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土化粧   作者: 安芸 航
27/28

リベンジ

 夏合宿が終わり、3日間の休日も挟んだ。選手達は各自、身体を休めたり、少し遠出をしたりと休日を楽しんだ。そして、合宿終了から4日目。夏海高校の選手達はみんな元気にグランドに揃った。


浩「みんな久しぶりだな~」

忍「たったの4日ぶりじゃないですかー。大げさですよ!」

ル「たしかに...でも、このグランドでみんなと会ったのがとてもとてもLong agoに感じます!!」

浩「そうだな...しかし、感傷に浸っている暇はない!さっそく練習に取りかかるぞ!!」

「「はい!!!」」


 その日の練習はあくまでも調整といった感じで、日の高いうちに終わった。それでも、選手達のユニフォームは泥だらけだった。


浩「おつかれさん!!今日の練習はここまでだ。早く帰って身体を休めるように!それから、明後日練習試合をすることが決まった。合宿の疲れもまだ残っているかもしれんが合宿での成果を発揮するには持ってこいの機会だ」

琴「監督!それで練習試合の相手は?」

浩「埼玉共栄高校だ!!」

純「埼玉共栄...」

忍「監督は埼玉共栄の東本監督と仲がいいみたいだし不思議なことじゃないよね」

晶「夏大の相手...」

渚「夏大のリベンジといこうじゃないか!!」

千「またあのムービング使いとやるのか...対策を考えないとな」

と(井本隆利...)

