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ボツ  作者: MC:テキtowtaka
第一章 ドン底ってこんなもん?
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第五話 過去の記憶 感情の逆流

結構精神的にえぐいかもしれないです。ちょっとやり過ぎました。

第五話


「うーん、なかなかにグロテスクだな...お袋によく人体解剖を見せられていたから結構平気だけど」


今、大和は倒したオオカミの素材を剥ぎ取るべく不器用ながらも尖った石で肉を裂いている。


「う、腹減ったな...さっき食べたばっかだったけど...やっぱり草なんかじゃ腹が膨れるわけないか」


飢えが凄いが、不思議と喉の乾きは感じられない。


「よし、こんなもーーーーーーっ!?」


急に首筋にチリチリとした感覚が訪れ、慌ててその場から飛び退く。そしてそれが何なのかを本能的に察する。


「(...殺気...一体何処の誰から?)」


殺気の源の方にゆっくりと視線を合わせる。


そこにはヒカリゴケの生えていない闇の中に、爛々と紅く光る二つの明かりが宙をゆらりゆらりと浮いている。


ジリジリと後退するが、それに合わせて相手も距離を縮めてくる。


「(トラ...!?)」


相手がヒカリゴケの明かりの中に入ってくると徐々に全貌を明らかにした。


全身を薄紅で染めて金のラインが入ったその身体は、トラの亜種的な存在だと直感させる。


歩みを止め無言で睨み合う両者。


先に動いたのはトラの方だった。


「なーーーーーーぐぁッ!?」


トラが視界から一瞬で消えたかと思うと次の瞬間には体にとてつもない衝撃が走る。


なにをされたのか理解すら出来なかったが、なにかされた後、壁に凄い勢いで叩き付けられた事だけはわかった。瞬殺。正に瞬く間に攻撃を貰い。そして戦闘不能に陥った。


壁から剥がれた大和は力なく両膝を付き、そのまま地面に尻をつけ座ってしまう。


「(もう...1ミリも体が動かねぇ...こんな所で死ぬのか。碌でもない人生だったな...)」



そのまま大和はゆっくりと瞼を降ろしていきーーーーー



ーーーーー完全に目を閉じた。





ーーーーーーーーー目を開ける。目の前には父と母と子の3人が食卓を囲んでいて。俺はそれをなにをする訳でもなく、ただただ眺めていて。


「(ああ、これは小学校3年生になりたての日だったな...忘れるはずもない...)」


何故こんなものを見ているのか?だとか、そんな事は考えもしなかった。


「ちょっと、あなた!最近のお給料減りすぎじゃない!貴方は稼いでくるだけなんだからしっかりしてよね!」


「なんだと!?お前なんて俺が稼いで来てやった飯をただ食ってるだけじゃねぇか!」


「何言ってんのよ!あなたなんて何も考えずに稼ぐだけじゃない!誰が家事やってると思ってるのよ!!」


「そんな文句言うんだったら俺の稼いだモン食わねえで自分で稼いで飯食いやがれ!!」



親父は立ち上がるとテーブルの上の食べ物を手で弾いた。味噌汁が俺にかかり火傷を負う。それでも、俺は何も言わない。だってこれが俺の家の当たり前だから。


親父は一瞬だけ俺と目を合わせたが、直ぐに視線を外し玄関から出ていってしまう。


お袋は俺に一瞥もくれずに家の奥に歩いていく。


俺は床に散らばったものを片付ける。味噌汁は飲めないが、カツなら食えるはず。震える手でカツを拾い、流し台で洗い、皿に並べる。


さっきまで三人だった場所で、独りで、ご飯を食べる。水を吸ってふやけたカツの衣。洗ってしまったから味なんてない。


それでも何も言わず、ご飯とカツを口に押し込む。


口元が歪む。目の端から涙が溢れ出して。どうしても涙は止まらなかった。


瞬きすると、場面が変わっていて、今度は親父もお袋も清々しいと言った顔で俺に話し掛けてきた。


「と、いうことでお父さんとお母さんは離婚して別々になることにしたの」


「大和は家事が出来るお母さんの方にいうていくよな?」


「何言ってるのよ?しっかりと稼いでるお父さんが面倒見てくれるし、そっちに行きたいわよね?」


親父もお袋も俺の事なんか最初から要らなかったんだ。必要なかったんだ。でも、それも俺の中では当たり前の事だった。


「俺は...ばあちゃんの家に行く」


そう言って家を飛び出した。二人とも止めなかった。声すら掛けなかった。俺は泣きながら走った。


瞬きすると、今度は家を出た後の夕暮れの公園で。


「ねぇ、お父さん。僕もっと遊びたいよ!」


「こらこら、もうそろそろ日が沈んじゃうでしょ?今日はもう帰るわよ」


「そうだぞ、それにまた明日来れば良いじゃないか」


「うん!わかった!」


ベンチに無気力に座っていた俺の視界にそんなものが入ってくる。


子供は両親と手を繋ぎながら夕焼けの中歩いていった。


羨ましかった。いや、そんな純粋な感情なんかじゃなかった。自分に無いものを持っている者が。自分には与えてくれなかったモノを与えてもらっている者が。妬ましくて。悔しくて。


でも、不思議と涙は出なかった。きっと涙も枯れてしまったんだ。代わりにドス黒い感情が心を支配する。何もかも飲み込んで真っ黒に染め上げてしまう程の感情が。


ベンチに座った俺が俺を見つめる。自然と目が合う。濁りきった目で、だが、しっかりと俺を見据えている。


ーーーーーー悔しくないのか?


確かに俺に向けて話している。


「....」


俺は何も答えない。


ーーーーーーー妬ましくないのか?


「.......」


ーーーーーーーお前には最初から何も無いのに、その上で命すらも奪われる。


「.....」


ーーーーーー何も無いなら、他者から奪えばいい。理不尽を虐げられれば、跳ね除ければいい。


「俺は...」


思い出す。兵士の言葉。


「お前のこの『運命』を呪うんだな」


お前か。俺の当たり前を作ったのは。


俺の内からドス黒い感情が噴き出る。渦を巻いてそれでも収まらず溢れ出る。いつの間にか押さえ込んだと思っていたこの感情が。


ーーーーーーーそう、それでいいんだ。大和。


意識が途切れる前、最後に聞いたその言葉は、どこか寂しげで、嬉しそうだった。



殺してやる。俺の当たり前を作ったお前をーーーーーー




ーーーーーーーーーーーー『運命』


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