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5話 屈服

 

「肝試し?」


「うん!なつ休み中にどうかなって!」


 時は過ぎて夏。

 終業式的な何かが終わり、下校する前に4人で集まって夏休み中の計画を話し合っていた。

 基本的に4人で遊ぼうということ。わざわざ遠くからこんな田舎学校(エメン)に来る生徒はいない。その為必然的に皆村の住人――つまり、ご近所さんと言うことになる。

 だから集まるのに苦労はしない。ただ、あらかじめ集合場所を決め、お互いの都合が合えば容易に集まれるのだ。


「あたしの聞きこみで見つけた中なかふぜいのあるスポットよ!」


 相変わらず年に合わない単語を中途半端に使うノイ。

 肝試しスポットに風情も何もあるか。あるのは恐ろしい雰囲気だけだ。


「それってどこ?」


「ひみつ!じゃあ、こんや学校の前にしゅう合ね!」


「こんや!?きょうかよ!?」


「てつはあついうちに打たなきゃ形がかわらないの!」


 日本こっちのことわざに近い例えだな。


「なんでも、むかしまほうつかいがすんでたらしいんだけど、“まほうつかいがり”でそこにいたまほうつかいがみなごろしにあったとか…」


 秘密とは一体…

 っていうかこえーよ、大人ですら近付かんわそんな所。

 今ノイが言った“魔法使い狩り”とは、少し前に行われた運動…まあ、簡単に言えば魔女狩りの魔法使いバージョンである。

 実際の魔女狩りの理由には金目当てとか異教徒とか諸説あるらしいが…この世界の魔法使い狩りの理由は一つだ。

 “恐ろしくなったから”。

 魔法使い狩り以前は魔法使いは少なく、町一つ探して一人いればいい方、みたいな感じだったらしいため理解者が少なかった。一部の地域では伝説上の生き物とすら言われていたらしい。

 そんなのが急に天災レベルの魔法を披露した日にはどうなるか。

 天才と名高かったとある一人の魔法使いが、数十年前に一度の魔法で一つの国を滅ぼした。

 そのニュースは世界中に瞬く間に広がり、ある国は魔法使いを排斥すると宣言し、他の国も同様の結論に至って世界中の魔法使いが迫害された。

 そしてそれは10年ほど前に終わったらしい。

 何故なら、この世界の魔法使いを全て消したからだ。

 …と、ここまでが俺の家にあった童話の内容だ。

 実際に起きたことらしく、両親は事あるごとに魔法使いをなまはげのように酷使していた。

 魔法使いは子供が夜に出かけたら誘拐しなきゃいけないらしい…大変だな。本当に居たらジュースでもおごってやるか。

 って、なんて場所に行こうとしてやがる。近付いたら見つかって説教コースじゃねーか。最悪村から追い出されるぞ。

 あと、なんか化けて出てきそう。


「ええ!?そこはパパもママもちかづいちゃダメって」

「バレなきゃおこられないの!」


 バレれば終わるけどな。

 あと、バレなくても犯罪は犯罪です。


「そもそも、よるにいこうとしたら止められるよ…」


「バレなきゃ止められないの!」


 知らないんじゃ止めようが無いからな。


「村から追い出されるぞ。」


「バレなきゃ」

「追い出されないか?」


「…そうよ!」


 台詞を取られてややご機嫌斜め。3°くらいか。あまり怒っていない。


「来なかったらいえにしのびこんででもひきずっていくから、ぜったい来てね!」


 行かなかったら住不法侵入罪に加えて誘拐していくのか…

 クラスメイトが悪事に手を染めるのは見たくないので、俺は家を抜け出してでも行くことにした。

 …ちょっとだけ面白そうだと思ってしまったのは秘密だ。







「やっと来たわね、アイン!」


「……まさか全員集まるとはな。」


 少し早めに家を抜け出し、門の影に隠れて学校の前の様子を伺っていた。

 最初に来たのはやはりと言うべきかノイだった。その次にマッスだ。なんだかんだであの悪ガキも興味があったらしい。

 ノイとマッスが少し話した後、ノイがどこかへ行った。

 1人暇そうに待つマッスを見ながらなんでこんなことしてるんだろう、家に帰りたいと考えていたところでノイがリラを引きずってきた。どうやら本当に住居不法侵入と誘拐を成し遂げてしまったらしい。

 俺が知る中で一番してはならなかった有言実行だ。


「いえに行ってもいなかったから、てっきりにげたのかとおもってたけど…やっぱりアンタはこしぬけじゃなかったね!」


「いや、そうでもないさ。正直ちょっとビビってる。

 …だから、止めておかないか?」


 良い友は友が間違っていた時は止めるという。

 昼間ノイを強く止めなかった俺は悪友かもしれないが、だからと言って村を追い出される友達を見たい訳でもない。

 冗談である可能性を信じたかったからここに居るのだ。

 そして、本気で信じて来てしまったら冗談に決まってるだろ、と笑って帰らせるつもりだった。

 しかし違った。

 ノイは本気だった。俺よりは遅かったが、誰よりも早く来て待っていたのがその証拠だ。子供の好奇心を侮っていたんだ。

 だからこれは俺の責任。俺が止めなくては誰も止められない。


「……アインの目、本気みたいね。」


「ああ。

 全員投げ飛ばしてでも止める。」


 前世の授業で習った柔道のスキルをこんなところで使うとは。

 …うろ覚えだからうまくいくと良いが…


「……分かった。

 後ろを向いて目を閉じて。そしたらあたしたちは帰って、残るのはアインだけ。」


「…それでいい。」


 分かってくれてよかった…

 そう思い、後ろを向いて目を閉じた。

 ―――完全に油断していた。

 二秒後には両足をとられ、右腕も掴まれていた。


「止めろー!放せ、放せ!」


「このままいきましょ!」


 唯一自由な左手で右手を掴むノイの腕を殴り続けたら右手だけ放された。

 俺は両足を掴んで引きずられたまま、例の廃墟に向かうことになってしまった。

 …結局俺は屈服し、絶対に邪魔しないという条件で歩かせてもらった。

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