合宿〜2日目〜
夏海高校の部員たちが起床し、朝食を食べるため食堂に向かったが、白雪学園と鯉ヶ窪高校の姿はなかった。朝食を済まし着替え、軽めのアップをして、グランドに向かった。すると、グランドでは白雪学園と鯉ヶ窪高校の試合が行われていた。9回裏、鯉ヶ窪高校が5-2でリードしている。しかし、白雪学園はツーアウトながら満塁とし、打席には西川小春が立っていた。その表情は少しもプレッシャーを感じることなく、楽しそうに笑顔さえ浮かべていた。対する鯉ヶ窪高校のピッチャーはあとアウト一つとれば勝ちというのにボコボコに打ち込まれたかのような顔をしていた。
3球目だった。カキーン。白球は青々した空に高く舞い上がり、右中間スタンドに吸い込まれていった。白雪学園のベンチは大盛り上がり。小春も体全体で喜びを爆発させていた。
忍「すごいね。私、なんか打つ前からこうなることが分かってた気がする」
葵「私もです。もしかして予知?」
千「バーカ。これが流れだよ。球場全体が点差にかかわらず、押せ押せムードか劣勢ムードか雰囲気で感じる。バッテリーはたまったもんじゃないよ」
礼が終わり、両軍入り交じってのグランド整備が行われる。
浩「おお、来たか」
浩一がこちらに向かいながら声をかける。
「「おはようございます!!」」
浩「おはよう!アップは済んだか?」
千「はい!」
浩「よし。じゃあさっそく30分後に試合だ。メンバーはここに書いてある」
忍「相変わらず急だな~。まっ、もう慣れたけど」
千「あっ、そういえばアップしたら試合って言うの忘れてたわ」
渚「ちょっと。ち・ひ・ろ」
渚がジト目で千尋を牽制する。
千「ごめんごめんって。よし、さっそく試合だからがんばってこー!!」
「「はい!!」」
1年生は元気よく挨拶をしたが、2年生は一発ずつ千尋を叩いてからグランドに入った。
軽くシートノックをして、ベンチ前に集まる。すると、夏海高校ベンチに小春が訪ねてくる。
千「何か用かな?」
西「いやー挨拶がてら偵察にとでも思ってね」
忍「さっきはホームランすごかったね!!」
西「そでしょー。我ながら完璧だったね。あっ、そうそうこれが本命」
そう言って、小春は千尋にスタメンが書かれたメンバー表を渡した。
西「昨日は今日が楽しみすぎて8時間しか眠れなかったよ。だってさ。女子だけのチームと試合なんて滅多に出来ないじゃん。楽しみにしてるよー!」
そう言ってベンチに帰って行った。
千「8時間っていつも何時間寝てんだよ...でも、あの子の言うとおり女子だけのチームと試合なんて滅多に出来ない。気合い入れてくぞー!!!」
「「おおーーー!!!」」
11時ぴったりに整列と礼が行われた。主審は鯉ヶ窪高校の顧問。山本先生が行う。塁審は鯉ヶ窪高校の生徒が務める。
山「礼っ!!」
「「おっしゃーす!!」」
先攻 白雪学園 後攻 夏海高校
1 中 西川 1 中 村山
2 二 田中 2 捕 椿
3 右 稲森 3 三 高峰
4 一 仲田 4 一 石井
5 三 大谷野 5 左 ルナ
6 捕 中橋 6 右 山田
7 左 新城 7 遊 小平純
8 投 齋藤 8 二 小平琴
9 遊 金子 9 投 西沢
試合は先発が共に上場の立ち上がりを見せ、1回2回を三人で切る。3回の表、新城のヒットを足がかりにツーアウト2塁。打席には小春を迎える。
西「しゃあ!こーい!!」
千(左対左...さっきは上手く外のボール球を振らせられた。今回も中で追い込んで外のボール球で...)
