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土化粧   作者: 安芸 航
16/28

姉妹喧嘩

 試合に負けたのだから当然だが雰囲気は悪かった。しかし、双子の雰囲気は特に悪かった。試合終了後ベンチで真純が漏らした一言が。


純「最後うちにはいい代打がいなかった。敗因は選手層のちがいね」


 この発言に選手の中で唯一涙を流していた真琴が感情を爆発させた。持っていた道具を投げ捨てて真純に殴りかかった。みんなは双子のケンカを止めるため片付けを中断させなくてはいけなかった。二人のケンカが収まった頃にはすでに次の試合を行うチームがベンチに到着していた。


浩「早くベンチを空けろ。次のチームに迷惑がかかる」

「「はい」」


2年生は双子の引きはがし、1年生は野球道具を持って球場を後にした。球場を出ると浩一を含め輪になって座っていた。真純と真琴は離れたところに座っている。


浩「まずはおつかれ。まあ結果は残念だったが初めて大会に参加してみて得るものは多かったんじゃないかな。なんにせよ前の2試合は勝ったわけだしな。負けたときに言うからなんだけど今回、お前たちは歴史に名を残したんだぞ。今回の負けを次に生かせ。恥じるな前を向け」

「「はい!!」」

浩「今日は解散!明日また反省会を行う。以上!」


 選手たちは各自着替えを終わらして、帰路についた。帰る前にともみは埼玉共栄のとある選手に出会った。


と「あら、あなた...」

井「こんちは」

と「埼玉共栄のピッチャーの人...」

井「井本隆利です。今日はありがとうございました」

と「ありがとうございました。夏海高校の西沢ともみです。今日は...その...ナイスピッチングでした。完敗です」

井「いえいえ、最後は打ち込まれましたし...ともみさんこそナイスピッチングでした」

と「と、ともみ???」

井「す、すいません。いきなり名前で...」

と「いえ、ともみで大丈夫です。少し驚いてしまって。それより...中盤から投げていたあのムービングボール。見事です。あれは意図して投げてるボールですよね」

井「ええ、まあ、はい。一応握りを変えて投げています」

と「握り???そんなこと簡単に教えていいの?」

井「別に大丈夫ですよ。よろしければ教えましょうか」

と「いいんですか。私たち敵同士なのに...なんか怪しい...」

井「嫌だなぁー。ちゃんと教えますよ。でも、覚えといてください。投げられるってことはその弱点も分かってるってことを」

と「なるほど」

井「それでも知りたいですか?」

と「はい!お願いします!!」

井「うん!よろしくね」

と「こっちも何か教えようか?」

井「そしたら...カーブを。曲がる球を持ってないので」

と「うん!わかった!連絡先交換しよっか」

井「はい!では大会が終わった後に」

と「そうだよね。そっちはまだ試合残ってるもんね。がんばって甲子園行きなよ!!」

井「うん!ありがとう!!」


 千尋はスタンドからある人物が出てくるのを待っていた。


光「お疲れ様。さっそくやる?今日はもう疲れてるから明日にするかい?」

千「ううん。大丈夫。さっそくやろう。記憶が鮮明なうちに」

光「オッケー。まず、今大会で気になったのはストレートの被打率が高いこと。ともみの球はお世辞にも速いと言えないし、勝負所で高めに入ることも多い。今日も最後雅人さんへの初球。あんなの打ってくださいって言ってるようなもんだよ」

千「・・・」

光「そしてなんと言っても今日の一番の反省点は先頭への四球!もともと、先頭バッターへのフォアボールは点に絡まりやすい。今日は出したランナー全部返されてるからね」

千「たしかに、今日のともみは粘られるとコントロールが効かなくなるときがあった」

光「そう...正直今日の敗戦はキャッチャーの君の責任は少ない。守備の乱れやピッチャーのフォアボールはキャッチャーにはどうしようもない。でも、千尋はキャッチャーであると同時にキャプテンだから...高みをを目指すならその覚悟と責任をってね」

千「分かってるわ。キャプテンならピッチャーへの声かけ、守備位置やミスした後のフォローはやるべきだった」

光「でも、今日はそれが出来なかった」

千「それだけあがっていた?」

光「うん。はっきり言っていつもの余裕がなかった。周りも見えてなかった」

千「はぁ~~~。自分では平常心のつもりでも周りからはそんな風に見えてたのね」

光「無理もないよ。初めての公式戦、しかも、世間からの注目度も高かった。緊張するなって方が無茶だ。でもね、君たち全員にまだ1年という時間が残されてるんだよ」


 千尋は少しうつむき考えた後、前を向いた。


千「私やるよ!やってやんよ!!キャプテンも扇の要も!」

光「うんうん!その意気だよ」

千「光もありがとね」

光「いえいえ。僕の青春は君たちが甲子園に行くことに協力することって決めたからね。半分は僕のためさ。そして、その甲子園行きの可能性をあげるために必要なカギはあの二遊間の双子だ。試合後派手にやり合ったらしいね」

千「彼女たちも精一杯だったんだ。なんとか私たちの足を引っ張らないようにって野球を心から楽しんでなかったわ」

光「彼女たちは君たちと違い半年前まで中学生だからね。それこそ経験しかないよ。まあ、まずは仲直りからだけどね」

千「そうね。やることは山積みね」

光「がんばれ!キャプテン!!」


 真純と真琴のケンカを最後まで仲裁していたのは忍だった。


忍「まあ、ケンカすることは悪いことじゃないよ。むしろ、いいことだよ。ぶつかり合わなきゃ分からないこともある」

真純・真琴「・・・」

忍「でも、兄貴の前でその態度出すんじゃねーぞ。あっちはこっちと違って次があんだからな」


 普段、あまり見せない忍の低い声に二人は言葉が出なかった。

 浩一が家に着いたとき、千尋はお風呂に入っていた。


麻「あら、ただいま」

浩「おかえり」

麻「今日は残念だったわね~。スタンドで応援してたのよ」

浩「知ってたさ。てか、俺たちの試合は全部見に来てるだろ」

麻「へぇ~気づいてたの。さすがね」

浩「気づくさ。あんなに大きな声出してたら」

麻「そんなに大きな声だしてないわよ」

浩「ははは」

麻「試合終わった後。小平さん?だっけ?あの双子ちゃん。ケンカ大丈夫だったの」

浩「ああ、まだ解決はしてねーよ。たぶん」

麻「たぶん?原因は何なの?どっちが悪いとか聞いてないの?」

浩「ありゃチーム同士ってか姉妹同士のケンカだからな。俺が介入するのはどうかと思ってな。それにケンカなんてもんはどっちも正しくて、どっちも間違ってる」

麻「じゃあ、千尋に任せるってこと?」

浩「千尋だけじゃ無理だろうな」

麻「そうかしら。周りからも頼られてるわよ。あの子大人びてるし」

浩「大人びた子供がどれだけ弱いかを俺は知っている。周りが千尋に協力して解決する。そうしないと、真の解決にはならないさ。まあ俺も影ながら協力するけどな」


 夏海高校はまたいつもの日常を取り戻していた。そして、その頃、埼玉共栄高校は勝利を重ね決勝へと駒を進めていた。

次話投稿は1月26日の予定です。

よろしくお願いいたします。

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