3話 校舎裏にて
放課後。
人気の無い校舎の裏で俺は昼間の約束を果たす為に彼を待っていた。
「やっぱり来たか。マッス。」
待ち人はマッス。さっきリラをいじめていた奴だ。
昼間結構ムカついていたようなので来るだろうなーと思っていたが、やはり本当に来てくれた。
昼休みが終わるくらいの時間ギリギリに教室に戻った甲斐があった。
「…はなしっていうのはなんだ?」
「リラのことだ。」
「!」
リラの名前を出した途端、マッスは酷く動揺した。
「…なんだ、またさっきのつづきでもしたいのか?」
「いや、喧嘩はもういい。
さっきは話があると言ったはずだ。だから、これからするのはただの話し合いだ。」
「その、はなしってなんだ?」
「ああ、大体察してるかもしれないが、リラを避けるのは止めてやれってことだ。」
喧嘩の時の話の流れから、マッスとリラは以前は仲が良かったと考えられる。
しかし、マッスがリラを突き放してああなった…と、喧嘩の発端はこんな感じだろう。
「お前には関係ないだろ!?」
「まあ、リラとマッスの関係がどうなろうとは知らないけどな。
あの喧嘩は俺の癪に障るんだよ。ちょっと前の俺を見てるみたいだからさ…」
「おまえとおなじにするな!」
「同じだ。
お前がリラを突き放した原因は照れくささだろ?」
「ち、ちげーし!べつにてれてねーし!」
「ついでに言えば、お前はリラのことが好きなんだろ?」
「ちげーよ!なんであいつをすきになんなきゃいけねーんだよ!」
「……分かりやすいな、顔真っ赤だぞ?」
「な、なってない!あかくなんてなってねーよ!」
…今鏡を見ても同じことを言えるのだろうか。
それくらい真っ赤だ。マジで図星だったらしい。
「……そこでだ。
マッス、リラと仲直りしたくないか?」
「べつにしたくねーよ!」
「リラとはまた遊びたいし、リラとお前の親になんて言えばいいかなんて考えてたんだろ?俺もそうだったからよく分かる。
何、隠すことは無い。俺とお前は似た者同士で、仲間だ。
お前の味方でいてやるよ、当然、リラの味方でもな。」
「………」
よしよし、ちょっと信じられてきた。
人の心に付け入るところを見るにどうも詐欺師になったような気持ちになってきたような気がするが、2人の仲を取り持つためだ。出来ればリラにもマッスにも幸せでいてもらいたい。そう言った善意でやってるんだ。ああそうだ絶対そうだ。なんで自分に言い聞かせてるんだろうか。
「そうだな、まずはマッスとリラが仲直りするところから始めようか。
好きな子にイタズラしたい気持ちは分かるが、それを抑えて真面目に、誠心誠意心を込めて仲直りするんだ。」
「…どうすればいいんだ?」
「そうだな。まず謝れ。」
「はぁ!?なんでおれが!?」
「……リラがなんか悪いことしたか?」
「した!
いつもみたいに付きまとってきて、おれがいくらはなれろっていっても」
「ちょっと待った。」
「な、なんだよ。」
「想像してみろ。
まず、お前とリラが仲良く遊んでる。」
「…おう。」
マッスがちょっとにやける。やっぱり好きなんじゃねーか。
「その途中で突然、リラが離れてと言い出す。」
「なんでだよ!?」
「そうだ、そう思うよな。
その気持ちはさっきのリラの気持ちと同じだ。」
「あ…」
「……やっと分かったか?なんで謝らなきゃいけないのか。」
ここまでの会話の流れは、昔俺が親としたものとほぼ同じだった。
あとはそれを受けてマッスがどう思って、どんな結論を出すか。仲直りできるか否かはそれにかかっている。
「……うん…」
マッスは俺と似ている。だから心配はしていなかった。
「よし!じゃあ謝り方を教えてやる。」
「あやまりかた?ごめんなさいいがいになにがあるんだよ?」
「ただ謝っただけで許されると思うか?
許されるならそれでよし。それで駄目ならの一手を俺が教えてやる。」
「ほんとか!?」
「ああ!
まず、心を込めてごめんなさいだ!
悪いことをした、許してほしいと本気で思いながら頭を下げろ!
それで駄目なら最終手段だ。心して聞け!
ここからは言われたとおりにやって見ろ。まずは足を付けたまま膝を地面に着けろ。」
「こうか?」
「そうだ。
足を曲げたまま頭と手をゆっくり地面に下ろすんだ。その姿勢になったら何を言われても動じるな、その不動の姿勢が重要になる!
そして申し訳ありませんでしたと叫べ!この星の裏側に届くぐらいにな!!」
教えているのはもちろん土下座だ。
この世界にも忠誠心や誠意を示す場合は相手には頭を下げる文化はあるらしいが、さすがに土下座までは無かったようだったので教えた。
「もうしわけありませんでした!!」
「声が小さい!もっと大きく!!」
ついノリで言ってしまったが、充分大きな声だと思う。
「もうしわけありませんでした!!!」
さっきより更に大きな声を出すマッス。
これくらい大きな声なら許してくれるかもしれない。
…声の大きさは許す許さないに関係ないかもしれないけど。
「よし!
及第点をやろう、本番ではもっと大きい声を出せよ!」
「はい!!!」
翌日。
マッスはやれと言ってもいない自主練習を自室でやってしまったらしく、親に怒られたどうしてくれるんだと文句を言ってきた。
自主練は自己責任でやれよ…