6話 閉じ込められた!
廃屋の中に逃げるのよ!
町から少し外れた場所にある廃墟。
そこには、昔魔法使い狩りで居場所を追いやられた魔法使い達が住んでいたという噂があった。
曰く、今でも魔法使い達の怨念がとどまっている。
曰く、魔法使い達が残した不思議な道具がある。
…と、そんな推測をしながらすすむこと数分。
俺たちはようやっと件の廃墟の前に辿り着いた。
近くで見ると結構大きい。廃墟とはいえ大人数が住んでいたので当たり前かもしれないが。
「…入れるのか?」
「さすがのあたしもこれは予そう外だった…」
廃墟の周りは柵で囲われていた。その傍らには“立ち入り禁止”の旨が書かれた看板。
こんなヤバそうな場所が規制されていない訳が無かった。内心少しほっとした。これで少しは――
「進むにはほふくして進むしかないわね…」
―諦めてくれなかった。
「えー、お洋服をよごしたらおこられちゃうよ。」
「女々しいことを言わないで!」
「いや、女々しいも何もリラは女だろ。
それと、服を汚すのはまずいって言うのは賛成だ。夜中に外に出たことがばれるからな。」
「自分であらえば良いじゃない。」
「一晩じゃ乾かないだろ。」
「………あ!おもらしして自分であらったって言えば!」
「小学生の内に言っておく、おもらしとか女子が言うな。恥じらいを持て。
あと、その時は布団も洗っとけよ?」
「ああもう!ああ言えばフォーユー!フォーエバーアーユー!!」
「なんか違う。いや、かなり違う。」
ノイの中途半端な語彙力は何のせいなのだろうか。
「…のりこえるってのはどうだ?」
「どうやって?」
「1人をふみ台にして、他のやつが上がる。
そして上がったやつがふみ台役を引っぱる。」
「さいよう!アンタやるわね!」
マッスめ…余計なことを。
行けないなら無理じゃないか作戦は失敗に終わってしまった。
「じゃあ、あんたがふみ台ね!」
「え?」
「ほら早く!アンタがふみ台になるのよ!!手を地面につけて!!」
「こう?」
マッスは空気に土下座した。
吸っててごめんなさい的なことだろうか。
「頭上げて!あ、立てってことじゃなくて!」
もちろん違う。ノイの指示を誤解しただけだ。
すまないな、俺がいつか教えた土下座のせいで。
マッスは小太りな分、この中では土台に最適だろう。
女子を踏み台にする趣味は無いし、俺も太ってないのでマッスを支え切れる自信が無い。
必然的にマッスが踏み台にならなければならないのだ。
「じゃあ、あたしからね!」
ノイがマッスを踏み、柵を乗り越える。
しかしこの柵、やけに低いような気がする。
1mと少し位だろうか。かなりやばい場所だし、フェンスとか金網とかが開発されてなかったとしてももっと高く…
……日本も割とそうだった気がしてきた。じゃあ大丈夫か。
「アインも早く来て!」
「ああ。」
リラも柵を乗り越えていた。
俺も柵を乗り越える。
「さいごはマッスね!」
「掴まれ。
おもっ…皆で引っ張るぞ。」
俺一人では無理だったので三人で引っ張ってマッスを引き上げる。
マッスは引き上げられながら柵に足を掛け、何とか柵を乗り越える。
「帰りもこれか…キツイな。」
「お前は好きな相手に踏まれたり掴まれたりするから良いだろ、大変なのは引っ張る俺たち」
「泣き言は言ってらんねーなぁ!さあ行くぞお前ら!」
リラがマッスの背中に足を掛けた時に見てしまった。
マッスの顔がニヤついていたのを。
アイツそういう趣味があるのか…忘れとこう。
「入り口は…」
「たくさんあるだろ?そこら中あなだらけだ。」
「せっかくだからげんかんから入りましょうよ!」
気持ちは分かる。
気心知れた友人の家でも、玄関ではなく窓から侵入することはしないのと同じだ。
…自分で思ってなんだが少し違う気がする。
「ここみたい。」
「入ろう!おじゃましまーす!」
ドアを開けて廃屋に入るノイとそれに付いて行く俺たち。
周りに誰もいないとは言え、こっそり来ていることを忘れそうなくらいのはしゃぎようだ。
誰にも見つからなければいいが…
「けっこうかんじ出てるね…」
「暗いし怖いし恐ろしい!よし帰ろう!」
「かえらせないよ?
っていうか、あのさくをこえるにはマッスがいなきゃいけないよね?」
「……わたしもかえりたい。」
リラはもう帰りたいらしい。
彼女はホラーを楽しめるようなタイプではない。
偏見かもしれないが、お淑やかなお嬢様のような…あ、女王様じゃないぞ。
リラは入ってきた扉に手をかける。
「いたっ…!」
ドアノブに手を掛けたリラが手を引っ込める。
確かにドアノブは金属でできているが、今は夏だ。
日本と同じ高温多湿の状況だというのに低温、乾燥している冬によく起きる静電気が起きるとは考えづらい。
「パチッとしたのか?」
「今夏じゃないの。そんな訳無いじゃない。」
マッスもノイも同じ結論に達したらしい。
俺も試しにドアノブに触れてみる。
「……いって!」
触れてみると、妙な痛みを感じた。
静電気の痛みに近いが、同時に変な熱さを感じる。
少し耐えようとしたのだが、痛みは触っている間だけ続く。しかもその間手の力が抜けて回せない。
魔法使い達が掛けた魔法なのか、それとも怨念なのか…どちらであれ、出られそうにない。
「駄目だ、そこからは出られない。
どうやら魔法使いの亡霊は俺たちを逃がさないつもりらしい…
進むぞ、さっき空いてた穴なら出られるはずだ。」
この廃屋は穴だらけだ。
ドアノブに仕掛けはできても、魔法使い達が居なくなった後にできたと思われる穴なら仕掛けはできないはずだ。
「気を付けろ、なにがとんでくるか分からない。」
「とんでくるって…さすがにそれはおおげさじゃない?」
「ここは忍者屋敷ならぬ魔法屋敷だ…
さっきのドアノブみたいな魔法的な仕掛けが他にもあるかもしれない。気を付けるんだ。」
「何?忍者って。」
「あー…身体能力が優れて、魔法に近いことが出来る特殊部隊だ。
暗殺に特化してる集団だな。
その屋敷にはからくりが多数仕込まれていて、人はそれを忍者屋敷と呼ぶとか。」
「へー!よく知ってるわね!」
「遠い国の本に書いてあった。」
日本の本にな。前世の。
「それと、下手にドアノブに触るな。いや、物に触るな。
さっきみたいに何が仕掛けられてるのかわからない。」
「ゆかは?」
「…流石に宙に浮けとまでは言わない。
ただ、注意した方が良いだろうな。床にスイッチとか仕掛けられてるかもしれない。よく見れば回避できるかもしれないしな。」
その時だった。
足が止まり、ビン!と糸を強く引っ張った時のような音がしたのは。
急に足が止まり、バランスを崩してビターン!と頭から転ぶ。
「……すまん。」
「言ってるそばからひっかからないでよ!」
倒れたまま謝る。
引っかかったのは俺でした。