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土化粧   作者: 安芸 航
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最初の夏

葵「ちょっとこれはどういうことですか?」

千「これか?おとり捜査だ」


 し慣れない化粧に膝上のスカート。自分たちを精一杯かわいくしようとした結果、こうなった。なぜか自信たっぷりの千尋と不安しかない葵のなんとも奇妙な二人が夜道を歩く。


千「相手はか弱い女子高生を相手にしてるんだ。殺気満々の私たちじゃ、襲っちゃ来ないさ」

葵「それは分かりますけど、か弱い女子高生は腰に竹刀なんて差してないと思うんですけど」


 そんなやりとりをしながら、二人は人気のない路地に入る。奇妙な格好が奇妙な出来事を生んだのだろうか。路地に入ると口を手で押さえられたいかにも襲われてますといった感じの少女が二人の厳つい男子高生に連れ去られそうになっていた。現場を見られた男と何の心の準備もしてなかった千尋たちはお互いびっくりし、一瞬動きが止まる。


「おい!見られたからにはただじゃおかねー」


 女子高生を取り押さえている男がThe決められたセリフを吐いた。


「なんだ?!こいつら。変な格好してるぞ」


もう片方の男が禁断のセリフを吐いた。


千「おい!今失礼なこと言ったぞ」

葵「いえ、彼はいたって普通のことを言いました。やっていることはゲスの中のゲスですが」

「うおぉー」

 

 男はいきなり殴りかかってきた。しかし、葵が竹刀を抜くこともなく、目にもとまらぬ早さで竹刀の柄で男のみぞおちを打った。男はうなり声を上げて倒れた。


「くそっ」


 もう一人の男は少女を捨て、路地の奥へ逃げていった。すぐに葵が追いかける。千尋は素早く彼女に駆け寄り、抱き起こした。


千「大丈夫か?早く大通りに出ろ。そしたら誰かに助けを求めて、警察に通報してもらえ」

「はい...ありがとうございました」


 震えそうな声で千尋にお礼を言い、よたよたと路地を出て行った。そして、千尋はその生徒の制服が自分と同じ高校であることに気づいた。


千(また、ウチの生徒が狙われて...)


 そんなことを考えながら葵の後を追いかけた。すると、葵は扉の開いた倉庫の前に立っていた。


千「やつはこの中に入っていったんだな」

葵「なぜ、わざわざ逃げ場のない倉庫なんかに」

千「決まってるでしょ。ここがやつらのアジトなのよ。あなたには聞こえない?微かに聞こえるハイエナどもの鳴き声が」

葵「たしかに聞こえます。この事件は組織犯罪だということですか???」

千「そうゆうこと。誰かは分からないけど必ず親玉がいるはずだよ」

葵「なるほど。さて、そろそろ参りますか。悪党退治に」


 そう言うと葵と千尋は竹刀を片手に倉庫の中に入っていった。


 二人が倉庫に入るといかにも不良っぽいなりの男が10人から20人ほど集まっていた。先ほど逃げていった男の姿もそこにあった。


「おい。女が二人も来てくれたぜ。ちゃんと可愛がってやんなきゃな」

「しかも、見ろよ。あの制服。やっていいんだろ。ありゃ」

「刀持ってるぜ。俺たちとやり合う気かね」

千「かかって来いよ。全員斬ってやる」

「2人なんかで何ができる」

葵「成敗」


 葵の言葉を皮切りに乱戦が始まった。葵は毎日の訓練の成果を存分に発揮し、敵を圧倒する。千尋もブランクを感じさせない剣捌きと高い運動神経を遺憾なく発揮し、敵を寄せ付けない。


