合宿〜1日目〜
8月の暑さは尋常じゃなかった。それでもこまめな休憩、水分補給を挟みながら練習に励んだ。そして、迎える夏合宿。一同は羽田空港から北海道に向かった。空港からバスで1時間半。合宿地である、白雪学園に到着した。
忍「まさか、こんなことになるなんて」
ル「完全に想定外でした」
渚「なんで、15年以上一緒に暮らしてて知らなかったんですか?」
浩「いや、だって...今まで飛行機とか乗ったこと無かったから」
キャプテンであり、扇の要である千尋はバスの中で完全にダウンしていた。
と「まさか千尋が飛行機に酔っちゃうなんて...試合できそう?」
千「ま、まかせてよ...こ、こんなのちょっと横になってれば...だ、大丈夫だから...オ、オエッ...」
千尋は顔を真っ青にして持っていたエチケット袋に顔を埋めた。
浩「まあ、誰にだって苦手なものぐらいあるさ。今日は試合ないらしいから、一日ゆっくり休んで明日万全な状態で合宿に臨め」
忍「監督!ばりばり試合やってるんですが」
浩「なに?」
グランドを見るとたしかに試合が行われていた。しかし、戦っているのは左胸に『鯉ヶ窪』と書かれた女の子と胸に『KOMAI』と書かれた男の子だった。すると、優しそうな顔をした少し太り気味なおじさんが声をかけてきた。
松「こんにちは。夏海高校の椿監督ですかな?」
浩「はい。そうですが...」
松「白雪学園野球部顧問の松里と申します。遠路はるばるお疲れ様でした。さあさあ、まずはお荷物を宿泊施設に置きに行きましょう」
浩「ありがとうございます。今グランドでは試合が行われているようですが...」
松「ええ。今、広島からおいでになっている鯉ヶ窪高校さんと練習試合を申し込まれた小牧高校さんで試合をしてもらっています。午後からは夏海高校さんとも是非やりたいと言ってましたよ」
浩「小牧高校というとあの強打で有名な!今年も甲子園でベスト8まで行っていましたよね」
松「ええ。なんでも秋大に向けて新チームに実戦経験を積ませておきたいらしくて」
浩「そんな強豪校と練習試合が出来るなんて...」
松「うちと一番近い距離なんですよ。だからこうしてよく試合をさせてもらっています。それでも片道1時間はかかりますが」
松里に連れられ、一行は宿泊施設に案内される。大きな部屋が一つ。部屋になにもない分余計広く感じられた。
松「押し入れに布団がございます。椿監督は別のお部屋をご用意しております」
そう言うと松里はグランドに戻っていった。
琴「ひろーい」
大「ここならいっぱい枕投げできるね」
葵「部屋と言うより倉庫って感じですね」
渚「なに言ってんの。床は畳、きちんと窓もついてる。人が暮らすには十分すぎる条件が整っているじゃない。そんなことより試合!速くそのゲロ女寝かせて試合行くわよ」
と「千尋抜きで?」
渚「当たり前じゃない」
と「キャッチャーは誰がやるの?」
渚「誰がやるの?」
「「・・・」」
忍「キャッチャーいないじゃん」
晶「誰かキャッチャーやったことある人は?」
「「・・・」」
渚「千晶!出来ない???」
晶「デブはキャッチャー出来るなんて偏見よ」
渚「ち、違うわよ...ほら...ファーストってボール取る場面が多いから」
ル「いっそのこと今日の所は棄権したらいいじゃない」
渚「それはダメ!!甲子園出場校と試合なんて次いつ出来るか分かんないじゃない」
千「そ、そうだよ...これはチ、チャンスなんだ...ウッ」
忍「ルナ!!あんた肩強いんだからどう???」
ル「そうね...一度だけやってみたことならあるけど」
渚「なんだ!そうなら始めから言ってよ!!」
ル「やったことあるって言っても遊びみたいなもんだよ」
と「じゃあ、千晶とルナ両方試してみていい方を試合で使うことにしよう」
ともみが投げ、千晶とルナが順番に受ける。そして、二塁送球もしてみた。
琴「肩がいいのはルナ先輩」
純「キャッチングがいいのは千晶先輩」
忍「どっちもどっちね」
ル「とりあえず最初は私がやってみるわ。ともみ。あなたが投げにくいと思ったら千晶に変わるわ。それでいい?」
と「うん...」
キャッチャーをルナが務めることを浩一に伝え、アップを済ませ試合に備える。
浩「相手は甲子園ベスト8校だ。胸を借りるつもりで思いっきりやってこい!!そして、ルナの代わりにレフトには依織に入ってもらう」
依「はい!!」(大きな試合で初めてのスタメン...)
