1話 転生
書き溜めしてから投稿すると決めていたくせに、いつまでも書き溜めが終わらなそうだからと結局書いてたやつを全部一話にぶち込んじゃいました。
不定期更新になると思いますが、よろしくお願いします。
「皆!付いて来てるか!?」
目の前に広がる白い世界に呼びかける少しガタイの良い少年。
彼は二メートル先も見えない濃霧の中、仲間と共に下山していた。
「いるぞー!」
「やっぱり動かない方が良いんじゃない!?さっきの山小屋に戻ろうよー!」
返事は二つ。姿は見えないながらも声でその所在を確認する。
1人は眼鏡をかけ、読書が趣味という絵にかいたような文学少年。
もう一人の声は仲間の一人、嶺二の恋人の―――
「……おい嶺二!返事しろ!」
返事が一つ足りないことに気付き、声がしなかった者の名を呼ぶ。
「……嶺二?嶺二!?」
「ふざけてないで早く返事しろ!」
「嶺二!!」
仲間の一人とはぐれてしまったという事態に気付いた三人の心に広がる焦り。
「私、捜してくる!」
「待て!行くな!」
この霧では下手に探しに行けば俺たちまで迷いかねない。
そうなったら嶺二を見つけようが見つけまいが帰れなくなってしまう。
皆で遭難してしまってはまずい。
「でも…でも…!」
「……とりあえず、さっきの山小屋に戻ろう。」
先程入った山小屋からはそう歩いていない。
すぐに戻れるはずだし、もしかしたらはぐれたことに気付いた嶺二が戻っているかもしれない。
「…そうだな。」
「嶺二…」
嶺二の無事、自分たちの選択の正解を信じ、三人は山小屋に戻った。
「おーい!おーい!」
まずい、はぐれた。
それに気付いたのは恋人の秋華に声を掛けようとした時だ。
秋華どころか他の2人も居ない。
「皆ー!どこだー!?」
溢れ出す焦燥感を抑えながら慎重に悪路を進む。
しかし、いくら進めど仲間どころか人の姿すら見当たらない。
「誰か…誰かー!」
とうとう抑えきれなくなった焦燥感から逃げるように走る。
冷静な思考は出来なくなり、ただひたすら目的も忘れて走った。
「あ…」
湿った岩で足を滑らせてしまうまでは。
霧のせいで見えていなかったが、足を滑らせた場所は急な坂道。
やや強かに頭をぶつけ、視界で星が弾けた。
「秋…華……」
転がり落ちていき、体のあちこちが痛む。
薄れゆく意識の中、力を振り絞って恋人の名を呼んだ。
まだ、死にたく、ない…
何かが見える。
次々と移り変わっていく風景、断片的なソレは家族や友達、そして秋華の姿ばかりだった。
そして最後に見たのは目を閉じ、涙を流しながら祈るように両手を組む秋華と両親の姿だった。
「おお…おおおおおおおおおおおお!!」
誰かが、叫んでいる。
誰の声だろう?聞き覚えの無い男の声だ…
「よく頑張ったわね…!」
今なんて言った!?
聞いたことのない言語に驚いて目を開けると、木造の古い家の中に居ることが分かった。
「ああ!おめでとうリイン!
辛くなかったか!?」
「ええ、本当に辛かったし、痛かった…けど、貴方と、この子と、母上が居た…だから、頑張れたわ。」
…何語だ?何と言っている?
まさか俺、日本語が分からなくなった訳じゃないよな…?
と、混乱していると突然背中を叩かれる。
「ケホッ、んぎゃあああああああああああああ!!」
それだけで発せられた泣き声に驚いたのは俺だけだった。
大の大人…いや、高校生が背を叩かれただけで泣いたというのに。
「元気な坊主だな!
よし、お前の名前を教えてやる!
お前の名前は“アイン”だ!」
分からない。
何も分からない。
全く分からない。
混乱の中、俺は喜び合う三人を見ながら泣き叫んでいた。
次に目を覚ますと、見えたのは知らない天井(木製)だった。
泣き疲れて眠ってしまったらしい。俺、本当に子供みたいだ…
「う゛っ」
起き上がろうとして失敗し、ベッドに頭をぶつける。
おかしい、これじゃまるで本当に―――
―――ふと上げた丸く、小さい手が目に入った。
え?ちょっと待て、これ俺の手だよな?もっと大きかったはずだよな?
…………まさか。
いやそんな訳無いよなないと言ってくれ嘘だろ嘘なんだろ嘘だと言ってくれよ頼むぜ全く
「アインちゃ~~ん!!」
「男なのにちゃんはおかしいだろ。」
誰か来たああああああああああああああああ!!
……やばい、なんかまた泣きそうだ。
状況を整理してみよう。
まず、俺は俗に言う転生という物をしてしまったらしい。それも異世界に。
輪廻転生的な法則に従い、死んだ小野嶺二の魂がアインとして新たな生を受けたと言う訳だ。
何故か小野嶺二の記憶を伴って。
そこんとこはようわからんが、そうなってしまったものは仕方ない。
で、転生後のパニックから立ち直った後この家について調べてみたところ、どうやら俺の家はファミリーネームも無いごく一般的な、平たく言えば何の権力も無い平民の家に生まれたらしい。
「こうして、天災を起こした魔法使いはいなくなり、魔法使いはいなくなりましたとさ―――どう?眠れる?」
言語は習得したため、今では両親の言葉も祖父母の言葉も分かる。
何十回も聞かされ流石に飽きてきた物語を読み聞かせながら今の母親──リインが尋ねる。
俺が生まれて6年経つが、同じ話をローテーションしているところを見るとどうもこの家には数える程しか童話が無いらしい。
そうたくさんあってもおかしいかもしれないが、図書館で借りるとかしないのだろうか。
「んー、寝れるー。」
「そう。お休み。
明日は入学式だから、早く寝なさい。」
母親の優しい声が聞こえる。
良い年した大人が6歳にもなって毎晩読み聞かせを要求するのもどうかと思うが(ん?)、子供特有の有り余るエネルギーのせいか読み聞かせてもらえないと眠れないのだ。3、4年以前は寝たくなくても寝れたのに…
まあ、考えても仕方ないか。
――本当に眠くなってきた。
もう寝よう。