94 おうちに案内
さて、ただ、もう一つ、大きな問題があった。
当然、アリエノールは俺の家に泊まるわけで……。
俺とセルリア、それと会社で帰り際に合流したメアリとともに社員寮にまで連れていった。
「それじゃ、君はジビエが得意なんだね?」
「おお、そうなのだ。アリエノールが住んでた土地ではシカなんかたくさん住んでいたからな!」
アリエノールとメアリがかなり意気投合していた。大変よいことだ。
そんな話が終わらないうちに社員寮に戻ってきた。
「おお、ここか……」
アリエノールは家の前でじっと眺めていた。
「思ったよりも広そうではないか。王都の黒魔法使いは窮屈な地下室で非人道的な暮らしを強いられていると聞いていたのだが」
「それは地方民の偏見だろ……」
そこまできつい生活はしてない。
「じゃ、中に案内するぞ」
おれたちはメアリの部屋の奥にある新設されたアリエノールの部屋を紹介した。
「清潔感もあるし、なかなか洗練されているではないか。デキる女という感じがするぞ。いや……黒魔法使いが清潔感を求めてはいけないのか……。だが、借りている部屋を汚しては損害賠償請求をされるかもしれんし……」
黒魔法使いとしての生き方と自分の欲求に、かなり葛藤が見られるな。
「メアリの部屋からしか入れないし、男の俺が勝手に開けることはないから安心してくつろいでいてくれていい」
「そ、そうか……。しかし、フランツよ、お前は本当に女二人と暮らしているのだな。一人は使い魔ではあるのだが……」
少し、言いづらそうにアリエノールが言った。
「え、ああ。メアリも俺が召喚しちゃったから、責任取る意味合いもあって、こうしてる」
「なんてただれた生活を送っているのだ……。やはり、王都の男はこんなハーレムじみた暮らしを……。破廉恥すぎる……。田舎だったらすぐに噂になって、とてもそこでは暮せなくなるぞ。やはり、都会人は相互不干渉で無関心なのだな。隣人が孤独死しても気づかないままなのだ」
なんか、都会の病理みたいな言い方をされている!
「待てよ。毎日毎日、悪徳の限りを尽くしているとしたら、それは黒魔法使いとして実に正しい行いではないのか……? となるとフランツのほうが立派なのか……。むむ……こんな女を食い物にしまくってそうな奴が立派なのか……?」
失礼なことを言われていると思うのだけど、職業柄なのか、何度か会社の人ともいい関係になったりしているので否定しづらい。
「あのね、アリエノール、わらわはセルリアとフランツがしてるようなことをやってるわけじゃないからね……? そういうのは、あったとしても……特別な時だけだから……そこは勘違いしないでほしいな……。大半はフランツとくっついて寝るぐらいで我慢してるし」
メアリが註釈を加えたけど、どう考えてもアリエノールがさらなる誤解を受けていた。
「召喚した女の魔族に同衾を強いているとは、フランツめ、なんと下卑た男だ! この黒魔法使いの鑑め!」
「怒られてるのか、褒められてるのか、マジでわかりづらいんだよ!」
俺もそうだけど、黒魔法使いだからといって価値観は一般人なので、こういう時困る。というか、黒魔法使いの鑑みたいなことしかしてない人とあまり友達になりたくない。
そこでなぜかセルリアが「ご主人様のお部屋の場所もお教えしておきましょうか?」とアリエノールに尋ねた。それって必要か?
けど、アリエノールも「わ、わかった……。好敵手の部屋は知っておくべきだしな……」と言って、俺の部屋のほうに行ってしまった。
残ったメアリに腕をとられた。
「フランツ、セルリアといちゃつくのは不可抗力だから許容するけど、あの子だけ選びますっていうのはダメだよ」
「言っている意味はだいたいわかるけど、少なくとも俺には結婚する意志自体が今はマジでないから。現時点での俺は社会人として半人前すぎる。とても誰かを一生幸せにしますとは言えない」
ひとまず、これでメアリに対する答えにはなってるかな。
メアリは「うん、答弁としては許容するよ」と言ってくれた。ただ、そこからこっちの顔を見上げながら、こう言われた。
「少なくとも、わらわの部屋を通過して、あの子の部屋に夜這いに行くようなことがあったら、わらわは二重の意味で怒るからね? 絶対に許さないからね? それだけは覚えておいてね?」
「ああ、それは絶対ないから! 絶対ないから!」
ひとまず、アリエノールに対する部屋の説明は無事に終わった。
その日はセルリアがアリエノールをもてなすためにいろんな料理を作ってくれた。とくにウナギが食卓に並んでいて、アリエノールが驚いていた。
「これ、アリエノールさんの地元ではよく食べていらっしゃるんですわよね? 先日、川で捕まえて、家の裏手の桶で飼ってたんですわ」
もてなしのためにそこまでするのか。
「それと、小型肉パイも作りましたわ。これもアリエノールさんの地元でよく食べてるんですわよね?」
「ああ、ギョザールだな。シズオグ郡の中でも一部地域で有名なのだがな。うむ、味付けはちょっと違うが、これはこれでおいしいのだ」
どうやら、アリエノールはこの家に無事になじめそうらしい。短い期間だと思うが、楽しくやれればいいな。
「では、お返しに明日はこのアリエノールがおいしいシズオグ郡料理を作ろう」
●
翌日、アリエノールはミンチなどをボール型にして焼いた料理を作ってきたが――
「無茶苦茶美味いぞ!」「少しレアな身を鉄板で焼いて食べるとちょうどいい焼き加減ですわ! 完璧にプロの仕事ですわ!」「これ、なんて料理なんだい?」
「これは地元で『爽快』と言われてる料理なのだ。ほかの土地ではハンバグーというそうだが」
爽快どころか肉らしさが強いのだけど、文句なしに美味しかった。
「これ、黒魔法使いやめて料理人でもやったほうがいいんじゃないか?」
「フランツ! 好敵手にその一言は失礼だぞ!」
つい本音が出てしまい、アリエノールにかなり怒られた。でも、それぐらい美味いんだって、これ……。
『爽快』の元ネタは静岡県のファミレスチェーンです。一度食べたいのですが、関東にも関西もないので食べる機会がないです……。




