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土化粧   作者: 安芸 航
12/28

打てない投手

ア「1番セカンド前川君」


 アナウンスがかかり、埼玉共栄の選手が左打席に立つ、よく見ると試合前に煽ってきた二人組の一人だった。


前「先ほどはどーもすいませんでした」


 打席の中で杉山は千尋に声をかけてきたが千尋はそれを無視した。負けず嫌いの千尋はこの試合こいつにだけは打たせたくなかった。初球はスローカーブを外角に外す。


千(ストライクからボールになる球。要求したとおりの完璧なコントロールね。次はカウント取りに行きますか)


 ともみの2球目は外角低めのフォークだった。前川は低めのボールを泳ぎながら空振りした。


千(ってバッターも考えるよね。次は何投げよっかなー)


 続く3球目はスローカーブ。今度は内角のボール球からストライクになる球。カウントは1-2で追い込んでいる。勝負の4球目。


千「はいたっぁーーー!!!」

審「ストライク!バッターアウト」

前「えっうそっ」

晶「ピッチャーナイスピッチ!」

千「ナイスボール」


 外角いっぱいに構えたミットに寸分違わずともみのストレートが吸い込まれていった。


雅「今のは声にやられたな」

前「さすがに遠すぎますよ。まあコントロールは完璧に近いのは事実ですけどね」

雅「オッケーオッケー」


 続く2番バッターは2球目のシュートを打たされてセカンドゴロ。そしてツーアウトランナーなしから大きな歓声と共に小平雅人がゆっくりと左打席に入る。


ア「3番ショート小平雅人君」

純「なんで同じ名字の人、あっちのチームにいないのにコールがフルネームなの」

琴「私達と一緒がいいんでしょ」


 打席で砂をならしている雅人に千尋が声をかけた。


千「さっきはあんなこと言ってたくせにそっちはエース先発じゃないんですね」

雅「うちの井本なめんなよ。どうせそっちは啓太対策してきたんでしょ」

千「その王者のプライドぶっつぶしてやる」

雅「フフフ。俺たちは王者なんかじゃないよ。それぐらい分かってんでしょうが」

審「しゃべってないで早く構えて」

雅「はーい」


 千尋が要求した初球は真ん中のストレート。これには雅人もびっくりした様子で見送った。


雅(さっきから全然球種が読めない。狙い球が絞れないよ~)


 続く2球目はインコースの球。体を上手く回転させてバット出した。快音を残した打球はポールのはるか上を越えて場外へ消えていった。観客が一度静まりかえり、おお~と言う歓声があがった。


審「ファール!!」

雅(シュートかけられたか。憎いリードするね~。さて次は1球遊んでくるかな)


 千尋は大きく外に構えた。ともみの投げた球は外から内へ大きく変化して千尋のミットに入ってくる。


千「はいたっぁーーー!!!」

審「ストライク!バッターアウト!!」


 審判の腕が上がった瞬間、スタンドからは大きな歓声が上がった。


雅(おいおい、さすがに広過ぎんでしょ...最後のはスクリュー...大きい変化だったな)


 ともみに声をかけながら夏海高校ナインがベンチに帰ってくる。


忍「ナイスピッチ」

渚「千尋...あんたで声アウト二つとったわね」

千「とれるものはとるに限るでしょ」

と「私達...埼玉共栄にも通用してる...」

千「...まだ1回が終わっただけだよ。さあこの回も点とってきましょう!」

「「おおーー!」」


 しかし、先頭のルナは初球を打ってボテボテのピッチャーゴロ。


千「あんた大きいの狙いすぎ」

ル「うっさいわね。でも...」


 そうこうしてる間に忍も真純も凡退していた。


渚「この回何球投げさせた?」

樹「えっと...6球です」

千「打ち頃に見せて少し外されてるのか。いや、もう切り替えよう、この回も守っていくぞ!」

「「おおーー!」」


 2回の守備はともみが相手に対抗するかのように8球で攻撃を終わらせた。


忍「ナイスピッチング」

千「さて、試合時間短縮は大事だけど、この回はあまり早打ちしすぎないように」

琴「はい!」


 真琴は1球目2球目をバントの構えで見送る。しかし、井本は淡々と2球で追い込んでくる。


井(俺は啓太さんみたいにすごい球が投げられるわけじゃないからやることが限られてる。頼れる先輩方のバックを信じて、キャッチャ-めがけて思いっきり投げる!)

審「ストライク!バッターアウト」


 外角いっぱいの球は判定ストライク。


渚「アンタのせいでストライクゾーン広くなってんじゃないの」

千「ハハハ...まさか」


 ともみも三振に倒れ、1番の葵に回ってくる。葵は初球を打つもいい当たりのセカンドライナーに終わった。


千「さあ次の回も締まっていくよ!」

「「おおーー!」」


 3回裏の攻撃もともみは3人で終わらせた。4回表の夏海高校の攻撃は千尋から始まる。


千(さーて好打順だしそろそろ点とりますか)


 初球はストライク。外角低めにストレートが決まる。


千(球速はそれほどない。コントロールはいいけど狙いを絞れば打てないピッチャーじゃない)


 2球目は外角高め。千尋は手を出してしまいファール。


千(く~ボール球。あまりにも打ち頃すぎて思わず手を出しちゃう。それにしても変化球とか本当にないのか...)


