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土化粧   作者: 安芸 航
26/28

合宿〜5日目〜

 合宿5日目の最終日。朝は7時に起床し、8時にグランド集合で最後の練習が始まった。練習は3校合同でシートノック。ランナーを付けての本格的なノックだった。ノッカーは浩一が一人で4時間打ち続けた。


仲「すごいね...夏海高校の監督さん、この炎天下の中一人で打ち続けてる」

晶「うちの監督はチームの中でも一番体力あるからね」

貴「うちの監督も体力は自信はあるんですけど、ノックがあまり上手じゃなくて...」

仲「うちの監督はもうお年だから...でも、野球や生きていく中で必用な知識とかはすごく詳しいの」

貴「へーそれはいいですね。たしかに、昨日の山登りの中で山に関する豆知識を教えてくれましたもんね」

晶「鯉ヶ窪高校の山本監督は野球はやっていなかったの?」

貴「高校時代はやってたらしいのですけど、卒業してからもう20年ぐらい経ってますからね...」


 二遊間は相変わらず軽快な守備で周りを沸かせていた。


琴「菊丸ちゃん守備上手だよね~いつもどのくらい練習してるの?」

純「こら!先輩なんだから敬語使いなさい!」

菊「いいのいいの!私はねー小さい頃から野球が近くにあったの。おじいちゃんもお父さんも高校球児。だから上のお兄ちゃん二人も野球やってたんだよ。私も気がついたら野球を始めてて、当たり前のように続けてきたら、それなりに上手くなれたわ」

琴「野球は何年やってるの?」

菊「10年ぐらいかな~」

純「私たちも同じぐらいやってるのにな...」

菊「1年のこの時期と冬は大事だよ!!私はこの1年でビックリするほど成長できた!!私も去年は今より全然だったよ」

琴「ほんとぉ~??」

菊「本当だよ!去年の私は体力も全然なかったし、打っても内野の頭すら越えなかったし、何より守備中自分のところに打球が来たらドキドキしてた」

純「今はしないんですか?」

菊「うん!しないよ。そうなってからかな、守備が上達したのも。誰よりも練習してどんな球も捕れるようになる!!自信が付いてきたからチームの勝利の為に私のところに飛んでこいって思うようにもなった。チームメイトの守備を信頼してない訳じゃないけどね!」

琴「自信を付けられるほどの練習か...カッコイイ...」

純「打球が来たときにドキドキしない境地...私たちもそんな世界に行けるのかしら...」


 センターではチームの切り込み隊長同士が打球を華麗に捌きながら会話を交わしていた。


西「葵ちゃんはさー初回の1打席目に立ったときどんなこと考えてる???」

葵「そうですね...どの打席でも特別な意識はしていません。どの打席にも打ち取られていい打席はありませんから」

西「たしかにそうだけどさー。やっぱり意識しない?特に先攻で誰よりも先に打つのって。みんなの注目が私に向いてるんだよ!!」

葵「みんなに見られている...それは2打席目も3打席目も一緒じゃないですか?」

西「そりゃ見られてるだろうけど~」(えー!いつも自分が見られてると思って打席立ってんの!自意識高すぎでしょ)

葵「私は剣道をやっていました。剣道は2本取られると負けなのですが、本当の戦いなら1本でも、1太刀でも受ければ死ぬことになります。野球はアウトになることを『死』と表すでしょ。だから私は全打席生きる為に全力で打席に立っています」

西「なるほどね...あんた変な子って思ってたけど、案外しっかりした己の考えって奴を持ってるんだね!!」

葵「私は変な子だと思われていたのですか...」

西「変な子だよー。打席では私に向かってブツブツ言ってくるし」

葵「あれは...申し訳ありませんでした」

西「ははは!!いいんだよー。それに私も変な子だし」

葵「そんなことは...」

西「いいの!変な子で!!普通な子って思われるのが1番つまらなくて嫌!!私もいつも誰かに見られているって思いながら行動するようにするわ。その方が気が抜けなくていいもの!」


 時計が12時を指した時、監督達はホームベース付近に選手達を集め、バーべーキューへの指示を出した。


浩「今日の練習はここまで!みんなでグランド整備をした後、シャワーを浴びたいだろうからすぐに浴びて、13時半からお待ちかねのバーべーキューだ!!!」

「「イヤッフーーーーー!!!」」


 選手たちは一斉にグランド整備を始めた。すぐにシャワーを浴びて13時15分にはみんなバーべーキューの会場に着いていた。会場では宿舎の方達がバーべーキューの準備を進めていた。目の前にはたくさんの美味しそうなお肉。新鮮な夏野菜が並んでいた。


