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土化粧   作者: 安芸 航
25/28

合宿〜4日目〜

 合宿4日目の朝は前日の疲れを考慮し、多少遅かった。普段なら6時起床、7時にはグランドに集合だったが、今朝は7時起床、8時にジャージでグランドに集合した。各学校、右胸に学校名、左胸に名字が入っている。


西「眠―い...」

忍「昨日の疲れが...」

菊「体中が痛い...」


 大きなリュックを背負った浩一、松里、山本が横一列に並ぶ。


松「皆さん。今日はこれからハイキングに行きましょう。皆さんにはこれからここからすぐの山に登ってもらいます」

西「や、山...まさか、あの山????」

貴「あの山って...どんな山?」

千「山なんて目の前にたくさんあるじゃないか」

ル「That’s mountain?」


 生徒達の目の前には北の山々が連なりそばだっていた。どれも軽い気持ちで登れそうな山は1つもなかった。


西「いやだー!!地獄の合宿はまだ始まってすらいなかったんだー!!!」


 3日目の練習にまだ余裕があった小春ですら今まで見たことがないような表情を浮かべている。見れば白雪学園の生徒全員が死刑宣告を受けたかのような絶望の表情を浮かべている。


忍「ちょっと小春!そんなにやばい山なの?」

西「去年の夏に登ったときは往復で10時間掛かった」

仲「そして、何より山頂に行くにしたがって空気が薄くなっていくの...」

西「高山病、足腰の疲労、そして、暑さ。いくら北海道でも夏に山に登れば滝のような汗をかく」


 生徒たちがざわついていると浩一が大きな声で。


浩「今から昼飯の弁当を配る。チームのキャプテンが取りに来い。タオル、水筒、軍手は各自持参な。早く出発しないと帰りが遅くなるぞ。真っ暗な山道を歩きたくはないだろ?」


 みんな一斉にゴクリと唾をのんだ。

 学校ごとに列を作って、山に入る。先頭に椿率いる夏海高校。間に鯉ヶ窪高校を挟み、後方に山登り経験が豊富な松里率いる白雪学園。最後方には小春が拾った木の枝を振り回しながらついてくる。

 最初は林道をひたすら歩く。


忍「監督は山登り慣れているんですか?」

浩「ああ、大学時代は野球サークルの仲間とよく山登りに行っていたからな」

千「へー初耳。野球サークルなのにそんなこともしてたんですね」


 浩一と千尋は親子であるが、学校や部活では教師と生徒、監督と選手という立場をきちんとわきまえている。


浩「最初はこんな林道だが、この先もっと険しいケモノ道になっていくそうだ」

葵「そっちの方が楽しそうじゃない。熊とか出ないかしら」

晶「嫌だ。食べられちゃう」

葵「ベアーキラーと恐れられている私がいれば大丈夫」

ル「なんですか。そのうさんくさいニックネームは?」

大「真琴~。熊が出るってよ~」

琴「やった。今日は熊鍋ね」

純「どうしてみんな熊を倒せる前提で話しているのかしら」

依「頼もしいわね。私は一目散に逃げるわ」

樹「わ、私も熊さんが出ててきたら死んだフリをします...」

純「樹里ちゃん。それは迷信よ。熊が出てきたら背中を見せずにゆっくり距離をとるの」

大「真純物知り~」

琴「一斉に石とか投げればいけないかな?私たち野球部だし」

忍「木の枝とか投げたら刺さらないかな。矢みたいに」

と「熊相手に投げられるなんて、そんな機会滅多にないわね」

葵「私なら熊が前足を上げて立ち上がった瞬間に逆胴で肋骨を2,3本持っていくわ」

渚「私なら後ろから鈍器でゴンッかな」

千「私なら目を突いて、視力を失ってる間に熊の背中から登って首を絞めるわ」

純「熊を相手に撤退という選択はないの」

浩「頼むから、変な事しないでくれよー」


 最初のうちは会話が盛り上がっていたが次第に口数は減っていき、道も少しずつ険しくなっていった。

 登山開始から3時間が経過していた。一行は少し開けた広場に着いた。広場と言っても、3校の生徒が集まるとかなりぎゅうぎゅうになる。


松「では、ここで少し休憩を挟みます。30分後に出発します」

「「はい!!!」」


 生徒達は各自木陰に座り、水分を補給した。


菊「いやーきっつー」

千「水分補給は途中で何回かあったけどちゃんとした休憩はやっぱりいいわー」

西「どうですか?お二人さん???」

千「やっぱり、あなたは余裕そうね」

西「そんなことないわよ。昨日の疲れもあって割と足にきてるわ」

菊「たしかに。昨日もあれだけ走ったもんね」


 そんな話をしていると椿と松里と山本が地図を見ながら話している。


浩「よし!じゃあそろそろ行くぞ!!ここからは道が本格的にケモノ道になっていくから軍手をつけろ」

「「はい!!」


 浩一を先頭に列が進む。道が2つに分かれていたが浩一は左側に進んだ。


西「あれ?この前来たときは右の道を行ったのに...」

千「どうゆうこと?」

西「ここからは私の未知の領域ってこと」


 そこからは本当に過酷な道のりだった。手を使わなければ登れない道、一瞬の油断が命の危機に直結するかも知れなかった。軍手を付けていなかったら手を何カ所も斬っていたかも知れない。途中体力のあるものは体力のない子に手をさしのべる。途中、少休憩を何回かはさみ、広場での休憩から2時間後、一行は山頂に到着した。


浩「着いたぞ。山頂だ!!」

千「うわぁー...」

忍「すごい絶景!!」

渚「千尋と忍がすっかり乙女になってるわね」


 生徒達がそうなるのもうなずけるほどの絶景が山頂から広がっていた。北の山々に囲まれた広大な平野。真ん中を割くように流れている大きな川。今までの疲れが一気に引いていく。


松「先ほど配ったお昼ご飯を食べてください。1時間したら下山します」

忍「そうだ...登ったと言うことは降りなきゃいけないんだ...」

渚「そりゃそうだろ!!」

忍「そんなーイモトはヘリで降りるのにー」

西「忍ちゃん。それは言っちゃいけないやつ」

渚「私たちが登った山なんてイモトの登った山に比べると鼻くそみたいなもんだからな」

千「さすが、二人はまだまだ元気だなー」


 山を登ると達成感の共有からかチームの垣根を越えた交流が見られた。

 そして、お昼ご飯を食べ終わった一行は1枚集合写真を撮り、下山を開始した。途中足を滑らせないように注意しながら、ゆっくり足を擦るように歩く。行きはよいよい帰りは怖い。登るよりも下る方が意外ときつい。

 行きに掛かった時間よりも帰りに掛かった時間の方が長かった。白雪学園に着くと時計は18時を差していた。しかし、まだまだ日は高かった。

 

松「今日はこれで解散にします。夕食は20時から、明日は7時にグランドに集合。最後に合同練習をして、お昼はみんなでバーべーキューをして、今回の合宿を締めたいと思います」

「「はい!!!」」


 バーべーキューという言葉に一気に疲れが吹っ飛んだ生徒達。しかし、さすがに今日の夜はみんな爆睡だった。

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