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11話 一瞬の判断

 目を開くと数え慣れた天井の染みが視界にウェルカムした。

 どうやらもう朝らしい。日も高く昇っている。

 ……むしろ沈みかけている。ウェルカムトゥようこそ夕暮れ空。


「もう夕方か…」


 体を起こしてベッドから起きると、リラとノイがベッドに顔をうずめて眠っていた。俺出られないんだけど。

 部屋の中央にはマッスが横たわり、まるで自分の部屋にいるかのように寝息を立てている。帰って寝ろ。

 …どのくらい、眠ったのだろうか。

 窓から夕陽を見ながらぼんやりと思い出す。

 廃墟に忍び込んだ事。

 三人を逃がして、気絶した事。

 部屋で本を読んだ事。

 魔法を使い方を覚え、使ってしまった事。

 機転を利かせて幽霊を倒した事。

 幽霊が何か言っていた事。

 その後、また気絶した事―――

 ――ああ、皆が村の人を呼んでくれたのか。

 逃がして、気絶して、大きな心配を抱かせてしまったのだろう。

 だから俺が起きるまでここにいるつもりだったが、ここで眠ってしまったのだ。

 寝ぼけ頭にしては上出来な理解力だな。

 …考えればわかるか。

 とにかく、いつまで起きてたかは分からないがこうして眠ってしまっている以上結構無理をして起きていたのかもしれない。

 無理に起こすのも悪いし、少し寝転んで休もう。まだ体は全快じゃないしな……






「………ん…あれ?

 ねちゃってた?あ、みんなねてる…ノイ、おきて。」


 しばらく目を閉じているとリラの声が聞こえた。彼女が一番先に起きたらしい。


「なに…?あ、ねちゃってたんだ。ありがと、おこしてくれて。」


 ノイも起きる。

 …ん?俺いつ起きればいいんだ?


「いいよ。あ、マッスもねてる!」


「おこさなきゃ…おきて!」


 やや手荒い起こし方をされたらしく、マッスの短いうめき声が聞こえる。


「なにすんだ!」


「ねてるマッスがわるいんでしょー!」


「そうだよ!友だちがたおれたのに!」


「おまえたちはおれより早くねてただろ!ちゃんと見てたんだからな!」


「だからってじぶんもねるのもどうなの!?」


「はいはい、喧嘩はストップだ。」


 そろそろやばい雰囲気だったのとちょうどいいタイミングっぽかったので仲裁に入る。


「「「アイン!!」」」


 女子二人が抱き着く。野郎1人は顔を歪める。気持ちは分かるけどテメェ。


「ごめんなさい!ごめんなさい!あたしが…あたしのせいで…

 あたしがきもだめしなんて言わなかったら…あたしがあんなわなにかからなかったら…」


 泣き声混じりの謝罪はノイのものだった。

 リラはただただ泣きついている。

 俺は2人の頭を優しく撫でながら語り掛けた。


「……ノイは悪くない。

 まさかあんなことになるとは誰も思ってなかった。俺だって予想できなかった。

 っていうか、廃墟に本当に魔法使いのお化けがでるとか、罠だらけとか誰も思わないよな。

 それに、罠だってそうだ。血まみれのカーペットなんて見たら誰だってびっくりして訳わかんなくなる。俺だってお前達みたいになりそうだった。

 でもさ、こうしてなんとか四人で出られたじゃないか。

 結果が良ければ、なんだ?」


「ぜんぶ、マル!」


「全て良し、だ。」


 相変わらず少しずれたノイのことわざ。

 なんだか少しおかしくなって噴き出してしまった。







 その後来た両親から無茶をしたことへの説教と三人を逃がしたことへの賞賛を頂いた。

 医者によると、俺が倒れたのは貧血のようなもので、一晩休めば治るとのことだった。

 その話を聞いた皆は安心し、見舞いに来てくれた三人は帰って行った。

 また明日遊ぼうね、だってさ。まあ、明日も付き合ってやりますか。


「…これで、誰にも聞かれる心配は無いな。」


 三人と両親が部屋から出た後。

 医者は俺にちょっと話があると言って部屋に残った。

 少なくないしわをさらに増やし、厳しい顔で寝ている俺を見た。


「…そうだな、何を聞きたい?」


 人払いをしてまで聞かれたくない話、相手は医者。

 それで察しがつかないほど馬鹿なつもりは無い。俺は覚悟を決めて訊いた。


「君の症状についてだ。

 先程は貧血と言ったが…君の症状は、私が昔診た魔力切れの患者のそれによく似ている。事が事なだけにあの場では言わなかったがね。」


 …やはりか。

 魔力切れ。体の魔力が無くなること。

 魔力は通常の活動で微弱に消費されてはいるらしいが、魔力切れを引き起こす程多く消費することは無いらしい。

 だが、俺はそれを起こしている。

 つまり、魔力切れを引き起こす()()()をしたということに他ならない。


「…俺が魔法を使ったのかと訊きたいんだよな?」


 思考できるのは一瞬。

 沈黙は是とみなされる。


「そうなるな。

 それで、どうなのかね?」


 俺の判断は…


「…そうだ、俺はあの廃墟で魔法を使った。」


 正直に答える。

 包み隠さず、全て。


「あっさり認めたようだね…」


「相手が悪すぎる。

 魔力が体を流れた形跡とかまで辿られてたらもうごまかしようもないしな。

 それに、俺だって使いたくて使ったわけじゃない。あの廃墟から脱出するためにはそうするしかなかった。

 もう、魔法を使う気は無い。」


「……そうかい。

 それを聞いて、少し安心した。」


「安心?」


「魔法を悪用するような子供じゃなかったからさ。

 事が事ではある故に、後ろめたそうに隠そうとするなら村長に密告するかどうかと考えていた。

 その必要は無いようだったがね。」


 あっぶねぇ…危うく村から追い出されるところだった。

 いや、最悪国…どころか世界から追われてたかもしれないな…この歳でお尋ね者なんて御免だ。


「あ、そうそう。

 君の傍に落ちてた本は焼いておいたよ。

 いち早く気付けたのは幸いだった。あれが悪意のあるものの手に渡っていたらと思うと…ゾッとしないね。」


 良かった、あの本は処分されたのか…

 …もっとも、素質無いと使えないらしいけどな。後魔法に触れる必要があるとか。条件は結構多いので、あの本を見たからってそうそう魔法使いが誕生するとは思えないが。


「…とにかく、俺が魔法を使えることは秘密にしてくれるってことで良いのか?」


「そうだ。二度と使わないなら、と条件はつくがね。」


「使わない、絶対にな。」


 確固たる意志を載せた言葉に安心したのか、医者はニコリと笑って帰って行った。

 …せめて美人だったらとか思ってないです。イイエガオダッタナー

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