9 闇の者を召喚しました
日間2位! 本当にありがとうございますっ! 無茶苦茶うれしいですっ!
放課後、俺とセルリアはグラウンドに出た。
セルリアが目立ちすぎるし、そうっと帰るのも無理だろう。それにここで逃げたら、きっと俺が臆病者ってずっと対戦相手のドルクは喧伝するだろうし。
今日、決まったことなのにグラウンドにはかなりの数のギャラリーが集まっていた。みんな、けっこう暇なのかな。
ドルクはグラウンドの向かい側で腕組みして立っている。
「ルールは単純だ。魔法使いが気絶するか、負けたと認めたら勝負アリとする。これで異論はないだろう?」
「ありませんわ。すぐに終わらせてあげますから!」
セルリアが高らかに言った。
というか、これ、俺とドルクの決闘じゃなくて、セルリアとドルクの決闘になってるよな。
俺としては、決闘がはじまったら【光の盾】でもセルリアの周囲に並べるか、といったぐらいの発想しかない。
戦闘用の魔法はまったく使えないわけではないけど、軍隊に入ることを前提にしていたわけじゃないから、ほどほどにしか使えない。
審判は教師の一人が駆り出されていた。一応、決闘自体は校則で禁止されてはいないのだ。このあたり、魔法学校が自由な校風であることを物語ってると思う。
「では、これより決闘を開始する!」
頭髪がかなり後退している教師が手を下ろした。
さて、スタート。
俺はすぐに詠唱を行う。魔法使いはとにかく魔法の詠唱をしないことには何もできない。厳密には、詠唱なしの魔法もあるけど、たいてい威力が低くて使い物にはならない。
ちなみに、この魔法は魔法陣を生み出す必要もない。白魔法は、大掛かりなもの以外は、たいてい詠唱だけで発動させることができる。
黒魔法の人気がない理由の一つに、大半が魔法陣を必要としていて、面倒くさいというのもあるはずだ。
「まばゆき旭光の束よ、今こそ敵のただ中に立つ天の勇士に祝福を与えたまえ!」
天の勇士どころか、魔界のサキュバスだよなというツッコミを脳内でしつつ、【光の盾】をセルリアに唱えた。
セルリアの周囲に半透明の盾が発生する。これで打撃はある程度軽減できる。ゴーレムの攻撃力をどれだけ防げるか未知数だけど。
「ご主人様、ありがとうございますわ! これで勇気百倍ですわ!」
「とにかく、ケガのないようにやってくれ!」
一方で対戦相手は当然ながら、すぐにホワイトゴーレムを召喚していた。
ブロック塀を積み上げて造ったような体をしている。体長七メートルといったところか。顔に当たる部分に二つの眼が光っている。
これで荷運びでもすれば、かなり効率がいいだろう。就職につぶしが利く魔法だ。
「さあ、ホワイトゴーレム! あのサキュバスをつぶせ! …………いや、やっぱり、あまり傷つけないようにほどほどにやれ……」
向こうも美少女を攻撃するのは気が引けるらしい。
その命令を認識したのか謎だが、ゴーレムがその見た目からは想像できないほどの速さで、セルリアに突っ込んでいく。
「まあ、これぐらいが関の山ですわね」
セルリアの手に杖が現れる。魔界から呼び出したんだろうか。
そしてセルリアはぶつぶつと黒魔法らしき詠唱を行ないながら、魔法陣をその場に描き出した。
「つ、使い魔が魔法を唱えるじゃと!」
なお、この発言は審判役の教師のものです。
「そうか! 使い魔といえども高位の者なら自分の意思のもと、魔法を学ぶことも可能! つまりフランツ側の戦力は事実上二人っっっ! 戦力面で圧倒的に優位じゃ!」
この教師、よくしゃべるな! いつのまにか解説者ポジションになってるぞ!
だが、おかげでセルリアの意図はよくわかった。
セルリアは自分の魔法で敵を倒すつもりなのだ。
これは、主人の名誉を傷つけた敵に対する、使い魔の戦いでもある。
セルリアの詠唱が終わった。
すると、ホワイトゴーレムの足下から何かうねうねとしたものが伸び出てきた。
それがゴーレムの足に絡みつく。
「こ、これは触手っ!」
俺も思わず叫んでしまった。
タコみたいな触手が何本も出てきて、ゴーレムを拘束していく。
「わたくしはサキュバスですわ。その魔法も性的なものほど短時間で習得できるし、通常より少ない魔力で発動させられるのです。ですから、このような恐ろしき存在も容易に召喚できるのですわ!」
どうやら、上級魔族らしき何かを「触手はえっちいことに使えなくもない」というロジックで、格安で召喚してきたらしい。
「なあ、セルリア、これって何を召喚したんだ……?」
「名前を言うと、恐怖のあまり、普通の人間は稀に発狂いたしますわ。なので、口にすることはできません」
そんな危険なもの、召喚しないでほしい。
「あまりゆっくりしていると、触手を持っている本体が出てしまうので、それまでに決着をつける必要がありますわ」
やっぱり黒魔法、そこそこ怖いな……。
というより、セルリアが強すぎるのだ。
「使い魔がさらに魔法を使うなんて、どんな強大な使い魔なんだ!?」
ドルクも衝撃を受けていた。たしかに常識はずれのことであるのは間違いない。
「それだけご主人様が偉大だということですわ!」
まあ、セルリアがすごいのなら、それを使い魔にしてる俺がすごいってことになるのか。
俺はよほど黒魔法と相性がよかったんだろうな……。
ゴーレムも抵抗していたが、やがて触手にひきずり倒されてしまった。
なにせ、触手の数が最初は三本ぐらいだったのに、どんどん増えて十本を超すほどになっているのだ。これではいくらゴーレムでもどうしようもない。
「そんなバカな……。僕のゴーレムが触手の餌食に……」
敵のドルクもショッキングな光景に言葉を失っていた。
「次に餌食になるのはあなたですわよ」
セルリアが冷たい瞳をドルクに向けた。
「ご主人様に決闘を申し込んだ罪、その身で感じ取りなさい!」
触手の一本がドルクのほうに襲いかかって、そのまま吹き飛ばす――ことはなく、ぎゅっと締め付けた。
「あっ、苦しい……動けな……」
そのままドルクが気絶して、勝負はあっけなく終わった。
ドルクの気絶とともにゴーレムもただの土に戻っていった。あと、触手も魔界かどこかに帰っていった。
「もっと抵抗された場合、口に触手をねじ込んで攻撃していたので、早く気絶してくれてよかったですわ」
やっぱり戦闘用の黒魔法はえげつないな……。
「ご主人様の名誉は守りましたわ」
セルリアがいい笑顔で俺のほうに戻ってきた。
「うん、ありがとな、セルリア」
また抱きつくのは恥ずかしかったし、頭を撫でてやった。
「あうぅ、もっとなでなでしてくださいませ」
セルリアが恐ろしいものを召喚したとは思えないかわいい声を出した。
「それと、これで男爵になれますわね。ご主人様は貴族の一員ですわ!」
そういえば、決闘でそんなものを賭けてたな。
何の実感もないけど、もらえるものはもらっておくか。
夜にもう一度更新します! 余裕があればもう一度ぐらい更新できれば……と思います!