大「がんばって!!」
依「うん!ありがと!!」
先に行われていた鯉ヶ窪高校と小牧高校の試合は9-4で小牧高校が勝利した。甲子園出場の名は伊達ではない。そして、午後3時。夏海高校と小牧高校の試合が始まる。
審「礼っ」
「「おっしゃーす!!」」
先攻は小牧高校。夏海高校が守備に就く。キャッチャーには慣れないプロテクターを付けたルナ。レフトでは落合依織がセンターの葵とキャッチボールをしている。
ル「ボールバック!!セカン行くよ!!」
セットからともみが投げる。ルナの肩からバズーカのような球が真純のグラブに収まる。
「おおーー!スゲー肩だ」
「これは簡単には走れねーぞ」
みんながひょっとしてルナがキャッチャーでも大丈夫なんじゃないかと思った。しかし、ともみはどうにも投げ憎そうにしている。そして、ランナーを2塁において、相手の4番バッター。カキーン。快音を響かせた打球はレフトにグングン伸びていく。
依(あっ打球が来た)
しかし、打球は依織のはるか上を越え、スタンドに消えていった。
4回が終わって、7-2。小牧高校がリードしている。
浩「ルナ。お疲れさん。次の回から千晶がキャッチャーやってみろ。ルナはレフト。ファーストには大海が入れ」
ル・晶・大「はい!!」
しかし、これが大誤算だった。ともみはますます投げ憎そうだった。結果、3イニングで6点を取られてしまった。13-3となりコールドが見えかけたが7回の裏に大海の対外試合初ヒットをきっかけに打線が繋がり、4点を取った。
浩「ここまでやってみてどうだ?ともみ?お前の実力はこんなもんか?」
と「いえ...やっぱり私のキャッチャーは千尋しかいません!!」
浩「ルナと千晶は本当によくやってくれた。だが、キャッチャーに必用な能力が二人とも欠けていた。何か分かるか?」
ル「・・・・」
晶「ピッチャーとの連携...ピッチャーを気持ちよく投げさせてあげられなかった」
浩「それもあるかもしれんがもっと簡単なものだ」
樹「リ、リードですか」
浩「そうだ。ただ捕るだけがキャッチャーの仕事じゃない。相手にいかに打たせないか。これが重要になってくる。まぁ簡単なことじゃないんだがな...」
晶「改めて千尋の凄さが身にしみてくるわね」
浩「次の回からピッチャーは瑞樹。キャッチャーに...樹里!お前がやってみろ!!」
樹「えっ...む、無理ですよ...」
浩「ここまで俺の隣で配球を見て、野球の知識が豊富なお前ならある程度リードできるはずだ。キャッチャーとしての基礎能力は後々練習すればいい。ミスを恐れず思いっきりやってこい!!」
樹「は、はい!!」
瑞樹、樹里のバッテリーは8回、9回を2点で凌いだ。樹里はパスボールや盗塁を許したりなどしたが、最後まで小牧高校打線に的を絞らせなかった。最終回、渚が一矢報いるツーランホームランを放ったが反撃はここまで。
審「ゲームセット!!」
「「ありがとうございました!!」
15-9。小牧高校との試合が終わり、夏合宿初日のメニューが終了した。
千「ひどいわね。ともみ...7回投げて13失点。被安打15。与四死球5。7被弾...もし、本当の〈弾〉だったら蜂の巣ね」
合宿所に戻ると飛行機酔いから復活した千尋と反省会が行われた。
と「力が出し切れなかったの...」
千「力が出し切れなかった...もし、これが私たちにとって最後の試合だったら後悔してもしきれないわよね」
と「・・・」
渚「もし、これが私たちにとって最後の試合だったら...キャプテンが乗り物に酔って力どころか腹の中の物出してたら後悔してもしきれないでしょうね」
千「まったくだ。せっかく朝から夏の暑さに負けないようにってカツ丼食べてきたのに」
忍「千尋、渚。ごはん中」
三校合同で夜ご飯を食べている。といっても、初日と言うこともあってか、目立った交流もなく各校固まってご飯を食べている。夏海高校は反省会を兼ねた夕飯をとっていた。すると、隣の机からある少女が声をかけてきた。
「はじめまして。東京から来た都会もんってのは、あんたちみたいね」
「ちょっと小春。いきなり声かけたらびっくりするでしょ」
見た目は超絶美少女。ただ、パジャマと思われるTシャツには大きくローマ字で『Summer』と書かれた超絶ださティーを着こなした小春と呼ばれた少女。そして、小春を注意する、少しおどおどした感じの少女。顔的には小春に少し劣っている気もするが、着ている洋服が可愛いせいもあって、全体的には可愛く感じる。
仲「はじめまして。白雪学園2年の仲田翔子です。あの...よろしくお願いします!!」
西「同じく白雪学園2年の西川小春でーす。あんたたち都会から来たんでしょ?都会ではこういう服が流行ってるらしいじゃん!?」
小春は自分の服を両手で引っ張って千尋達にたずねる。突然の声かけに一瞬たじろいだ夏海高校であったが、すぐさま自慢のコミュニケーション能力を見せつける。
千「はじめまして!夏海高校2年で部長を務めさせてもらっている椿千尋です。こちらこそよろしくお願いします」
忍「山口忍で~す。で、こっちの野球センス抜群のクーデレ美少女が高峰渚ちゃんです!ちなみに今都会で流行ってる服はどちらかというと翔子ちゃんが着ているような服です」
渚「余計なこと言うな。ちなみに夏海高校は東京じゃなくて埼玉だ」
西「ダサいタマ?」
仲「ちょ、ちょっと...」
渚「殺す」
忍「はいはい。そんな物騒な言葉使わなーい。ごめんね。渚は初対面の人と話すとついツンデレになっちゃうの。ほんとはいい子だから、仲良くしてあげてね~」
このくだらないやりとりが徐々に他校との交流のきっかけとなってゆき、夕飯会場はちょっとずつ騒がしくなっていった。