 3球目のインコース低めがズバッと決まる。


審「ストライク!バッターアウト」

千(対角線...クソッ)

渚「なんで見逃したの?手がでなかった?」

千「すまん」

渚「・・・」


 渚に対する初球はボール。渚に対して井本は徹底的にくさいところをついていく。


審「ボールフォア」


 久しぶりのランナーが1塁に出る。そして続く4番の千晶は初球の力のない球を打つ。地を這うような強烈な打球はサードの正面に転がる。サードからセカンドに転送、セカンドがファーストに送球した。


審「アウト!」


 千晶はゲッツーに倒れた。


晶「ゴメン...」

忍「気にすんな!次は頼むぜぇ」

晶「うん...」

千「この回1番からだから慎重にね」

と「うん」


 埼玉共栄のベンチの前では円陣が組まれている。その円の中心には監督の東本豊がどっしりと構えている。あごひげが特徴的で帽子を深く被っている。年齢は浩一とあまり変わらない。


東「ここまで、あのクールな嬢ちゃんに完璧に抑え込まれちまってるなぁ。あの野郎の娘もなかなか面白いリードするじゃねえか」

雅「あの野郎?監督は相手の監督とお知り合いなのですか?」

東「まぁなぁ~。大学時代サークルで一緒に野球やっててな。あの野郎女子校の先公なんかやりやがって...まぁそんなことはどうでもいいんだ。あのバッテリー打ち崩すのは簡単じゃねえ。だが、球自体は打てなくはない。基本的だがギリギリまで呼び込んで、反対方向に追っつける!」

「「はい!!」」

東「おい雅人。タイプは全然チゲーけど左のサイドスロー。わかってんな???」

雅「はい」


 先頭の前川が打席に入る。初球のフォークを捉えた当たりはともみの左を抜けてセカンドの右を襲う。


「よっしゃーナイスバッティング」


 しかし、真琴がグラブで弾く。弾かれた球を真純がカバーしファーストへ送球する。


審「アウト!」

「オオーすげー」

「今の狙ってトスしたの?ほとんどグラブでボールつかんでないじゃん」

「マジで荒木と井端みたいじゃん」

「ほんとにそっくりな双子だな~名コンビじゃん」


 スタンドからは驚きと賞賛の声が聞こえる。


 続く2番バッターの打球は詰まったような当たりがフラフラと上がる。


「打ち上げた」

「いや、ショートとレフトの間の面白いところだ。落ちるぞ」


 真純がすごい早さで落下地点まで走って行く。そして、芝生に入ったところでスライディングしながらボールを捕る。


東(あの双子、、雅人とそっくりな動きするじゃねえか。やっぱり兄弟か)


ア「3番ショート小平雅人君」

雅「オナシャス!」

千(さて2打席目。さっきみたいに真ん中から入ったらもってかれるよね)


 初球は外にボール球のストレート。2球目は外ギリギリのスローカーブ。1-1からの3球目。外のスライダーを三遊間へ。真純が飛び込むも一歩及ばずレフト前へ抜けていく。埼玉共栄に初めてのランナーが出る。


千「悪い勝負を焦った」

千(ちょっと高かったかな。ここまで完璧なピッチングだったもんなぁ。まぁ長打にならなくて良かったと考えよう)


 千尋がサインを出している間にともみは2度牽制を入れた。


千(ランナーはいい。打者に集中。このバッター打ち取れば終わりだよ)


 しかし、ともみの初球は千尋が要求したコースからは大きく外れた。2球目もフォークがワンバウンド。なんとか2球連続ストライクでカウントを2-2に戻したが決め球のスクリューは外れた。この日初めてのフルカウント。


千(最悪歩かせてもいい。低めストライクからボールになるスローカーブだ!)


 セットポジションからともみは決めに来る。


千(曲がらない!!)


 カキーン。泳ぎながらも反対方向に合わせた当たりはショート真琴のグラブを30cm超え、右中間に転がる。


千「バックホーム!!」


 しかし、千尋の叫びも虚しく、スタートを切っていた雅人はホームに帰ってきた。


「ナイスバッティング!!」

「さすが4番だ」


 埼玉共栄のスタンドが活気を取り戻してきた。ともみは続く5番をレフトフライに打ち取るも、ベンチに帰る足取りは重々しい。


忍「ドンマイドンマイ、まだ1対1の同点だよ」

琴「そうです。また点をとればいいんです」


 忍と真琴が必死にベンチを盛り上げようとする。すると、この試合比較的静かに見ていた浩一が真っ直ぐグランドを見つめながらしゃべり始めた。


浩「おまえら、あのピッチャーならいつでも打てると思っているうちはあのピッチャーから一生点とれないぞ。今までお前らを女といって油断してきた奴らがどうなったか、それはお前らが一番よく分かっているだろう。今、お前らがしているのはその油断以外の何事でもないぞ。いい加減目を覚ませ」


 浩一の一喝でベンチの雰囲気は暗い感じではなくなった。しかし、妙な緊張感が生まれた。

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