浩「対戦相手が分かって熱くなるのはいいが、今日は早く帰れよ」

「「はい!」」


 グランド整備をして、各自家に帰った。

 真純と真琴が家に帰ると兄雅人がジャージ姿で出かけようとしていた。


琴「あれ?兄さんこんな時間にバットなんかもってどこ行くの?」

雅「あー...啓太や中谷とバッティングセンター行ってくる」

純「お兄ちゃん...受験勉強はいいの?大学行くって決めたんでしょ?」

雅「たまには息抜きしてもいいでしょ~」


 そう言い残すとバットケースを背負い、自転車に乗り、暗くなりかけた道に消えていった。


琴「なんでプロいかなかったんだろうね。お誘いはいくつかあったんだろうに」

純「さーお兄ちゃんのことだから大学で遊びたいとかじゃないのかね」

琴「さすがの兄さんでもそれはないでしょ」


 そして、練習試合当日。会場はわざわざ近くの地方球場を予約して行われる。たかが、練習試合にしては観客席に人が入っている。


千「やけに人が入ってるなー...特に埼玉共栄側。なにか特別な試合なのかな」

忍「まあ、なんだかんだ夏の再戦だからね。女子校が埼玉準優勝校を苦しめたって意外と注目度高かったし」

渚「関係ない...あのムービングピッチャーにリベンジできるならなんだっていい」

晶「私もあのピッチャーにはいいようにやられたからね...今度はやり返すよ!!」

千「ともみ!打線の方は雅人さんと4番の中谷さんがいなくなって少し見劣りするかも知れないけど、初対戦のバッター多いだろうし、最初は慎重にいくよ!!」

と「・・・わかった...」

千「どうしたの?体調が悪い?」

と「知らないの?」

千「えっなにを?」

と「対戦相手」

琴・純「えっなんで!!」

ル「Oh...」

忍「なんで相手のベンチに雅人さんや鈴木さんがいるんだ...」


 相手ベンチに道具を持って入ってきたのは新チームの初々しい面々ではなく、慣れた様子でベンチに陣取る引退した3年生の姿だった。


浩「そうだそうだ言い忘れてた。今日は埼玉共栄の引退試合でな...俺たちが相手するんだ」

「「監督!!!!」」

忍「騙したな!!」

浩「いやいや、いい忘れてたんだ」

琴「絶対ウソだよ!!なんかおかしかったんだ...兄さんが急にバッティングセンター行くなんて」

千「ともみは知ってたの?」

と「うん...」


 ともみは昨日の夜、井本とメールでやりとりをしていた。


と『明日、投げ合えるの楽しみにしてる!今度は負けないよ!!』

井『えっ明日投げんないよ!!』

と『うそっ!じゃあ明日誰投げるの???』

井『啓太さん』

と『なんで3年生が投げるのよ!!!』

井『あれ?聞いてないの?明日は3年生の引退試合だよ!!』

と『えええ~~~!!!』


忍「じゃあ先発は...」


 埼玉共栄のブルペンで中谷と共に肩を作っていたのは、プロ注目投手150km投手 鈴木啓太だった。


渚「まじか!まさか啓太さんの球打てるなんて...」

ル「さっきまで井本君と対戦する気満々だったのに、この気持ちの変わり様は...」


 ルナがやれやれといった感じでバットを手に素振りを始めた。みんなプロが注目するピッチャーと対戦できることを楽しみにしていた。

 アップを済ませ、互いのシートノックを済ませるとさっそくベンチ前に集合した。


浩「引退したとはいえ、相手は県大会準優勝チームだ!全力でつぶしに行けよ!!引退試合に俺たちを選んだことを後悔させてやれ!!」

「「はい!!!」


東「久しぶりだな~こーゆーの...引退試合ってのは試合負けた次にやらなきゃならねー。だからよー3月の引退試合は勝った次の試合やれるように今日は絶対勝て!!」

「「はい!!!!!」」


 審判は埼玉共栄の2年生が行う。主審の号令で両チームホームベース付近に整列する。夏海高校の選手は主審を見て目を丸くした。マスクを持って、ホームベースの中心に立っているのは2年生エース井本隆利だった。


井「本日主審を務めさせていただく井本隆利です!今日はいいゲームを創っていけるようにがんばります!!」

「おいおい!いつからそんなに自己主張出来るようになったんだ」


 馬鹿にしたように口を挟んだのは憎たらしいセカンドの前川だった。


中「やめてくれよ。ようやくエースとしてしっかりしてきたんだから」

千「ファールチップとか当たったらどうするの?」

井「大丈夫です!鍛えてますから!!」


 このやりとりをケラケラ笑っているのはキャプテンの小平雅人だった。


雅「お手柔らかに頼むよなんて言わなよ...また本気でやり合えるのスゲー楽しみにしてたんだぜ」

千「こちらこそリベンジの機会がもらえてサイコーにテンション上がってます」


 両キャプテンはがっちり握手を交わしベンチに帰って行った。


井「プレイボール!!!」


先攻 夏海高校 後攻 埼玉共栄高校

1 中 村山 葵         1 二 前川

2 捕 椿 千尋         2 一 大川

3 三 高峰 渚         3 遊 小平 雅人

4 一 石井 千晶        4 捕 中谷

5 左 ルナ          5 左 栗原

6 右 山田 忍         6 中 平井

7 遊 小平 真純        7 三 羽沢

8 二 小平 真琴        8 右 笹岡

9 投 西沢 ともみ       9 投 鈴木啓太


 先頭は夏海高校の切り込み隊長葵。しかし、初めて見る150kmを超える速球に手も足も出なかった。千尋、渚もバットに当てることすら出来ずに初回の攻撃を終了した。

 チームには嫌な流れが漂っていたが、ともみが初回をきっちり3人で抑えその流れを断ち切った。雅人との最初の勝負は外のカットボールを打たせてのセカンドゴロだった。

 結局、打者1巡目は啓太の前に手も足も出ず、7奪三振を喫した。対するともみも3回までをパーフェクトに抑えた。

 そして、4回表ツーアウトでバッターボックスに渚を迎えた。初球は緩いカーブを見送ってストライク。2球目はインハイに直球が外れる。3球目は外から入ってくるスライダーにバットをあわせるも3塁方向へのファール。そして、4球目。高めの釣り球を中谷は要求する。啓太はきっちり胸元に投げ込む。渚は腕を上手く折りたたんで捉えるも打球は力のないセンターフライに終わった。


