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18話 前世の世界

 

「嶺…二…?」


 信じられない、と目を見開く秋華を前に俺もリラも動けなかった。

 まるで石にされてしまったかのように固まっている。

 動けているのは秋華一人。それもゆっくり、震えながら…ぎこちない動きだ。


「嶺二、なの?」


「……」


 思考もいつの間にか止まっていて、返答も浮かばなかった。

 出来るのは時間が流れるのを待つことだけだ。


「………」


 不意に流れた涙。

 秋華を見た瞬間から込み上げてきたそれはついに零れ落ちる。


「嶺二っ…!」


 背に回る秋華の腕。

 鼻に満ちる秋華の匂いに懐かしさを覚え、俺は涙を流し続けた。

 ぼやけた視界の中にひとつ、寂しそうな顔が浮かんでいた。







 お互いに落ち着いた頃には日が傾いてしまっていた。

 情けないことに、俺は秋華よりも大きく、長く泣いていた。


「…嶺二、で良いんだよね。」


 少しでも早く忘れたいと思っていた時、秋華から確認が入る。

 小野嶺二は死んでいる。にわかには信じられないだろうし、疑念を完全に晴らすのは難しいだろう。


「一応、そうだ。

 俺は嶺二の生まれ変わりで、別の世界に転生したんだけど…秋華に会いたくて、ついさっきこの世界に来た。

 なかなか大変だった。ここに来るのに16年もかかったんだからな。」


「16年!?」


「………」


 …さっきからずっとリラが黙っている。

 落ち込んでいる、というか拗ねている、というか…そんな感じのような気がする。


「う、嘘じゃないよね…? 実は生きてたってだけなんじゃ…」


「それなら、この格好もコイツのことも説明できないだろ。」


 今の俺は皮鎧を身にまとい、剣を帯びている。おおよそ、日本人がする格好でもない。コスプレでも本物の剣を持つ奴なんていないだろう。

 それに、謎の美少女(リラ)の説明はどうやってもつけられないだろう。

 あまりにも日本人離れしている容姿だし、この辺りに外国人が住んでいるという話を聞いたことが無い。俺俺は別に浮気をするような人間じゃないし………じゃないし、とにかくそんな奴が俺に接触する理由が無い。

 …別に、二股をかけてる訳じゃない。意中の人物が2人いるだけで。そもそもリラとは付き合ってないし。


「……そう言えば、その子って誰? さっきから黙ってるけど…」


「ああ、コイツはリラ。

 転生した俺の幼馴染で、危険な旅に着いて来てくれたんだ。

 リラ、アイツが俺の…恋人の、秋華だ。」


「………」


 さっきからずっと、リラは黙っている。

 今は何を思っているのか、全く分からない表情だった。


「…アイン、ちょっと信じられない事言っていい?」


「…なんだ?」


「なんでかは分からないけど…全く分からない言葉のはずなのに、アインと秋華が言ってること、分かるんだ。」


「………え?」


 異世界の言葉と日本の言語は全然違う。

 なまじ日本の言葉を知っているからか、異世界の言葉の習得に苦労したのは記憶に…新しくないけど残っている。


「ねえ…そのリラって子、日本語喋れるの? 異世界から来たって言ってたけど…」


「い、いや、確かに異世界から来たんだ。俺もそうだし、向こうの言葉覚えるの大変だったし…

 なんなら文字を書いて見せてやろうか? こっちの漢字にもアルファベットにも当てはまらないから。」


「そこまでしなくていいけど…」


「……もしかして、神様にでも言葉を翻訳する魔法でも掛けられたとか? あっちの世界、魔法は禁忌だったけど無かったわけじゃないしな。」


「あの神様がそんな都合の良い事してくれるかな…」


「確かにあの性格悪い神様がしてるとは思えないけど、通じてるんだから仕方ないだろ。

 少なくとも、俺が一回一回通訳するよりは良い。」


「……ちょっと納得いかないけど、それもそうだね。」


 俺も納得いかないけど、せっかくの福音だ。割り切ってしまうのが吉だろう。


「そ、そう言えば嶺二、異世界から来たって言ってたけど…今日は夜、どうするの?」


「………どうするかなぁ…」


 正直、何も考えてなかった。

 俺の家に行こうにも、俺は死んだことになってるし…葬式まで上げられて、仏壇に遺影を飾られてしまえば行こうにも行けない。

 ……ん?

 なんで俺、葬式を上げられたことも、遺影を飾られてることも覚えてるんだ?

 いや、大体察しがつくこととはいえ、まるでその場に行ってみて来たかのように記憶があるのは何故だ?

 …他にも、秋華と俺の両親が何かを祈るように手を組んでいる光景、秋華が涙をこらえて学校に行く光景…俺が居なくなった後の、皆の暮らしを想起する。

 この記憶はなんだ?どうしてこんなものを覚えてるんだ?


「…嶺二、もし、良かったらだけど私の家に…」


「………あ、ゴメン、何か言ったか?」


 秋華の声で思考の海から浮上した。

 今はそんなことより、これからどうするかを考えなければならないだろう。まさかずっと野宿って言うのもどうかと思うし…


「……その秋華って人が、もし良かったら自分の家に泊らないかって言ってたんだよ。」


「何むくれてるんだリラ…

 ありがたい提案だけど、ここじゃ俺死んだことになってるしな…秋華の両親も俺が死んだことくらいわかってるだろ?

