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シルヴァランド物語~放課後の勇者~   作者: 想兼 ヒロ


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第17話 魔物相手に比べたら

 初めて話をしたから、ではないのだが明は雄輝のことを目で追っていた。


「だああーっ、どこ投げてんだっ!」

「……悪い」

 非難の声が雄輝に浴びせられる。彼の返球がとんでもない場所に転がっていったからだ。


(いやいや、その前に追いついたことをめろよ)


 声をかけるタイミングを逸してしまった明は、背中を向けて戻っていく雄輝にニコニコと手を振った。せめて、自分だけは精一杯彼をたたえようと思ったのだ。


「ワンナウト、ナイスキャッチ!」

 雄輝はいつもの不貞腐ふてくされた表情は変えずに、手を上げて応えていた。


(いや、でも、あれをよく捕ったよな)

 相手の打球は多少打ち上がったものの角度はつかず、ライトの前に落ちる打球だった。それを雄輝は難なく捕ってしまったのだ。

 その後、一塁ランナーが飛び出していたので雄輝はファーストに向かってボールを投げた。それが大暴投となってしまい、結局ランナーは進んでしまったのが先程の顛末てんまつだ。


(観月って、ホントに運動やってないんだよな?)

 ショートの明は二塁に立って、頭をかく。


 彼の横にいる二塁ランナーも同じ部活の仲間だから、明と同じように不思議なものを見るような表情をしていた。彼だって捕れるわけがないと思ってスタートしていたのだ。捕られたことが未だに信じられない。


 明と顔を見合わせて、苦笑いを浮かべている。

「あいつ、何かヤバイな」

 それには同意だ。明は大きく頷いた。


 野球をかじったことのある人間なら、雄輝の動きが少しおかしいことに気づく。

 とにかく、判断が早いのだ。常に準備しているというわけではない。逆に、自分のところに打球が飛んでこない時はボーッと突っ立っている。それなのに、雄輝が捕れる範囲に来る打球に関しては打った瞬間に動き出し、悠然ゆうぜんと球が来るのを待ち構えている。

 だから簡単に捕ってしまうし、彼の動きに注目していなければ動いてすらいないように感じてしまう。


 足もそんなに速くないし、投げる方はさっきのように素人以下だ。だからこそ、異質な部分が際立っている。


 そんな風に明達の注目を浴びていることは知らずに雄輝は、ぼんやりと周囲を眺めていた。

(ああ、こいつは打てないな)

 今、打席に立っている男子は外野まで飛ばす力はないと雄輝は見抜く。そもそも、雄輝も含めて球技大会のために練習する人間なんていないから、当てることすら難しいのだ。

 それに加えて投手のコントロールもかなり悪いから、審判が判断するストライクゾーンもやたらと広い。なんでもかんでも、バットを振らないといけないから当たる確率がさらに下がっている。


 雄輝の予想通り、その打者は簡単に三振する。そして、次の打者。

(おっ、やっぱりこいつは雰囲気違う)


 日々の訓練の成果か、別の分野でも雄輝の感覚は研ぎ澄まされている。何となくではあるが、「できる」人間と「できない」人間のまとっている空気の違いを感じることができていた。

 自分との力量を判別しなければ、魔物退治なんてできやしない。常に全力だと力尽きてしまうし、舐めてかかったらクレアに助けられることになる。

 特に後者は非常にみっともない思いをすることになるので二度とするもんか、と雄輝は思っている。


 ちょっと、全力を出さないといけないかもしれない。

 雄輝は右にゆっくりと歩いていく。前の打席を思い出したら、この打者は振り回してくるからライトに飛んでくるとしたらセンター寄りだと判断したからだ。


 キン、と軽い金属音。

 案の定、右中間に打球が飛んでくる。慌ててセンターが走ってくるが、そこにはすでに雄輝が立っている。


「ほい」


 いとも容易たやすく、ボールは雄輝のグローブの中に収まっていた。


「またかよ!」


 二塁ランナーの悲鳴が聞こえる。今度ばかりは、雄輝のチームメイト達も目を丸くしていた。どう考えても失点する場面だったのに、相手の攻撃がこれで終わってしまったのだ。脳の処理が追いつかない。

 視線が集中していることに雄輝は気づかず、周りをキョロキョロと見回している。


「あれ、交代じゃないのか。アウト、これで3つだったと思うけど」

 未だにルールが把握できていない雄輝は三塁側に用意されたベンチに戻りつつ、途中ですれ違った明に声をかけた。

「お、おお。そうだな、これでチェンジだ」

 今度ばかりは明も景気の良い言葉を出せず、そのまま通り過ぎていった雄輝の後を追いかけていく。それをきっかけに固まっていたチームメイトも動き出すのであった。



 その後、しばらく試合は膠着こうちゃくしていた。この時間に試合のない、他の競技に出ている者も応援に集まってくる。

 体育ですら、ろくに参加していない雄輝の姿が物珍しかったのだろう。珍獣でも見るかのように見ていた観客も、彼の守備での活躍に気づくと明らかに視線の意味が変わっていった。


「当たらんもんだな」

 当の本人は、自分が興味の的になっていることに気づかずに一人首を傾げている。ここまでニつの三振で攻撃の方では全く戦力になっていない。おそらく次が最後の打席だろう。


「な、なぁ。観月」

 声をかけられて視線を上げる。明が雄輝の前に立っていた。


「おまえさ、ちょっと素振りしてみない?」

 明は恐る恐るといった様子で、雄輝にバットを差し出していた。

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