88 デフレ魔法の解除方法
「じゃあ、妹との距離が縮まったら、その不満も解消するんじゃないか?」
この魔法が俺の体を触媒にできているのは、妹とラブラブになれてないからだと思う。妹とラブラブじゃないという一点において、俺と先祖は同じだからだ。
逆に言えば、この体が妹を彼女にしてるようなものだったら、先祖の体の代用にはならない……かもしれない。
「フランツの言いたいことはわかるよ。ルサンチマンが魔法の元になってるなら、そのルサンチマンを解消してしまうという方法はなくはない」
「そっか。じゃあ、俺の考えは間違ってないんだよな?」
「それで、フランツはどうしたいのさ。まだ、具体的に何をするか聞けてないんだけど」
メアリの質問は当然だ。概念を説明しても何の解決にもならない。
けど、中身を言い出さなかったのには、それなりのわけがあるのだ。
「俺が…………妹的存在の子と…………いい関係になる」
できるかぎりぼかしたけど、結局メアリと目が合ってしまった。
「ようは、先祖の血を受け継いでるこの体が、妹との愛を確かめられれば、俺の体は宿主として不適格になるだろ? ということは……それで魔法の効果も消えるかもしれない……だろ? べ、別にふざけて言ってるわけでも、下心があるわけでもないからな!」
変な目的があるんじゃないと言っておこう。
メアリのほうは耳まで赤くなっていた。
「フランツは変態だな……。発想が変態すぎるよ……。つまり、わらわを妹って設定とみなして、その……セルリアとしてるようなこと……」
「メアリ、自分からはべたべたひっついてくるのに、そこで恥ずかしがるのずるくないか……?」
「それとこれとは意味が全然違うよ! それならお兄ちゃん子ぐらいの感じで許されるでしょ! フランツが言ってるの、その次元じゃないでしょ!」
そう言われてしまうと反論できないけど、このままデフレが続くと大変なことになる。
不況の時期って自殺者が大幅に増えたりするからな。
たとえば自殺者が前年より三千人増えたとしよう。三千人が戦死する戦争なんて、そうそうない。つまり、不況はものすごく人を殺すのだ。
「メアリ、頼む!」
俺は頭を下げて、頼んだ。
「わかったよ、フランツ。ううん、お兄ちゃん」
顔を上げると、メアリがもじもじ両手の人差し指同士をつんつんつついていた。
「お兄ちゃんのためだから……わらわがお兄ちゃんのしたいこと、してあげる……」
「ありがと、メア――」
「くーっ! いいですわ! 素直になれないキャラを装いつつ結局従っちゃう妹キャラですわ! パン三斤までいけますわー!」
セルリアの声で俺のお礼は掻き消えた。パン食べ過ぎだろう。
その時、心の声みたいなものがまた聞こえた。
――お前、まさか妹がいたのか? そして欲望を乗りこなすのか!? なっ……。そんな……。ど、どうなるのだ……。我輩にもわからん……。
戸惑ってるぞ、戸惑ってるぞ。
けど、俺に本当の妹がいるかどうかは認識できないのか。たしかに妹の有無は俺が生まれた後に決まることだからな。俺の血や肉のどこかに先祖が影響をおよぼしているとしたら、それの判断はできない。
「ねえ、ここなら、パパもママも来ないかな……」
甘ったるい声でメアリが聞いてきた。
俺の親に対してそんな呼び方してたっけと思ったけど、これ、キャラ作りだ。
そして、今すぐやるのか……? デフレの効果は続いてるし、そんなにのんびりしていられないけど……。
セルリアはいい笑顔で黙って、退出していった。最後に「ご主人様、頑張ってくださいませ」とエールを送ってくれた。わかった、やるだけやる……。
「メ、メアリ、うん、大丈夫だ……」
俺も無茶苦茶緊張している。
「お兄ちゃん……この服脱ぎづらいし、手伝って……」
上目づかいでメアリがそう要求した。
これ、本当に大丈夫なのかな。いきなり、俺が爆発する魔法とかかかってたりしないような?
落ち着け。これもデフレをどうにかするためだ。むしろ、ここは欲望に流されるほうが効き目があるのか? と、とにかく、やるべきことをやるだけだ!
俺とメアリはサキュバス的なことを丁寧にやった。
ゆっくりと、メアリの体をいたわりながらだ。
なにせ妹を傷つけるようなことはできないからな。目の前にいるのはかわいい妹だ。かわいい妹だ。かわいい妹だ。
「お兄ちゃん……メアリ、うれしい……」
メアリも、俺をお兄ちゃんとずっと呼んでいた。
秩序への挑戦を俺たちはしているな……。
そして、しばらくサキュバス的なことをしていると――
体が発光して、全身がものすごく熱くなった!
「これ、ポエムの時に近いな!」
「お兄ちゃん、大丈夫だよ! わらわの手を握ってて!」
幸い、すぐに光も熱も収まった。
「これで、大丈夫かな……? デフレがさらに加速してなきゃいいけど……」
「それはわからないけど、ね、念のため、続きをしたほうがいいかも……」
「わかった……」
世の中には中断していいことと、してはいけない時がある。これは後者だ。
●
翌日、俺たちは市場に様子を見に行った。
物価は元に戻っていたし、臨時休業になっていた店も復活していた。
「いやあ、悪いね。昨日まで何かに憑かれたみたいに安くしすぎちゃってたけど」「あれじゃ、店がつぶれちゃうもんね。もうちょっと高くていいよ」
そんな店員と主婦のやり取りも聞こえてきた。
「よかったですわね。これで全部元通りですわ」
すがすがしい顔でセルリアが笑う。
「うん、ほんとによかった。ほっとした」
「それにご主人様と妹さんの仲も深まったようですし」
あっ、そこ、やっぱり突かれるか。
「あれは特別サービスだからね」
ぎゅっと俺の服をつかみながらメアリが言った。ずっと下を向いているから表情はよくわからない。
「うん、迷惑かけたな」
「けど、どうしてもって時は言ってくれてもいいから……。考えなくもないから……」
視線が合わなくても、顔が赤くなるからだいたい様子がわかる。
こんなかわいい妹がいなくて、逆に幸せだったかもしれない。
そしたら、俺もメアリの兄みたいに、思い悩んだだろうからな。
メアリ、かわいいですよね。早く6月の書籍化のイラストを僕も見たいです。




