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14話 説得

 まばゆい光に照らされた瞼を震わせ、ゆっくりと開ける。

 曝け出された目は朝日に照らされた木々を映し出した。もう朝か…

 夜更かしの弊害で気だるくなった体を起こす。

 正直まだ寝足りないが、のんびり眠って村への到着を遅らせたくないし、地面のベッドの寝心地もあまりいいものではない。

 さっさと起きて村に行って、安めでも良いから宿の部屋を借りて、ベッドで一休みしたいところだ。

 さて、布団をたたむか―――


「―――あ!?」


 布団を剥がすと、予想もしないブツが地面に転がっていた。

 朝の光がそのブツを―――美しい金の髪とあどけない寝顔を照らす。

 安らかな寝顔は僅かにしかめられると、その眼を開きゆっくりと起き上がる。


「アインー…おはよー…」


「おはようじゃないだろ!なんでここに居るんだリラ!?」


 俺と同じ布団にもぐっていたのはリラだった。

 リラは村に置いて来たはず…なんでここに居るんだ?


「どうしてここに?」


「…アインこそ、どうして皆に黙って旅に出たの?」


 寝ぼけ眼を擦って表情を変えるリラ。

 その変わりようと気迫に少し気圧されながら俺は答える。


「…旅っていうのは危険な物なんだ。

 いつ何が起こるか分からないし、皆で一緒に行って皆を守り切る自信なんて無い。

 それに、俺には帰る場所が欲しかった。

 だから皆には俺が帰る場所になってもらいたかったんだ。俺が安心して帰れる場所に。」


「アイン…」


 …これは甘えなのかもしれない。

 逃げ道(戻れる場所)を作って、駄目なら戻ろうとしている。

 前世の記憶から、夢から逃げる準備をしている。

 引き返す道を無くす程の覚悟を、俺は出来ない。


「…私は、アインに付いて行きたい。

 帰る場所なんて嫌、アインと一緒に居たい!離れたくない!」


「リラ……」


「…私、もう帰る場所が無いんだ。」


「リラ?」


 何を言ってるんだ?

 帰る場所が無い…?


「無理言って、お父さんとお母さんの反対を押しきって、それでアインに付いて来たんだ。

 家出みたいな感じかな。」


「どうして、そこまで出来るんだ?

 そんなの嫌じゃないのか?」


「嫌に決まってるよ…今でもお父さんとお母さんの事は好きだもん。

 でも、それでも、アインと一緒に居たかったんだよ。」


 ……しっかりしろ!俺!

 女の子(リラ)がこんなに強い覚悟を持ってここまで来てくれたんだぞ、答えてやらずに何が男だ!


「だからアイン!私も連れていって!お願い!!」


「……分かった。お前を連れてってやる。

 でも、家のベッドより寝心地が悪いとかそういう文句は受け付けないぞ。」


「大丈夫!そんなこと言わないよ!」


 リラは俺より強い。

 俺は強くうなずいた彼女にどこか頼もしさすら覚えながら歩を進めた。






 次の村に着く時には日は大分傾いていた。

 村に繋がる補装済みの道が見えてきた。俺もだが、後ろのリラにも疲れの色が見える。


「やっと着いたー…」


 日々追いかけっこをしたり、イタズラをして大人から逃げていて体力に自信がある俺もリラも、ここまで長い間森の中を歩くことは無かった。

 村を出る事すらなかった俺たちからすれば人生で一番長い移動だった。その記録はこれからも更新され続けるのだろう。

 しかし、その記録を更新する度に世界が広がっていく。げんなりするが、同時に楽しみでもある。世界を見て回るというのが目的の一つであることも事実なのだ。


「宿でも探して泊まろう、いくらかお金はある。」


「ホント!?」


「ああ。」


 俺はエメンに通いながらただ遊んでいた訳ではない。

 時には家の手伝いや八百屋的な場所の手伝いをして、お駄賃という形でコツコツと稼いでいたのだ。全てはこの時の為に。

 おかげで2人だとしても数泊止まれる程度にはお金がある。ただ、問題は…


「…部屋、どうする?」


 この国は男女ともに結婚が認められるのは15歳以上だ。

 幼い時期に身籠るのは母子ともに危険であることは本能さんがよくわかっているはずなので間違いが起きる心配はノープロブレムであるわけだが、リラの意見もある。

 女子としては男子と同じお泊りというのは微妙だということは理解しているだろし、本人が嫌と言えば男としてはそれに従うしかない。


「アインと一緒で良いよ!そっちの方が安いんじゃない?」


 ……よし、言質は取れた。

 これで俺は大手を振って2人部屋を借りることが出来る。

 別にリラに変なことをするつもりはないし、普通に別々のベッドでぐっすり眠るだけだが…やっぱり俺としても安い方が良い。

 収入が安定しない以上、節約できるに越したことは無いのだ。


「そうか、分かった。

 でも、宿屋を探す前に冒険者の登録を済ませよう。もしかしたら冒険者ギルドで良い宿屋の情報が手に入るかもしれないし。」


 冒険者、というのは魔物の討伐や遺跡や洞窟の探索、危険区域の採取、護衛等の依頼を受け、それを生業とする者たちだ。

 その者たちは冒険者ギルドを介してそれらの依頼を受け、それを達成することで報酬を得ている。

 冒険者になるには冒険者ギルドで名前を登録する必要がある。

 よくあるランク制は無い。だが、無謀な者は早死にするという世間のルールがある為、依頼は内容を吟味して慎重に選ぶべきだろう。冒険者にランクは無いが、依頼にランクはあるのでそれを目安に出来るし。

 商才が無く、商人には慣れない俺にとって冒険者以上の旅に適した職業は見つからないのだ。だからそれにするしかない。


「冒険者ギルド…」


 リラが眉を顰める。

 まあ、むさくるしい男ばっかりで暑苦しい空間だし、あまり行きたくないのもうなずける。


「どうする?リラはギルドには行かないか?」


 職業柄荒事も多い冒険者は、戦闘能力に期待できないリラには合わないだろう。無理に冒険者になる必要は無い。

 やや現実的ではないかもしれないが、その村その村で手伝いができる場所を探すという手もある。


「…いや、行くよ。

 アインとずっと一緒に居るって決めたから。」


「そうか、じゃあ、一緒に行こう。

 でも、無理はしなくていいぞ。」


「無理なんてしてないから!」


 リラの言葉を聞き流して冒険者ギルドのドアを開けると、中に居たのは飲食する大勢の冒険者と、カウンターに座り手続きを行う受付嬢。

 俺は異世界語で登録窓口と書かれた場所に行き、登録を始めた。

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