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土化粧   作者: 安芸 航
19/28

決勝戦

 打席に立つのは埼玉共栄のキャプテン小平雅人。マウンドに立つのは浦野学園のエース大平健。お互い負けられない戦いの第2ラウンドが始まる。

 初球は外に直球が外れる。2球目はインコースにシュートが決まる。カウント1-1から3球目。またしてもインコースのシュート。キレのある球が雅人の肩に当たる。


「おいおい。またかよ」

「わざとじゃないよな」

「勝負しろー!!」


 スタンドはざわめき始め、不穏な空気が漂う。


純・琴「あのヤロー!!」

純・琴「・・・」

忍「やっぱり双子ちゃんね」

千「徹底的なインコース攻め」

渚「荒手の敬遠って感じね」


 先ほどよりも当たり所がよかったのか、あまり痛がるそぶりもなく駆け足で一塁ベースに向かう。そして、4番中谷に対する初球。一塁ランナーの雅人がスタートを切る。すると、秋山の強肩が火を吹く。


審「アウトォーー!!」

「ああーもったいねー大事な先頭ランナーが…」

「なんで初球からスチール?」

浩(どうした豊。二回当てられて自我を失ったか!!)


 結果、中谷はインコースのカットボールに手が出ずに三振に倒れた。


光「やっぱり小平さんへのデッドボールが他の選手にも影響を与えてる」

千「インコースに全然対応できてない」

琴「きたない。そんなことして勝って嬉しいの!」


 結局、埼玉共栄の攻撃は3人で終わってしまった。5回の表浦野学園の攻撃。4番の秋山からの攻撃。初球のストレートが決まりワンストライク。そして、2球目低めに決まったカーブを華麗にすくってセンターの前へ運ぶ。


「「おおー!!」」

「上手くセンター前に」


 浦野学園の初めてのランナーはゲームの均衡を左右する大事な先頭バッターだった。そして、5番の大平がバッターボックスに入る。初球はインコース厳しめのコースでワンボール。2球目は外にカーブが決まる。3球目は外から入ってくるスライダー。三塁線に転がってファール。


光「内外外とくれば次は...」

千「私ならインコース低めに真っ直ぐ」


 キャッチャーの中谷もインコースに構える。そして勝負の4球目。千尋の予想通りインコース低めのストレート。大平は詰まらされながらも一二塁間に運ぶ。セカンドの前川が回り込んで抑える。


雅「前川二つ!!」


 雅人のかけ声に前川は身体を反転させてセカンドに送球する。一塁走者の秋山をセカンドで刺す。一塁に大平が残る。


啓「ナイスプレー前川!!」

豊(よくセカンド投げてくれたぜ)

ア「6番ファースト井場君」


 啓太は一塁の大平に2球牽制球を入れる。そして、初球のストレート。中谷が捕るや間髪入れずに一塁に牽制球を投げる。


審「セーフ!!」

光「ピッチャーへの執拗な牽制。あまり褒められたもんじゃないけど...」

千「まあ、二つやってるからね。同情の余地無し」

純「疲れ果てて倒れてしまえばいいのよ」


 執拗な牽制はここで収まった。そして、結局この回は6番7番を打ち取って5回の攻撃を凌いだ。


雅「ナイスピッチ啓太」

井「お疲れ様です。今日は絶好調ですね!!」

啓「決勝戦だぜ。当たり前だろー。こないだは隆利にいいピッチング見せられてバチバチ刺激受けたんだからな」

雅「啓太...勝ちたいな。ガキの頃から甲子園行こうって言ってたもんな」

啓「勝つさ...俺たちサイキョーだからな」

豊「その通りだ。啓太がここまでがんばってるんだぜ。お前らさっさと点取って啓太を楽にしてやんな!!」

「「はい!!」」

豊「そのためにはインコースだ...やっぱり怖いよな...」

「「・・・」」

豊「そりゃー人間なんだから怖いのは当然だろ。硬球なんて当たったらスゲーイテーもんな。だったら、いっそベースから離れて立ってインコース狙え」

中「そんなことしたら外ばっか攻められますよ」

豊「たしかにな...だがいいか?あのピッチャーの武器はインコースだ。いわばこの作戦はインコースという武器を取っちまう訳だ。相手もいつもの調子では投げてこれーねーはずだ...」

啓「なるほど。たしかに...」

豊「ただ...間違ってたら...すまん」


 豊は思いきって選手に頭を下げた。


雅「監督がここまでしてくれたんだ。絶対先制しようぜ!!」

「「おおーー!!」」


 5回の裏。この回先頭は6番の北川から始まる。監督の言ったとおりバッターボックスではホームベースから離れた位置に立つ。


健(なんだ。デッドボールにびびってベースから離れて立つのか。この回は楽させてもらえそうだぜ)

享(意外と投げにくいぞ。インコースに投げたら真ん中に投げるも同然だ。外にしか投げれなくなる!!)


 しかし、大平を外だけの配球で北川を力でねじ伏せる。埼玉共栄ベンチは少し重たい空気が流れた。


豊(やっぱり力のある球が外に来たら捉えきれないよな...)


