛かりは無かった。完全な無駄だったということだ。

 ふと、振り返ってみると天井から差す月の光は傾きを無くしてきていた。もう深夜だ。


「眠いな…」


 一度眠ってはいたが子供の消費エネルギーは非常に大きい。

 普段ならとっくに眠っているはずの時刻、眠気を催すのも仕方ないだろう。

 が、今回はこっそり家を出てきている。早めに帰らなければ両親も心配するだろうし、人さらいを疑われ大騒ぎになってしまう可能性もある。

 それに、俺としてもずっとこんなところに居たくない。曰くつきの場所でグースカ寝てられるか。現に幽霊も出ているというのに。


「次は…これか。」


 泥だらけの本をめくる。

 …そう言えば、本も道具も全て焼かれたとか言われたような…じゃあこれはなんなんだ?

 運よく見逃されたのだろうと思い、その時は深く考えずに本を読んだ。







「………完全に魔法の使い方だなこれ。」


 内なる力とか放出とか、もう完全に異能の類のそれだ。

 この世界の異能と言えば魔法くらいしかない。それ以外は巫女や神官の神降ろしとかの神関連ばかりだ。

 どう読んでもこの本にあるのは神がどうのといったものではない。

 なんでこんなものが見逃されたのだろうか。

 部屋に転がる木箱に目が移る。

 木箱は泥だらけ、サイズは日記とこの本が入る程度……隠されていたのか。


「見つかったらやばそうだし、外に出たら埋めとくか…」


 この世界において魔法は禁忌。

 こんなものが見つかったらまずいし、間違えて読まれてもやばい。

 とりあえず木箱に日記と共に入れる。泥だらけなので小脇に抱えて移動できないのが痛い。

 もう朝の散歩で転んだとか言って泥だらけで帰ろうか……最終手段だな、それは。

 焼くのが一番だろうが、煙が出れば目立つ。火事だと思ってかけつけた人に見られるリスクがある。

 どうあれこの部屋から脱出しなければ焼くも埋めるもできない。部屋にある唯一の扉をゆっくりと開く。


「廊下か…」


 見えたのは薄暗い廊下。

 火のついたろうそくを持って来ても視界が良くないので、罠に気付きにくい。


「…ん?」


 奥には通路と、月明りに照らされた的があった。

 横には“撃ち抜け”と書いてある張り紙がある。

 なにでだよ。

 さっきの部屋には銃どころか弓も矢も無かった。

 何かを投げて届く距離でもないし、今撃てる物なんて無……


「……」


 ある。

 たった今使い方を知ってしまった魔法が。

 魔法使いが国を滅ぼした経緯も分かったし、三歳までは魔法を期待していたため俺の中では魔法を使うことに対する忌避感はほぼ無い。

 しかし世間は別だ。

 語り継がれた脚色のせいで魔法使いは気まぐれで国を滅ぼした事になっているし、人々は恐れる物の対象としてしか見ていない。

 謂わば禁忌なのだ。

 だから例え覚えても使用はできない。

 ……誰も見てなくてもか?

 あの部屋には食料が無いため、何日も閉じこもっていれば餓死しかねない。

 悩み過ぎて時間を掛け、ヘロヘロの状態で脱出を試みるのも避けたい。

 …言い訳染みてきた気がするが、魔法を使わない手は無いのだ。

 一か八かと突っ込んで行っても多分死ぬだけだろう。

 試しに箱に着いた泥をかき集め、廊下に投げ捨てる。


 ボウッ!


 床に着いた瞬間、泥は燃えた。

 第二打を放り投げても結果は同じだった。


「……」


 一つ、決意する。

 ここから出たら魔法は使わない。絶対に。

 一度を許すと二度目も許してしまう。

 だから、外での一度を許さない。許してしまえば俺は国賊コース確定だ。

 魔法をイメージする。

 確か、一度魔法に触れなければ魔法は使えないんだったか…

 ドアノブの罠と針の罠、そして謎の治癒現象。このどれかが魔法であれば俺も魔法が使えるはずだ。

 イメージするのは雷。

 俺に眠る内なる謎の力が、前に出された両手の前で渦巻いて――――

 ――――的に向けて一直線。


 ビリッバチッ


 小さな音を鳴らして進む紫の光。

 狙いを違うことなく的に当たり、


 シュ~…


 的を黒焦げにした。

 もう一度泥を投げる。


 ビシャッ


 今度は床についても燃えなかった。

 かくして、俺が使った初めての禁忌(魔法)は成功した。

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