初球は狙いより若干内に来たが空振りをとれた。2球目は外にスライダーを外す。3球目インコースのシュートをファール。そして、4球目外角低めからドローンと曲がるスローカーブを小春は右手一本で当てる。フラフラと上がった打球は左中間にポトリと落ちる。2塁ランナーがホームに帰って来る。小春のタイムリーツーベースで白雪学園が先制する。白1-0夏
千(あの球を片手で持ってちゃうのかー...やっぱりやるね。あいつ)
西(ふ~。嫌なリードするよ全く。でも、さすがに今のは読めたよ)
対する夏海高校も4回。沈黙していた打線が葵のヒットを皮切りに千尋もライト前で繋ぎ、ノーアウト1塁3塁。3番渚が右中間へ逆転タイムリースリーベース...とはいかず、千尋がホームで刺されてしまった。しかし、千晶がしっかり犠牲フライを放ち、逆転。白1-2夏
6回にも葵、千尋の連続タイムリーで2点を加える。白1-4夏
7回ツーアウトまで被安打5の無四球ピッチングを続けていたともみだったが4番仲田に追い込んでからあまく入ったストレートをレフトスタンドに運ばれる。白2-4夏
しかしその裏、同じく4番の千晶がセンターの小春が一歩も動けない当たりはバックスクリーン上段に直撃した。結局5-2で夏海高校が勝利した。エースのともみが被安打8無四球完投。4番の千晶が2安打2打点1ホーマーの大活躍。エースと4番が活躍する理想的な形となった。
続く2試合目はお昼ご飯を食べた後行われた。鯉ヶ窪高校の選手たちは先にグランドでアップを済ましていた。
琴「あのファーストでかいよな~。180cmはあるんじゃない?」
大「ほんとだ!身長少し分けてほしいよ」
整列するとさらにその身長は際だって見えた。夏海高校で一番大きいルナよりも頭一つ抜き出ていた。
主審を務める白雪学園の松里が試合開始のコールを優しい声で言った。
松「みなさん。くれぐれも怪我には気をつけて...では、礼!」
「「おっしゃーす!!」」
先攻 夏海高校 後攻 鯉ヶ窪高校
1 中 村山 1 遊 野々村
2 遊 小平純 2 二 菊池
3 一 佐山 3 右 前山田
4 三 高峰 4 一 新井
5 右 山田 5 三 住笠
6 投 中井 6 中 天田
7 二 小平琴 7 左 広瀬
8 左 落合 8 捕 達山
9 捕 新井 9 投 黒井
後攻の鯉ヶ窪高校の選手たちが守備に就く。
浩「スタメンキャッチャーは樹里!」
樹「はいっ!!」
浩「7回からはピッチャールナ。キャッチャーに千尋が回ってもらう」
ル・千「はい!!」
カキーン。試合開始と同時の快音。先頭バッター葵が放った打球はライナーでライトスタンドに突き刺さった。
大「スゲー!先頭打者ホームラン!!」
純「うん。でも、いきなりすぎて見てなかったよ!!」
葵の高校初ホームランで夏海高校が先制した。夏1-0鯉
その後は後続が打ち取られ初回の攻撃は1点で終わった。マウンドには瑞樹が上がり、昨日から始めたばかりの樹里がマスクを被る。瑞樹は先頭バッター野々村を左打席に迎える。こちらも初球攻撃だった。ピッチャーとファーストの間を狙ったセーフティバントが見事に決まった。さらに2番菊池に初球でエンドランを決められてしまい、わずか2球でノーアウト1塁3塁を作られてしまった。
樹(今の球は明らかに安易だった...次は3番...左バッター...それ以外の情報はない...スクイズもあるかも...でも、カウント悪くしたら向こうの思うつぼ...それなら...)
樹里が要求した球は内角のカーブ。不意を突かれた前山田は手が出せなかった。2球目もカーブを今度は高めから入れてきた。
松「ストライク!」
前(2球連続カーブ...次はさすがに...)
しかし、樹里が要求した球は外ギリギリに入るカーブ。瑞樹も樹里のリードに応えるように完璧に投げ込んできた。前山田は結局1球もバットを出すことが出来なかった。
樹「ナ、ナイスボール!!」
しかし、続くバッターは驚異の身体を持つ4番の新井を迎える。
「貴音―チャンスだよー。ランナー返してー」
ベンチから声援が飛ぶ。
貴(去年の夏は部を離れていたから、夏合宿のことは知らない...チームを離れてみんなにはすごく迷惑をかけた。それでも、チームのみんなは私のことを温かく迎え入れてくれた。今度は私がチームのみんなに恩返しする番だ!!)
2球目の外角のカーブを長い腕を伸ばして合わせた。鋭い打球はピッチャーの左を抜けていく。
樹(うそっ。あのコースを...)
センター前に抜けようかと誰もが思ったとき、セカンドの真琴が腕を伸ばし、グラブでボールを掴むと、そのままグラブトスで真純に渡した。真純はセカンドベースを踏んでそのままファーストへ転送した。
貴(ゲッツー...)