 確かにどうにかしなきゃいけない問題だけど、しばらくは野宿で我慢するさ。

 何、向こうじゃ6年も旅をしてたんだ。野宿くらい慣れっこだって。」


「……じゃあ、これならどうかな?

 嶺二のそっくりさんってことで、パパとママに相談して…」


「こんな得体のしれない奴、泊めてくれるといいけどな。まさか本人って言う訳にも行かないし、そもそも信じてくれないだろうし…」


「言うだけ言ってみようよ! そしたら、何か変わるかもしれないじゃない!」


「……まあ、期待しないで待ってる。」


 秋華の家に泊めてもらうと言うのはまず無理だろう。

 俺が秋華の父親だったらまずそんなことしない。そっくりさんだから情が移ったとか言ってもそいつが良い奴とは限らないからだ。

 娘に何かあったら、その恨みは例え殺しても晴れないだろう。

 ……あっさり“殺す”という単語が出てくるあたり、俺もすっかり向こうの住人だな…


「その前に、その剣どこかに隠さないと。流石に警察のお世話になる訳には行かないからね。」


「あーそうだったな。

 …その辺に埋めとくか。」


「えっ、アイン、良いの?」


「この国じゃ、剣が必要になることは無いからな。

 むしろ、そんなもの持ってるだけで逮捕される。この国の治安維持の一環ってとこだな。」


「へー…」


 秋華からシャベルを持って来てもらい、穴を掘って剣を埋める。

 異世界で鍛えに鍛えた肉体で、作業は早く終わったものの、それが終わるころにはもう日が暮れていた。







「ここがこっちの世界の、アインの部屋…」


 なんで深呼吸してるんだリラの奴。

 秋華の両親への説得は、案の定失敗した。

 しかし話はその後、予想外の展開となった。


『本当に嶺二君にそっくりだ…

 君達、もし、良ければなんだが…嶺二君の家に行って、顔を出してやってくれないか?』


 俺が嶺二のそっくりさんであることは伝わっていたらしく、秋華の両親から顔を見せてくれ、と頼まれ見せに行ったところ秋華の父親がそう言った。

 言われるがままに秋華の案内で(自宅の場所くらいは覚えているがリラと2人だけで行ったら不自然なので)俺の家だった場所、小野嶺二の家に行った。

 俺の姿を見た父さんは号泣、母さんは強い抱擁をしながら泣き、妹は涙目で自室に戻った。

 それから俺たちがホームレスであること、(異世界(これまで)の事なんて言えないから)記憶喪失であることを伝えると、リラ共々泊っていきなさいと強く言われて今に至る。使うのはもちろんと言うべきか、俺の部屋だった部屋だ。

 俺は床に布団、リラはベッドで眠るという手筈になっているので、俺は今自分用の布団を敷いている。なんかリラは枕とかベッドとかの匂い嗅いでるけど。

 そんなこと秋華もしなかったよ。


「ちょっと、違う匂い…」


 変態みたいだから止めてくれないかな。

 まあ、好きな人の匂いってなんか安心するのは知ってるけど…あんまり度を過ぎた行為は遠慮してほしい。


「…アインさん、ご飯できたって。」


 ドアを3センチほど開け、目だけ見せる妹。あの親父共にけしかけられたか…

 多分、両親からすれば素直になれない妹への気遣いのつもりなのだろうが…当人としては迷惑だろう。生前から煙たがられてたし、避けられてるような気すらしたし…秋華といちゃついてた時に向けられる視線なんかえらいことになってたよ。まあイチャイチャしてたから気にしなかったけど。


「ありがとう、すぐ行く。」


「ありがと!」


 それを聞くと、妹はドアを閉めて階段を駆け下りていった。転ばなきゃいいが…

 布団も敷き終わったので、リラと共にすぐさま移動する。

 漂う芳香は前世の記憶を呼び起こす。今日は俺の好物だった唐揚げだ。


「いただきます!」


 申し訳程度の挨拶を済ませ、早速一口。

 美味い、記憶の通りの味だ。

 すぐさま白米をかき込み、よく噛んだ後お茶で飲み下す。一連の味の移ろいは涙を誘った。


「…アイン君、だったか。

 君は箸の使い方が上手いな。」


「リラちゃんとは違う国の人なのかい? やっぱり、日本人?」


 ハッとしてリラを見ると、二本の棒を持つのに苦戦している。

 しまった、こんなところでボロを出すなんて…


「…分からないです。

 リラにはフォークとスプーンを持たせてやってください。

 俺は、箸で大丈夫なので。」


「……アイン君が食べているのを見ると、亡くなった息子を思い出すよ…」


「………そう、ですか。」


 それはそうだ、だって、俺は嶺二の生まれ変わりなのだから。

 だなんて言える訳が無かった。この世界の嶺二は確かに死んで、もうここに居るはずがないから。


「…あんまりしんみりさせんでくれよ、アンタ! んなこと言ってる暇があんならリラちゃんのフォークとスプーン持ってきな!

 さあ、2人ともたくさんあるからじゃんじゃん食ってけ! 遠慮はいらないよ!」


「はい!」


 俺もリラも、心行くまで夕食を味わった。

 最初はぎこちなかったリラも、徐々に小野家に馴染んでいくようだった。

 心が温まっていく。

 ずっとこの家に居たい。ずっと、記憶喪失のアインとして―――

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