中「ナイスピッチング!!」

雅「いいねー。狙えるよ新人王!!」

啓「なんか今日は出来すぎで怖いなー...終盤つかまるかも」


 啓太の好投に引っ張られ埼玉共栄ベンチは明るかった。対する、夏海高校のベンチもそれほど暗くはなかった。


千「初めて打球が外野に飛んだね」

忍「チャンスは少ないと思うけど、全くのノーチャンスってことはないよね」

と「大丈夫...点を取られなければ負けることはないから...」

葵「なにかともみさん雰囲気が変わった気がしませんか」

瑞「これがエースの気迫...」


 ともみもテンポよくツーアウトを取った。そして、埼玉共栄のキャプテン小平雅人を打席に迎える。


雅「ちょっと~全然啓太の球見えてないじゃん。たしかに今日はいい日だけどさ。こんなんじゃあいつ打てないよ」

千「・・・」

雅「頼むよ~君たちには俺たちのリベンジしてもらいたいんだからさ」

千「たしかに、150kmの球は私たちには簡単に打てる球じゃありません。でも、投手のできならこっちも負けてませんよ!!」


 千尋がミットをポンッと叩き、ミットをともみに向かって大きく構える。内に外にバッテリーは揺さぶりをかける。そして、ツーストライクワンボールからの4球目は外角にパシッと決まる。


千「はぁいったーー!!!」

井「ボール!僕は声じゃストライクとりませんよ」


そして、5球目。フォークを捉えた打球はピッチャーの足元を抜けていく。センター前に抜けるかというところをショート真純が回り込んで捕り、素早くファーストに送球する。


審「アウト!!」


 華麗な守備で兄を封殺した。捕ってからが早いこと早いこと。

 5回表も簡単にツーアウトをとられてしまう。しかし、忍が外角のストレートにちょこんとバットを出して、当てた打球はファーストの頭上を襲う。ライト線に落ち、前に守っていたライトが転々と転がる打球を追っていく。両チーム通じての初ヒットは忍のスリーベースヒットとなった。

 啓太は初めてランナーを背負ってのピッチングとなったが、続く真純を三振に打ち取った。

 その裏の攻撃は4番の中谷から始まる。その初球。低めを上手くすくい上げてセンター前へ運んだ。


啓「ナイスバッティング!」

雅「とりあえず1本出てよかったぜ。引退試合でノーヒットノーランなんて小久保の引退試合が脳裏に浮かんだからな」


 しかし、続く5番をゲッツーに打ち取ると、続くバッターも難なく打ち取った。そして、6回表。先頭の真琴のボテボテの打球は三遊間に転がる。雅人が回り込んで捕るも...


雅(間に合わないか...)


 夏海高校大望の先頭バッターが塁に出た。そして、ともみがしっかりバントを決める。ここで埼玉共栄が一度タイムをとる。葵はいい当たりもセカンドゴロに倒れる。ツーアウト3塁となり、千尋の打球はショートに転がる。難しい打球を雅人が華麗に捌く。

 なかなか点が入らない嫌なムードでもともみは7番からの下位打線を淡々と抑えた。7回は再びチャンスを作るも点に結びつかない。

 その裏の守備では前川にヒットで塁に出られると、2番大川のバスターが1塁線を抜けるツーベース。ノーアウト2,3塁で小平雅人を迎える。疲れの出てきたともみのあまくなった勝負球をライトに運ばれ2点を先制される。すかさず、ピッチャーを瑞樹に変えるも、変わりっぱなの初球を中谷にバックスクリーンに運ばれた。一気に4-0とリードされる。啓太は残りの8回9回を完璧に抑え、完封勝利を飾った。


井「ゲームセット!!」

「「ありがとうございました!!!!」」


 試合後は雅人の引退スピーチがあった。その後、試合に出れなかった選手達の為の引退試合が行われ、今日は解散となった。


千「あの!雅人さん!今日はありがとうございました!!」

雅「こちらこそありがとうだよ」

忍「雅人さんはどうしてプロに行かず、大学に行くんですか?」

雅「遊ぶため」

「「・・・」」

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