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土化粧   作者: 安芸 航
14/28

決着

 8回の裏、2番から始まる好打順。ともみはいきなり先頭をフォアボール出してしまった。

続く雅人への初球、埼玉共栄がとった攻撃はエンドランだった。


晶「ランナースタート!」

千 (あまいっ)


 カキーン。打球は右中間を転々と転がる。5-1。最終回を目の前に点差がさらに広がった。4番中谷はセカンドゴロ。ランナーが3塁に進まれるも5番6番を打ち取った。


浩「9回で4点差。かなり厳しいな」

「「・・・」」

浩「今日の試合でたくさんの課題が見つかったな。やはり、強敵との試合はいい。だが、これで満足するなよ。俺たちは勝ちに来たんだ。審判がゲームセット言うまで必死に食らいつけ!!」

「「はい」」


 夏海高校もこの回は打順よく2番からの攻撃。千尋がバッターボックスに入る。


千(クソ~。今日はキャッチャーとしてもキャプテンとしてもダメダメだぞ。悔しいけど監督の言うとおりだ。最後ぐらいやってやンよー!!)

千「よっしゃーこーい!!」


 初球はチェンジアップから入る。


千 (く~やっぱり邪魔な球だなー)


 2球目はストレートで追い込まれる。3球目は高めに外れてボール。


千(ここまでムービングは無しか...たった2球種だけでここまで抑えられるとは。よーし。キャッチャーらしく読み打ちでもしますか。外角にチェンジアップ。内角に直球来たらごめん!!)


 井本の勝負球は千尋の読み通り外角低めのチェンジアップだった。ボール気味だったがバットを投げ出すように得意の右打ちでライト前へ運ぶ。


忍「千尋ーナイスバッティング!!」


 夏海高校のスタンドから歓声が上がる。


「いいぞ~キャプテン」

「この回逆転してー」

「渚ちゃん~続いて~」


 スタンドの黄色い声援を背に渚がバッターボックスに入る。その初球。チェンジアップを豪快に振り抜いた当たりはライトのポール際に飛び込む大ファール。


「「おおーー!おしい」」

千(いや、今のは打たされた...)

中(よし、ストライク取れた)


 2球目の球は内角のカットボール。完全に詰まらされた当たりはボテボテのセカンドゴロ。前川はセカンドに送球する。


千 (ゲッツーとらせるか)


 千尋のスライディングとボテボテが幸いして一塁はなんとかセーフ。ワンアウト一塁で4番の千晶を迎える。


晶 (ここまでノーヒット。チャンスもことごとくつぶしてきた。こんなのは4番とは認めてもらえない!)

晶「こーい!!」


 千晶には珍しい大きな声。気合いは十分に入っている。そして2球目。カキーン。快音を響かせた当たりは高々と上がる。そして、センターの前にポトリと落ちた。


千「おおーラッキー!!」

琴「千晶さん渋いっす!」

晶 (全然4番の当たりじゃないけど、今は形より結果)


ワンアウト一、二塁でルナがバッターボックスに入る。


千「なんか今日のあいつ気持ち悪いぐらい静かじゃない?」

と「そうかな。気合い入ってるだけじゃない」


 初球のチェンジアップに泳がされる。


ル(これが日本のベースボール。バント、スチール、エンドラン。どれもちまちましてて好きじゃない。でも、かっこいい。すごく楽しい。ベースボールにはまだまだ無限の可能性があるって気づかされたわ。アメリカもおちおちしてられないわね)


 2球目のシンカーを叩いて、レフト前。ワンアウト満塁。


中(また2球目を打たれた。リードが単調すぎるか)


 満塁になったところで東本監督が鈴木に声をかける。


東「おい、準備しておけ。出番があるかもしれねぇぜ」

鈴「はい!おい梨田、付き合ってくれ」

梨「はい!」

ア「6番ライト山田忍さん」


 忍は大きな声で挨拶。そして、バットを構えて大きな声で。


忍「こぉーい!!!」

と「相変わらず大きな声」

千「ほんと。でもその声に今日どれだけ引っ張られてきたことか」


 初球のシンカーを打ってファール。2球目は低めにチェンジアップが外れてボール。3球目は外角のきわどい球を見送る。


渚(あんなに見ていくタイプだったっけ。手が出ないだけ?)