忍「見たら分かる美味いやつやん!!」

琴「美味しそー!」

大「早く食べたーい!!」


 忍、真琴、大海の3人は餌を目の前に尻尾を振る犬のようにバーベキュー開始を待っていた。赤く燃え上がる炭の上でジュージューと音をたてながら、お肉が焼けていく。選手達は次々とお肉を口に運んでいく。合宿最終日ということもあり、選手達の間に壁はなく、ひたすらに話し、ひたすらに食べ続けていた。

 楽しい時間もあっという間に過ぎ、選手達の箸が少しずつ止まってきたところで小春が千尋と丸子に声をかける。


西「地獄の合宿も今日で終わりかー。なんか寂しいな」

丸「終わってみるとあっという間って感じだったね」

千「そんな悲しそうな顔するなよ!こはるん!!また、会えるさ」

西「別に寂しくなんかないさー!」

千「今度はこっちに死ににおいでよ!地獄の冬合宿用意して待ってるから」

丸「いいね~東京の冬は暖かいって聞くし」

千「埼玉だから寒いぞ」

西「都会もんはあの程度の寒さで根を上げちまうなんて情けねー」

丸「ははは!北海道は寒そうだもんね」

千「寒いなんてもんじゃないだろ。死んじまうわ」

西「ちーちゃんは弱っちーな~」

千「そっちこそ、うちの冬合宿でヒイヒイ言わないように気を付けろよ」

丸「ちーちゃん...まずは帰りの飛行機でヒイヒイ言わないように気を付けてね」

西「そうだ。乗り物酔いによく効く薬あげるよ。翔子もバスが苦手でな。よく使うんだ」

千「かたじけない」

西「せっかく食べた肉無駄にするなよ」

千「たりーめーだ」


 みんなでご馳走様をした後、監督達が締めの挨拶を行う。


松「夏海高校、鯉ヶ窪高校の皆さん遠いところから本当によく来てくれました。いつもはうちの選手もこんな元気じゃないんですよ。西川さんはいつも元気ですがね」


 笑いが起こった。


松「こんな寂しいところです。こんなに賑やかだった5日間は本当に楽しかったです。みなさん本当にありがとうございました」


 そう言って頭を下げた松里の眼には涙が浮かんでいた。選手の中にも何人か涙をこぼすものがいた。


山「こうは言ってくれてんけん、白雪学園さんにはお世話になったけんの。みんなで改めてお礼を言うんじゃ」


 山本が頭を下げるのと一緒に夏海高校、鯉ヶ窪高校の選手もお礼を言った。


「「ありがとうございました!!」」


浩「この5日間でみんながどれだけ成長したかは帰ってから各々練習試合で確かめてほしい。決して楽しいだけの旅行ではなかったと思う。この経験を活かし、甲子園で会えることを楽しみにしている!以上!!お疲れ様でした!!!」


浩一が最後にお別れの挨拶で締めた。夏海高校と鯉ヶ窪高校はそれぞれバスに乗り、空港に向かった。


西「バイバーイ!また野球しようねー!!!」

千「また!!」

丸「またグランドで!!」


 バスに乗ると5日間の練習の疲れが出たのかぐっすりだった。浩一すらも空港までの間目を覚ますことはなかった。空港に着き、鯉ヶ窪高校の選手たちと最後の挨拶を交わし、飛行機に乗り込んだ。


渚「さぁ我らがキャプテンはこの鉄の塊に勝つことは出来るのかしら」

ル「この程度の敵に勝てないようじゃ甲子園なんて夢のまた夢ね」

千「ふん!今回はこの小春にもらった酔い止め薬があるから平気だもんね」

晶「それほんとに効くのかしら...」

と「毒が盛られてるんじゃないかしら...」

瑞「先輩。コナンの観過ぎです」


 千尋は小春からもらった薬を水で一気に流し込んだ。すると5分も経たないうちに千尋はぐっすり眠ってしまった。


と「さっきあんなに眠ってたのにまた...やっぱり毒が...!!!」

瑞「だから先輩。コナンの観過ぎです」

渚「でも、この寝方は普通じゃないわね。墜ちるように逝ったもの」

ル「このまま目を覚まさないなんてことも...」

忍「みんな慌てすぎ。ただの睡眠薬でしょうが」

晶「睡眠薬???それってやばくない???」

忍「大丈夫よ!!私も昔は不眠に悩まされてたからよく睡眠薬は飲んでたわ」

と「睡眠薬に慣れるなんて...そんな眠りの小五郎じゃあるまいし」

瑞「先輩。コナン大好きですね。今度一緒に映画観に行きましょ。私も好きなので」


 飛行機が東京に着くまで千尋は起きることも吐くこともなかった。羽田空港からは各自で帰ることになった。そして、3日間の休みを経て、夏休み練習が再開した。

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