 次の中村も抑えられてしまう。しかし、フルカウントまで投げさせられた。そして、8番田口は必死に食らいつき9球目。


審「ボールフォア」

「よっしゃーナイス視線」

豊「頼んだぞ。初球だ。啓太!」

啓「はい!!」


 その初球。ストレートが少しあまく入った。啓太は完璧に捉える。打球は快音を残しセンターの頭上を襲う。センターの平井は全力の背走。そして、左手のグラブを必死に出し、ボールを掴み取った。


「ナイスキャッチ!!」

「スゲー!超ファインプレーだ!!」


 浦野学園の選手、スタンドが盛り上がる。


雅「ナイスバッティング!惜しかったな。次の回の俺たちに任せろ」

中「着実に監督の作戦の効果が出てきてるな!!」

豊「さあ!この回抑えて次の回いい流れで攻撃しようぜ。いけるな?啓太!!」

啓「もちろんです」


 宣言通り啓太は6回表の浦野学園の攻撃をわずか13球で退けた。そして、6回の裏。埼玉共栄の攻撃は1番の前川から始まる。バントの構えを見せたりして相手を揺さぶる。そして、フルカウントからの7球目。外にズバッと決まる。


審「ストライクバッターアウト!!」

前(くっ!!)

雅「今のコースは仕方ねーさ。だが、バットは振ろうな」


 続く2番バッターも打ち取られる。そして...


ア「3番ショート小平君」


 雅人と大平の3回目の勝負。雅人はホームベースに近づいて立った。


井「監督の作戦は!!」

豊「いいんだ。ここからはあいつらに任せた」

健(へー...2回も当たってんのに...まだ恐怖が足りないみたいだな)


 初球はインコースにシュート。雅人は思いっきり身体を回転させてボールを引っぱたく。痛烈な打球は一塁線の外側ファールボール。2球目はインコースのシュートが少し中に入ってきた。完璧に捉えた当たりはライトポール際へ。


審「ファール」

「おしいーー」

「完全にいったと思ったけどな」

享(危ない危ない...やっぱりインコースはあまく入るとこれがあるからな。この人には十分インコースを意識づけられ。後は外で...)


 1球外に外して4球目。外のカットボール。秋山が構えたところにしっかり来た。雅人は足をホームベースへしっかり踏み込み外の球にバットを合わせた。地を這うような速い打球はあっという間に三遊間を抜けていった。ツーアウトから雅人が塁に出る。


ア「4番キャッチャー中谷君」

中(ここまでノーヒット...インコースにびびりまくって雅人を歩かされて...)


 初球は外にカットボールが決まる。2球目は外に逃げていくシュートを打たされてファール。追い込まれて3球目。最後はインコースのカットボール。しかし、少しあまく入って真ん中に入る。カキーン。打球はピッチャーの頭上を越えセンター前へ。


雅「ナイスバッティング!!」


 中谷は握り拳を雅人に向けた。そして、5番の石渡が初球のインコース。決してあまいコースではなかったが、肘を折りたたんでレフトの前に運んだ。2塁ランナーの雅人は快足を飛ばしてホームへ帰ってくる。レフトからのバックホームはサードの中継で止まった。埼玉共栄に大望の先制点が入った。 埼1-0浦


琴「やったーー!!先制した!!」

純「お兄ちゃん...よかったね...」


 ケンカ中の双子は今までのケンカを忘れてハイタッチを交わしていた。それを忍はニヤニヤ眺めていた。


「やっと試合が動いたな」

「これで面白くなってくるんじゃないか」

千「この先制点は非常に大きい...啓太さんの調子も良さそうだしこのままいけるか...」

渚「こうなってくると次の1点が決め手になるわね」

光「次の回浦野も上位打線からだしまだまだ試合は分からないよ」


 光の言うとおり次の浦野学園の攻撃は2番からの好打順だった。先頭の元田に対して、3級連続ボール。嫌な予感が漂ったがその後2球で追い込みショートゴロに打ち取った。


ア「3番レフト若林君」

若(このチームは2年生の大平と秋山が中心のチーム...あいつらがいなければここまで勝てなかったかも知れない...だがな...3年だって意地があるんだ)


 カキーン。啓太の3球目を捉えてセンター前へ運ぶ。そして、続くバッターは。


ア「4番キャッチャー秋山君」

享(受け取りましたよ。3年の意地!!)