中(嫌な見送り方されてるな。満塁だし次は入れておくか)


 4球目甘めに来たストレートを叩く。下にたたきつけられた打球はワンバウンドで井本の頭上を越えていく。


中「ゲッツーとれるぞ」


 しかし、打球は雅人と前川の間を抜けていく。


琴「よっしゃーセンター前!!」

千「回れ回れー。千晶帰ってこーい」


 三塁コーチャーの瑞樹もぐるぐる腕を回す。千晶も懸命に走った。しかし、センターからはワンバウンドで矢のような送球がホームに返ってきた。


審「アウトォーー!!」

「おおースゲー肩だったぞ」

「てか、夏海高校もったいねー」


 1点は追加し、5-2としたが、ツーアウト一塁二塁。いよいよ追い込まれる。ここで、

埼玉共栄はタイムをとり、野手陣がマウンドに集まる。


中「さぁあと一つだ。1点とられたけど、まだ、3点あるんだ。楽に行こう」

雅「そうそう、啓太だって投球練習始めてるしな。まぁ最悪追いつかれても、俺たちが点とってやるさ」

井「縁起でもないこと言わないでくださいよ~」

「「ははははは!」」

雅「隆利!ここまで来たら監督は最後までお前に託すはずだ!!お前にはこんなにも頼れる先輩達がついてるんだぞ!羨ましいな~」


雅人は冗談っぽく言うが、井本は真剣な表情で話し始める。

井「僕がこうして思いっきり投げていられるのは先輩達がいてくれたからです。ほんとに頼もしいし、感謝しています。だから、僕は一日でも多く先輩達と野球がしたい!!だから、勝ちますよ。今日も明日も!!この先もずっと!!」

中「おおっ言うようなったねー。じゃあ、井本君に甲子園連れってもらうとするか!」

「「おおーー!」」

雅(ほんと頼もしくなったね~。入部当初は弱気で目立とうともせず。正直、こうやって夏の大会で投げてる姿なんて想像も出来なかったよ。投手としての取り柄も他のピッチャーと比べても弱い。他のピッチャーより優れている点は努力だけ。まあ、その取り柄が最も重要なことかもしれねーんだけどな。こりゃ、俺たちがいなくなっても将来安泰ですわ。真純達苦しむだろうな~。いかんいかん)


「よーし。あと一つだぞ~」

「負けるな~夏海高校~」



 スタンドからは両チームへの声援が飛び交い、異様な雰囲気を醸し出していた。一発が出れば同点だ。まだまだ希望を捨てるには早い。7番の真純がバッターボックスに立つ。


葵「まだまだ諦めるなよ-」

千「つないでくれー」


 井本が振りかぶった瞬間、真純はバットを横にして打球をサードに転がした。サードも意表を突かれたがそれでも精一杯ファーストに送球する。真純は頭から滑り込む。


審「セーフ!!!」

「おおーー!!9回ツーアウトからセーフティーバント」

「勇気ある~」


依「ナイスヘッドスライディング!!」

純「危ない危ない。いいとこ転がってくれて良かったわ」

千「さぁ真琴も一本!!」

渚(お願い。つないで)

中「ドンマイだ。切り替えていこう」

雅「今のはしょうがない。相手が上手かった」

井「はい!」


 いつもはうるさい真琴が大人しく足元をならしている。静かにバットを構え、井本をにらめつける。


渚「すごい気合い入ってるわね」

千「空回りしなきゃいいんだけど」


 初球の球は真ん中。


井 (やばっあまい)

審「ストライーク」

千「おいおい。今の打たんでなに打つの」


 2球目のチェンジアップはワンバウンド。しかし、真琴のバットは止まらなかった。


審「ストライクツー」

中「ナイスボー」

中(よし、追い込んだ。このバッターえらく緊張してるな。まあ1年がこの場面じゃ無理もないか。雅人の妹だから、演技ってことも考えられなくもないが…)


 中谷は中腰になり、釣り玉を要求する。井本も頷く。


千「おい!真琴、タイムとって打席外せ-」

渚「ダメっ聞こえてない」

純「真琴!しっかりしなさい!!」


 叫びも虚しく。井本は要求通り高めの釣り玉を投げる。キーン。真琴のぎこちないスイングから放たれた打球はサードのほぼ定位置。


審「アウト!!せーれつ!!!」


 両軍が並び始める。真琴はまだバットを持ったまま動けずにいる。


純「アンタッ!なにやってんの!!」


 姉のかけ声で我に返った真琴はそのまま崩れ落ちた。


審「5対2。埼玉共栄高校。ゲームセット!!」

「「ありがとうございましたっ」」


 夏海高校。初の夏の大会。3回戦敗退!!

次回の投稿は1月4日を予定しております。

皆さん良いお年をお過ごしください。

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