菊「ドンマイ!上手いねー。あれは向こうが上だと思うしかないよ」
貴「ありがとう。まるちゃん...」
2回の表は5番忍からの攻撃。先ほどと同じような鋭い当たりがセンター前に抜けようかというとき、今度は鯉ヶ窪高校の菊池がダイビングキャッチ。そこから膝をつきながらのスロー。
審「アウト!!」
千「うまっ」
渚「あれは上手すぎ」
忍「う~...ヒット一本損した」
続く瑞樹も右方向に鋭いライナーが飛ぶ。しかし、またしても菊池が横っ飛びでボールを掴む。
大「えー!!今何センチ飛んだ???」
依「2メーターぐらい飛んだように見えたよ。普通にライト前ヒットだと思ったし」
真琴の当たりは一二塁間。今度はさすがに抜けただろうと思った瞬間。インフィールドラインにかかろうかというところで菊池がスライディングキャッチ。そのまま素早く一塁に転送した。
審「ア、アウト!!」
琴「う、ウソ...」
忍「あれはもう反則でしょ!!」
菊「鯉ヶ窪高校セカンド。菊池丸子でーす。キクマルちゃんって呼んでね♡」
鯉ヶ窪高校の菊池が呆気にとられている夏海高校のベンチの前でお茶目に自己紹介した。
その後は両チームとも堅い守備に助けられながら投手が踏ん張った。6回の表に渚のタイムリーで1点を追加するも、その裏、ツーアウトからフォアボールで出したランナーを菊池丸子のレフトスタンドへのホームランで同点とされてしまう。夏2-2鯉
7回からはピッチャーにルナが入り、キャッチャーに千尋が入った。先発を勤めた瑞樹はレフトに回った。実践初登板のルナは7回8回を荒れ気味の剛速球とフォークボールで6者連続三振に打ち取った。しかし、9回裏、突如コントロールを乱し、満塁とすると4番新井貴音にセンター前にはじき返され、サヨナラゲームセット。3-2で鯉ヶ窪高校が勝利した。
試合が終わると3校合同の守備練習を行い、ダウンをして宿に戻った。入浴を済ませ、3校が食堂に着くと浩一、松里、山本の3監督が前に出て。
松「お疲れ様です。皆さん今日はお互い試合をやってみて、どうでしたか?各々の感想を食事が終わった人からでいいので、共有してみてください。それでは...いただきます」
「「いただきます」」
さっそく、千尋のもとに小春が駆け寄ってきた。
西「よおー。千尋っち!!いやー、強いな夏海高校!」
千「白雪も十分強かったよ。先発エースじゃないんでしょ?」
西「まーな。1年だ。期待の新人なんだぜ。そっちのエースは最高に打ちにくかったよ。千尋っちのリードも冴えてたしね」
千「一本華麗に左中間に持って行ったでしょ。チャンスに強そうなバッターなのにどうして一番打ってるの?」
西「だって、1試合で1番打席が回ってくるじゃない!!それに、うちはそっちみたいに主力打者が5人もいない...でも、うちは下位まで満遍なく打てるのが特徴なの。だから、1番にも十分チャンスで回ってくる...逆にそっちの夏海は上位5人はすごく怖いけど、6番以降がちょっとね...」
千「たしかにな...」
菊池と小平姉妹がご飯を食べながら、守備談義に盛り上がっていた。
菊「いやー。まさに鉄壁の二遊間だね」
琴「そっちこそ、反則級の守備だよ!ライト暇だって怒ってない?」
菊「ハハハッ。たまに言われる。くると思って構えてたのにって」
純「菊池さんもすごかったけど、鯉ヶ窪は全体的に守備が鍛えられている感じがしました」
菊「キクマルちゃんって呼んで!流石!分かってるねー。私の守備はたしかに派手で目立つけど、他の選手も地味だけど堅実な守備をしてくれる。だからこそ、チームはこの夏勝ち進むことが出来たんだよ」
一方、今日キャッチャーを任された樹里は。
樹(パスボール4つ。盗塁は3つ走られて1つも刺せなかった...)
貴「お疲れ様です」
樹里のもとに鯉ヶ窪高校の新井が声をかけに来た。
樹「おっ、お疲れ様です...」
貴「聞きました。キャッチャーを初めてまだ2日だそうですね」
樹「は、はい...だから、まだまだ下手くそで...」
貴「たしかに...技術面的な部分はまだまだかもしれません。ですが、はじめたばかりでなんでもうまくやってしまえる人は多くありません。それでも、必死に考え、あなたなりにプレーしていました。私はあなたのその野球に取り組む姿勢を尊敬します」
樹「尊敬だなんて...あ、ありがとうございます...」
こうして、合宿2日目も終わろうとしていた。




