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土化粧   作者: 安芸 航
20/28

リスタート

 埼玉県大会が終わり、閉会式が行われる。決勝に敗れた埼玉共栄の選手は目を真っ赤にして涙をこらえている者、人目をはばからず泣いている者、敗戦をしっかり受け入れ真っ直ぐ前を見ている者。小平雅人の目には涙は無く、表彰式を見届けていた。


千「埼玉共栄の敗因って何なんだろう...」

光「大平と鈴木さんの投球結果はほぼ互角。ただまあ、得点した後すぐの失点...そして、何より最終回のあの1点...あれが真の決勝点と言っても過言では無い」

渚「野球にタラレバは無いと言うけど、最終回のあの1点が無ければその裏のツーアウト二塁のセンターフライ。1点差ならばセンターが二塁ランナーを刺すために前進していたから超えていたかも知れない。2点差だから1点は仕方ないと割り切って定位置に守ることが出来た」


 表彰式が終わり、徐々にお客さんが帰り始める。


浩「よし。俺たちもそろそろ帰るぞ」

「「はい」


 帰りの道では彼女たちの口数は少なかった。いつもは発言の絶えない小平姉妹も大宮駅までの帰り道、一言も発することは無かった。

 小平姉妹が家に着いたときには雅人も両親も帰ってはいなかった。二人は順番に風呂に入り、簡単に夕飯の準備をしていた。もし、試合に勝って優勝していたら外食の予定だった。夕飯の支度を終えるまで二人はほとんど会話をしなかった。これはこの間のケンカが原因ではなかった。

 夜の7時になろうかという時、雅人は両親と共に帰った来た。その後、お通夜のような夕飯を終え、各自寝室に籠もった。雅人と真純と真琴は同じ寝室に入り、各自沈黙を続けていた。そんな中、とうとう真琴が沈黙を破った。


琴「お疲れ様...惜しかったね」

純「・・・」

雅「お前らがそんな辛そうな顔するなよ。負けて泣きたいのはこっちなんだぜ」

琴「兄さん惜しかったよ。埼玉共栄は浦野学園に負けてなかった」

純「そうだよ。相手のピッチャーがお兄ちゃんにばっかぶつけて...」

雅「精一杯慰めてくれるのは兄としてすごく嬉しいぜ。真剣なのが伝わってくるからな。

真剣に向き合うことは大切だ...お前らが真剣だった故にぶつかり合ってたことも知ってる。だがな...たった一つのミスを責めて、ましてや試合中にケンカするなんて。もし、あの試合が椿や高峰にとっての最後の試合だったらどうだった?」

純・琴「・・・」

雅「お前らは双子で同じチームだ...比較されて嫌な思いをすることもあるだろう。だが、それはお前らが選んだ道だ。自分の選択で他人に迷惑をかけるな!!お前らまだ、高校野球を何ヶ月やってきた?たったの4ヶ月だろ。お前たちの先輩ですら2年高校野球を経験してないんだぜ。そんな奴らが完璧なんて求めるな!高校野球なめてんじゃねぇ!!」


 そう言った雅人の目には涙が光っていた。そして、双子はその涙に誓った。兄が果たせなかった夢を受け継ぐことを。

 そして、次の日の練習。


純「セカン!!」

琴「ナイスボール!ファースト!!」

晶「はい。ナイスボール!二遊間やる気入ってるね~」

忍「全く先輩にこれだけ心配かけといて...」

ル「ほんと。ヤレヤレですね」

葵「何が彼女らをあそこまで変えたのかしらね」


 埼玉共栄戦以来少し士気の下がっていた練習がまた活気を取り戻してくる。


大「私たちも負けてられないよ」

依「そうだね。夏の大会はベンチにいることが当たり前になってけどレギュラー取るぐらいの気持ちで向かわなきゃ!!なっ樹里!!」

樹「えっ...わ、わたしは...別に...」

大「何言ってるの!樹里だって野球の知識は千尋先輩にだって負けてないんだよ!自信持たなきゃ!!」

依「そうだよ!!私も最近守備が調子いいんだ」

樹「・・・」

千(控えの選手も今のままじゃいけないと感じられてるな...たしかにうちはレギュラーが固定されてきてる。でも、決して選手層が厚いわけじゃない。チームの底上げにはそういった力を上げることも大切だ)


 練習が終わり、ダウンが終わると浩一が選手を整列させ、あることを告げた。


浩「よーし、昨日で埼玉県大会も終わり、目標に対する俺たちの現在地も分かったはずだ。上には上がいる。下にも下がいる。下ばかり見てたら上に離されていくことに気づかない。上ばかり見てたら下から這い上がってくる者に気づかない。上も下も両方見ることが大事だ。だから夏海高校初の夏合宿をやろうと思う!!」

忍「おおーー!合宿!!」

ル「Wow!ステキ!!」

と「うちの野球部もやっとそんなことが出来るようになったのね」

大・琴「テンション上がってくるーーー!!!」

渚「当てはあるんですか?」

浩「ああ。お前ら知ってるか?女子校の野球部は夏海だけじゃないって」

葵「他にも野球部のある女子校があるのですか?」

浩「ああ。まずは北海道の白雪学園だ。その土地柄、雪で練習できない時期も長いがその分走りこんで鍛えた足腰が武器だ。ちなみに白雪学園の陸上部は全国トップクラスだぞ。そして、広島の鯉ヶ窪高校だ。県立高だが野球が好きな女の子たちが広島のいたる所から集っている。去年から大会に出ていて、今年の夏の大会はベスト8に入った実績がある」

晶「ベスト8!十分な強豪校じゃないですか!!」

瑞「そこと合同合宿を行うということですか?」

浩「そうだ。もう監督同士了承はし合っている。今回は少しでも暑さを回避するため北海道で合宿を行うつもりだ。あとはみんなの意思しだいだ!どうだ?やるか!!」

「「はい!もちろんです!!」」

浩「よし!じゃあ8月の20日から25日を予定している。それまでに鍛え上げるぞ!!」

「「はい!!!」」


彼女たちはまた新たな目標に向かって走り始めた。しかし、合宿で思わぬ夏海高校の弱点を知ることになるとは彼女たちはまだ知る由もない...

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