 ここまで2打数1安打。啓太の初球はストレート。力が入ったのか高めに浮いた。2球目は外にカーブが決まる。3球目は外を狙ったスライダーが少しあまく入った。華麗に流した当たりはレフト線に落ちる。


審「ファール」

「これまた惜しい!!」

「おおー!さっきの小平みたいだな」

千「外外ときてるから次はインコース...」

光「たしかにそれが定石だね。ただ啓太さんも100球近く投げてるからね。インコースはあまく入ると大けがしちゃうからね...インコースに投げるならよほどの覚悟と注意が必要だね」


 キャッチャーの中谷はインコースに構える。啓太の勝負球はほんの少し中に入ってきた。秋山はそれを見逃さなかった。

 打った瞬間だった。ライトの田口は一歩も動くことは出来なかった。秋山の一振は逆転のツーランホームランとなった。 埼1―2浦


純「まさか、こんなことになるなんて...」

琴「こんなにあっさり...」


 結局7回裏の埼玉共栄の攻撃は3人で終わった。しかし8回の表の攻撃を啓太が3人で抑えた。そして、8回の裏の埼玉共栄の攻撃は1番からの好打順。


光「小平さんに回るこの回。小平さんの前にランナーをおけるか」

千(前川...あの時の...)


 千尋は埼玉共栄との試合前に馬鹿にされたことを思い出していた。そして先頭の前川がバッターボックスに立つ。ワンボールツーストライクからの3球目の外角の球を打つ。打球はボテボテだったがそれが幸いした。ショートの前に転がる。ショートは前に出てきてランニングスローでファーストに送る。前川の必死のヘッドスライディング。


審「セーフ!!」

「先頭出た!!」

雅「よく走った!!」


 2番の大島がしっかり送る。ワンアウトで得点圏にランナーを置き雅人がバッターボックスに入る。そして、ここで名将小野田大五郎が動き出す。


千「ここは歩かせて塁を埋めるかな」

光「どうだろう。4番の前にランナーためるのは嫌だろうし、5番は今日2安打してるし」


 小野田大五郎は伝令に川瀬を送った。3年のサード奥が川瀬に声をかける。


奥「監督は何だって?」

川「監督は勝負だって。外野は前進しなくていい。健...小平からは絶対に逃げるなだって!!」

健「・・・分かってますよ。逃げる訳ないじゃないですか」

奥「相変わらずのビッグマウスが聞けて安心したよ」

享「外を意識させて勝負はインコースだ。当てんなよ...」

健「分かってる!!」

川「さあ!あとは頼んだよ」


 大平がセットポジションから外にストレートを投じる。初球はストライク。2球目は外にカットボール。雅人のバットは空を切る。2球で追い込んだ。


享(よし追い込んだ。あとは緩急が使えればな...)


 3球目は外から入ってくるシュート。秋山が構えたところにずばりと決まる。


享(ナイスボールだ!健!!)

健(よし!決まった!!)

審「ボール」

雅「ふぅ~~...」

千「今のは声で三振とれたな」

渚「お前にしか出来ない芸当だよ」

享(切り替えろ健。最後はここだ!!)


 秋山はインハイに構える。大平の気持ちのこもった球が秋山のミットに吸い込まれる。雅人のフルスイングが空を切った。


審「ストライクバッターアウト!!」

「おおーーー!!!」

琴「兄さんが三振...」

純「ウソでしょ...」

忍「今のは気持ちのこもった球だったな...」


 埼玉共栄に今日一の絶望感が漂う。


井「まだです。中谷先輩!!」


 中谷は2球目を捉える。痛烈な当たりが三塁線を襲う。


井「やった!!」

雅「抜けろー!!」


 パシッ!!サードの奥が横っ飛びでボールを掴む。


審「アウト!!」

若「ナイスキャッチ!!おくーー!!」

「スーパープレイだぞ!!」

「スゲー!!!」


 浦野学園はスタンド、ベンチ共にものすごい盛り上がりを見せていた。対する埼玉共栄のベンチは静まりかえっていた。そして、その空気のまま埼玉共栄はフォアボールとエラーで出したランナーを秋山のこの日3打点目となる犠牲フライで、3点目を失ってしまった。

埼1―3浦


千「もったいないな...完全に切り替えられてない」

浩「ここに来て大きな1点が入ってしまったな」


 5番大平を三振に切って取り、最終回の攻撃を迎える。


光「1点は失ってしまったけど5番大平は4打数ノーヒット。悪い打者じゃないんだけど、ここはさすがだな。ただ、秋山にはやられすぎてしまった...」


 そして、最終回の攻撃。スタンドは埼玉共栄の選手に大きな声援をかける。しかし、それに負けないほど大声援が浦野学園にもかけられる。そして、先頭の石渡がインコースを捉える。三塁線の当たり。またしても奥が飛びつく。しかし、今度は抜けていく。先頭バッターがツーベースで出る。


井「ナイスバッティング!!」

雅「よっしゃーいけるぞ!!」

中「まだまだ諦めないぞ!!」

渚「あの5番...今日3安打」

千「私たちとの試合の時はことごとくチャンスをつぶしてるイメージあったけど...」

光「今日はこの人だけが合ってるイメージ。インコースの捌き方がすごく上手い。典型的なプルヒッターなのかも」


 埼玉共栄の応援はまた一段と盛り上がりを見せる。しかし、それを黙らせんとばかりに大平が6番7番を三振に抑える。そして、8番田口の当たりはセンターへ。またしてもセンターの平井が背走して走りながらボールを掴んだ。

 球場が大歓声に包まれた。浦野学園が埼玉県大会を制覇し、甲子園行きを決めた。

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