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19話 小野嶺二

 今日は森を歩いて疲れていたはずなのに、何故か眠れなかった。

 ずっと夢見ていた世界に来られたからだろうか。

 …それとも、秋華に会ったからだろうか。

 正直、会いに行きたくて仕方ない。でも、リラからは離れたくない。

 相反する想いに駆られて、俺は妹の部屋で歓談しているリラを置いて河原に戻ってきた。

 何故か2人は気が合うようで、夕食の後からずっと話し込んでいる。あれだけ話して、記憶喪失の設定が崩れるようなボロを出さなければいいのだが…

 …俺は、どっちを選ぶべきなのだろう。

 ずっと想い続けていた恋人、共に歩み続けてきた想い人。

 選びたくない、天秤に掛けたくない、でも…


「…ここに居たんだ。」


「秋華? なんでここに?」


 河原に座って考え込んでいると、背後から声を掛けられる。

 振り返ると、そこには背景の星空と共に秋華がそこに居た。


「埋めた剣がバレてないかなって…」


「…同じ心配をしてたけど、大丈夫だった。安心しろ。」


 一応、俺もちょっと心配だったが埋めた後に掘り返された後どころか足跡一つ無かった。日も暮れていたし、こんなところに来る奴なんていないだろう。

 …もちろん、今の俺たちを除いて。


「そうじゃなくて、ちょっと眠れなくて…

 …嶺二が生まれ変わって来たから。もっと一緒に居たいなって思ったんだ。」


「……それも、俺と同じだな。」


 でも、秋華とは少し違う。

 俺は秋華のことだけじゃなくて、リラのことも…


「………分かってるよ。

 貴方が、あのリラって子のことを気にしてることは。」


「…?」


「私、あの後考えたんだ。

 貴方がどんな存在なのか、私とどんな関係なのかって。」


「それは…」


「それで、思ったんだ。

 貴方は…私が知ってる嶺二じゃない。」


「……確かに、俺は嶺二本人じゃないかもしれない。

 でも、俺は確かに嶺二の記憶を、魂を受け継いでる。秋華が好きだってことも変わってない。」


「それは素敵なことだし、嬉しいと思う。

 でも、私は貴方を知らない…貴方は、私が知らない貴方なの。」


「…秋華が言った通り、俺は生まれ変わってから前世には無かった経験をいっぱいしてきた。

 でも、俺は…俺は。」


「もう、自分を偽るのは止めて。

 貴方はアイン。小野嶺二の記憶を持ってるだけの…私とは全く関係が無い、他人なんだから。」


「………」


 反論が思いつかないわけではなかった。

 でも、それを言うのははばかられた。

 理由は分からない。秋華を否定したくなかったのか、俺自身が秋華の言葉に納得してしまったからか。

 これ以上言い返すのは客観的に見て見苦しいと気付いたからなのか、もっと大切な何かを踏みにじってしまうと思ったからなのか。

 あるいは、その全部なのか。

 きっと、一生悩んでも答えは出ないと思う。

 ただ、この場の俺は黙り込んでしまった。


「…身勝手なわがままかもしれないけど。

 さっき、一緒に居たいって言ったばっかりだけど…もちろん、それもホントの事なんだけど。

 でも、私は…貴方の事、嶺二だって思いきれない。

 だから…」


 言葉を止める。

 聞きたくない。聞きたくない。心の中でダダをこねても、状況は変わらない。

 だが、聞かなければならない。そんな思いが俺の口に蓋をした。


「私は、貴方と付き合えません。」


 ――――――


「……そう言うと、思ってた。

 一番、聞きたくなかった言葉だけどな。」


 声も涙で濡れていた。

 顔を腕にうずめ、ひたすら涙をこぼした。


「……ごめんなさい、()()()()。」


 秋華の声も涙が混じっていた。

 見ていなくても分かる。彼女が辛そうな顔で、涙を拭って――


「――おい。」


 その時、俺は頭を掴まれ、上げさせられた。

 暗闇で良く見えないが、この顔は―――


()()()()泣かせてんじゃねえぞ! この野郎!」


 頬に振りぬかれる拳。

 痛い。しかし、心を埋め尽くす空虚がそれに勝る。

 見上げてみると、月明りでようやく彼の顔がはっきりと見えた。


「…大丈夫か? 秋華?」


「……え? なんで? どうして…?

 死んだんじゃなかったの!? ()()!!」


 秋華の声を聞いたもう一人の俺(嶺二)は不敵に笑い。


「地獄の底から帰って来た、って奴かな。」


 と言い放った。

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