表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/21

2話 入学

 今日はこの世界における小学校…的な何かの入学式らしきものだ。

 この世界では6~10歳までこの小学校モドキ―—エメンと言うらしい――で国語やら算数やら社会やらを習うらしい。

 長ったらしい入学式、クラスの紹介を終え、解散。

 そして、今はその翌日だ。

 昼休み、昼食後のことだ。

 異世界に給食制度は無いらしく、エメンでの昼食は弁当となっている。

 昼食も食べずに校庭に走っていく生徒は皆弁当が無いのだろうか。


「おのれー、いっしょにごはんたべよー?」


「俺はアインだ。」


 にやけながら話しかけてきたのはクラスメイトの女子だ。確か名前は“ノイ”だったか。

 彼女は何人か男女問わず連れてきて俺の周りの机を寄せ、席の主の断りも居れずに座り始めた。

 何故俺がおのれと呼ばれているかと言うと、自己紹介の時にうっかり前世の名前を言いかけてしまったからだ。


『小野れ…じゃない、アインだ。俺はアインだ。』


 あの時の自分を蹴りたい。

 おかげで帰り際に面白半分でからかうクラスメイトが大量発生した。

 どこぞの芸人よろしく


『アインだよ!』


 と返したらなんか笑いに包まれ、瞬く間に俺は人気者みたいになってしまった。

 いじられるのはキャラじゃないと自負しているつもりだったが、どうしてこんなことに―――

 ――嫌われ者よりは良いか。うん。ポジティブに行こう。


「きゃあ!やめて!」


「うるせえ!」


 ――と、考え事をしながら弁当箱を空けていると、消して穏やかとは言えない喧騒が聞こえてきた。


「おれについてくるな!」


「なんで!?なんでダメなの!?

 おとといまではよかったのに!」


「どっかいけ!」


「待てよ。」


 言い争っているクラスメイトの女子、“リラ”と、やや太った男子、“マッス”を見過ごせなかった。

 困ったやつはとかそんなんじゃないが、見たくない光景だったからだ。


「なんだオマエ!」


「クラスメイトだ。

 ちょっと見てられなかったから割り込ませてもらった。

 その辺でやめておけ、絶対後悔するから。」


「うるせえ、ヒーロー気取り!!」


 拳が飛んでくる。

 力も速さも無かったが、同じく子供になっている俺にはそれなりに痛かった。


「俺はヒーロー気取りじゃない、アインだ。」


 頬に拳を受けたまま言う。

 自慢じゃないが死ぬほどの痛みを味わったことがあるので、こんな痛みでは動じない。


「話がある、放課後屋上…は無いんだったな。

 校舎の裏に来い。」


「うるせえ!うるせえ!」


 次々と飛んでくるへなちょこパンチを避けながら下がる。

 …今の俺のパンチはあれ以下だろうけど。


「それしか言えないのかお前…」


 と言いながら教室を出て引き戸でパンチをガードする。

 いってええーーーという叫び声を無視して、廊下を歩いて行った。







「やっとみつけた…おのれくん。」


「アインだ。」


 お前もおのれって呼ぶのかよ。

 言い争っていた女子、リラが校内をぶらついていた俺を追いかけてきていた。


「これ、まだたべてないみたいだったから…」


「ああ、弁当か。ありがとな。」


 どうやらさっき食べそびれた弁当を持ってきてくれたらしい。

 …しかし、さっきのこともあって教室に戻りづらい。校庭の隅っこで食べて、後は当初の予定通り授業開始ギリギリ前くらいで教室に戻ろう。


「…ん?それはお前の弁当か?」


「うん、いっしょにたべようかなって。」


 リラが持っている弁当が二つであることに気付く。

 俺が持ってきた弁当は当然一つだ。残りが彼女の物でなければ彼女の手癖の悪さを疑わなければならない。


「それと、なんでたすけてくれたのかなって、ききたくて…」


 少し顔を赤くしながら言うリラ。

 余程嬉しかったらしく、顔が少しにやけている。


「…別に、お前の為じゃない。

 さっきも言ったけど、俺があんな喧嘩見たくなかったから止めただけだ。」


「どうして?」


「喧嘩を見て楽しむ趣味は無い…って言うのもあるけどな。

 思い出すんだよ、昔の間違ってた時の俺の事を。皆が居る手前、照れくさくてつい突き放して…

 しばらくしてからかなり反省したし、秋華(アイツ)はいくら謝っても一時期口を利いてくれなかったな…

 今でも脅しのネタにされてるし。ああ見えて結構(したた)かなんだ、秋華(アイツ)は。」


「…むかしっていつ?アイツってだれ?」


「……あ。」


 しまった、前世の話だった。

 小学生なのに昔とか、小さい高校生探偵と同じミスしてんじゃねーか!


「とにかく、マッスと同じようなことをして失敗したってことだよ、俺も。

 だから、未来に後悔が約束されたマッスと、傷つくお前を見てられなくてな…」


「そうなんだ…

 …アインくん、だよね。」


「そうだ。」


「アインくんって…大人っぽいね!」


「……大人っぽいも何も、高校生だしなぁ。

 そりゃ小学生から見ればおとなんでもないようなことが~こうふくだったとおも~う~」


「なんでうたったの?おかしなアインくん。」


 フフフと笑うリラ。良かった、ごまかされてくれた。なんで同じヘマを二度も…


「それにしてもおんちだね~」


「や、やかましい!良いじゃないか欠点の一つや二つ!」


 前世でも音痴だったが、それが引き継がれているようだ。

 どうでもいいが、顔も引き継がれているらしく、少なくとも今のところは前世の俺にそっくりだ。

 親にあんまり似てないことから一時期騒がれたが、先祖返りと言うことで落ち着いた。マジでどうでもいいなこの場に置いては。


「こんど、うたいかたをおしえてあげる!」


「別に良い。

 俺の人生に歌が役に立つ場面なんてなさそうだしいいいいたいたたたやめろ下さいやっぱり教えてもらいますからぁ!!」


 コイツの握力は化け物か!?

 断ろうとしたところリラのアイアンクローが炸裂し、さっきのパンチよりも強烈な力が痛覚を通じて伝わってきた。

 実はマッソよりコイツの方が強いんじゃないか?


「ほんとう!?

 じゃあ、きょうわたしのうちにきて!」


「大事な用事があるから今日は駄目だ。

 明日にしてくれないか?リラの両親にも前もって話してからの方が良いかもしれないだろ?」


「あ、そうか。

 わかった。じゃああした、まってるね。」


「ああ、明日…あ。」


 ふと、手に持った弁当のことを思い出す。

 残り時間は少ない。


「……かき込むか。」


「あ、そうだね!」


「…お前は女子なんだから上品に食えよ。嫁の貰い手が無くなるぞ。」


「いいもん!アインくんとけっこんするから!」


「いぃ!?」


 なんでそうなった!?

 ……落ち着いて冷静にクールダウンするんだ俺…

 …そうだ、この年頃の子供はその場の勢いで後先考えずに結婚するとか言い出すんだ。本気じゃない。

 ちょっと助けられたから憧れを持ってるだけなんだ。

 小学生の告白に動揺なんてするんじゃない。なによりも秋華がいるじゃないか。


「……ここを卒業して、気持ちが変わらなかったら改めて言ってくれ。」


 極めて冷静に、気障な笑みを浮かべてそう言った。

 その後は校庭で弁当をかき込み、何とか授業に間に合わせられた。

 …何故かその一連の流れにリラも加わっていた。

ラブコメ?をぶっこんでみたら主人公がロリコンっぽくなったでござるの巻。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