千「さすが、やるじゃないか」

葵「あなたこそ。野球やめてこっち(剣)の道に来ればどうです?」

千「冗談。お前が野球部来いよ」

葵「あなたと戦ってるとそれもいいかもって思えてきます。この戦いが終わったら私も野球部に入部させていただこうか」

千「おいおい、変なフラグ立てんなよ」

葵「問題ありません。もうそんなフラグ立てることすら出来ませんから」


 あっという間だった。二人の剣についてこられる者はこの中には一人もいなかった。立っている者は千尋と葵のみ。危なげなく全員を倒した。


葵「さて、あなたたちのボスは誰ですか?」

「いてー。教えるかよ。そんなもん」

千「もっと痛い目を見なきゃだめか?死にたくなきゃ吐け」


 そんなやりとりをしていると奥から女が二人歩いてきた。


「これどゆーこと???」

「何?襲撃?なんでこいつら寝てんの?」


 金髪で大きなピアスを付けた肌が黒い女と同じような黒い肌で髪を後ろで束ねた少し太っている女がまわりの光景を見ながら歩いてくる。


葵「あなたたちはこの方々に捕らえられていたのですか?」

千「そんなわけないだろ。この野郎共の親玉こそがこいつらだ」

「あーん。誰だてめーら」

「よく見りゃその制服...」

葵「女の子が女の子を襲わせていたということですか」

千「そういうことみたいだな。結局女の一番の敵は女ってことだ」

「あーその制服見てるだけで腹が立つ」

葵「私たちの高校に恨みでもあるのですか?」

千「どうせ。受験落とされたとかだろ」

「...」

「...」

千「図星かよ」

「うるせーやっちまえー」

「死ねこのやろー」


 二人のチンピラ少女は二人の少女にこれでもかというくらいの『抜き胴』を腹に食らった。

二人はうめき声を上げながら倒れた。その直後に先ほど襲われていた少女が呼んだと思われる警察たちがやって来てチンピラ共を一掃していった。千尋たちも当然連行された。しかし、千尋はまったく臆することはなかった。なぜなら、私たちはいいことをしたからだ。神様がこんな私たちを罰するはずがない。と思っていた訳ではない。葵の父が警視総監ということを知っていたので、警察はうかつに手を出せないことを知っていた。案の定二人はすぐに解放された。

 そして、次に待っていた高野連の問題だがこちらも浩一が先に手を打っていたので、大事にはならなかった。

 そして、翌日、葵は野球部に入部した。


葵「村山葵です。今まで剣の道を歩んできましたが戦友の恩を返すため、野球部に参加することにいたしました。よろしくお願いします」


 ややまばらな拍手だったものの葵は無事入部を受け入れられた。入部初日、持ち前の身体能力で浩一や千尋を唸らせた。足が速いということでやらせたセンターを少しの練習と指導でそつなくこなす。バッティングは初めはうまくいかなかったが抜き胴の感覚で打つというアドバイスを送ったところ、左打ちに転向して、鋭い当たりを連発した。

 入部して一週間、葵は完全にチームに溶け込み、他のみんなもその能力とひたむきな努力を認めた。


葵「ありがとう。私をこの部活に入れてくれて」

千「なに、人数が少ないからこっちの方が助かっている」

葵「野球には『体当たり』というものがあるのですよね?私剣道の時とても体当たり強かったんですよ。きっと野球でも役に立つでしょう」

千「ああ、コリジョンルールが出来たから体当たりは禁止な」


 そして季節はあっという間に夏を迎える。


浩「残念ながら大会までに9人そろえることは出来なかった。他の高校と連合を組んで大会に出る方法もある。お前たちはどうしたい?俺的には夏海高校最初の試合は夏海高校として出たい」

忍「私も夏海高校として出たい」

晶「そうよね。私たちにはまだあと二年もあるんだし」

渚「あら、二年なんてやることやってればあっという間よ」

と「私がマウンドに立つときはみんながバックを守ってくれているのね」

ル「あと一年ばっちりトレーニングしてMore Strongの状態でやりたいネ」

千「この夏は厳しい夏になるぞ」

浩「そんなお前たちに朗報だ。以前から目を付けていた武蔵シニアの小平姉妹がウチに来てくれるかもしれないぞ」

忍「おおー!おっさんが女子中学生に目を付けるという表現はどうかと思うけど、あの『武蔵シニアのアライバシスターズ』が来てくれるんですね」

千「たしかに今ウチにいない、セカンドとショートが来てくれるのはうれしいね」

と「たしか二人ともすごく守備うまかったよね~」

晶「守備だけじゃなくて野球自体が上手い印象あるね」

浩「よし、後輩たちにこんな先輩たちかと思われないように9ヶ月しっかりしごいてやる」

「お願いします」


 今日も夏の日差しが照りつける夏海高校のグランドに少女たちの声が響き渡る。

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