87 負の螺旋の魔法
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「えっ? それは安すぎるんじゃありませんこと? むしろ、こういうところのものは観光地価格なのだと思っていたのですが……」
そういえば、やけに安いなと思ったな。
「地方だしな。王都と比べると、物価が安いのかもしれない。王都の価格もこれぐらい安かったらいいんだけどさ」
「そうですわね。でも、このアイスクリームが小銅貨一枚だと、牧場に利益が出ない気もしますわ」
「そこはきっと経営努力でやってるんだろ。輸送費かからないし」
俺としてはそれ以上の疑問も感じなかった。地元の物価なんて意識してないしな。
その日の夕方、ライトストーンの市場を歩いていたら、そこもやけに安くなっていた。
・靴下三足で小銅貨二枚。
・から揚げ五個で小銅貨一枚。
・バイキング食べ放題銅貨一枚。
「おお! 親父が昨日言っていたのより安いじゃないか! 日持ちするものはまとめ買いして、王都の社員寮まで持っていこうかな!」
これはどこも混雑しているかと思ったら、そうでもない。
そしたら、主婦がこんな話をしているのが聞こえてきた。
「隣町のタンミルはもっと安いらしいわよ」「タンミルよりもその先はもっと安いって」「馬車に乗っても、そっちまで行ったほうが安いわ」「馬車も回数券の十五枚つづりのができたわよ」「この郡だけ妙に安いらしいわ」
マジか。ほんとにこの地域は暮らしていくだけなら、かなり楽だな。
ただ、何店舗か閉まっているところも目についた。「都合により本日は休業します」と紙が貼ってあるけど、ちょっと数が多い気もするな。
さらに翌日も市場の値段はもっと下がっていた。
それと、臨時休業の店舗もさらに増えていた。
俺はぽんとメアリの肩を叩いた。
「なあ、何かおかしくないか? どんどん物価が下がってる。下がるのはありがたいけど、下がりすぎだ……」
「言いたいことはわかるよ。あの資料の中で、まだ見れていないものがあるんで、そのあたりを重点的にあさってみる……」
俺とメアリの頭には共通の出来事が頭に浮かんでいたと思う。
あのポエムめいた呪文だ。
あれが何かを発生させたんじゃないのか……?
そして、メアリが大急ぎで解読作業を行った結果、とんでもないことがわかった。
俺とメアリ、セルリアは俺の部屋に集まった。あまり、親には聞かれたくない。
「フランツ、呪文の正体、わかったよ」
俺とセルリアは固唾を呑んで、その先のメアリの言葉を待った。
「あれは――――デフレの悪霊を作り出す黒魔法だった」
しばしの沈黙が部屋を包む。
「なんだ、それ! そもそも、魔法でそんなことできるのか!?」
経済状況に影響を与えるって、もはや黒魔法の領分を超えているのではないか!?
「わらわも衝撃を受けたよ。でも、それをほのめかしてる箇所があったし、それにもう一度ポエムを見ると、そんなことが起こっても不思議じゃないんだ」
メアリはポエムの該当箇所に指を載せた。
<どこまでも どこまでも 終わらない夜の螺旋を生み出そう>
「これはデフレ・スパイラルって意味なんだよ!!!」
「言われてみれば、そんな意味に見えてきた!!!」
まさか、俺の先祖は黒魔法によって経済を支配しようとしてたのか? 斬新な攻め方すぎるんじゃないか……?
「あっ、わたくし、わかってしまいましたわ……」
セルリアは驚愕の表情になっていた。
「ご主人様のご先祖様は国全体をデフレの波で覆って、国家の崩壊を狙っていたのですわ! これぞご先祖様の国家滅亡の企てに違いありませんわ!」
「なんだってーーーー! だけど、それが正解な気がする!」
ものの値段がどんどん安くなっていくというデフレ状態。国全体の経済状況が悪い場合など、そうなってしまうことはある。
しかし、いくらなんでも、その影響がライトストーン近辺で急速に進みすぎている。数日でもはや利益が出せなくなって、営業をとりやめているところが現れだしているほどだ。
「このままだと、社員の給料も確実に切り下げられて、高いものを買えなくなる。そうなると、さらに店も値段を下げないといけなくなる……。ほんとだ、螺旋状態が続いていきそう……」
この波が全国に広まっていったら、たしかに国家の危機だ……。しかも、ある種、俺たちが起こした危機とも言える……。
責任をもって、止めないと。
「メアリ、これ、対処策ってわかるか?」
メアリが下を向いたので、ないのだとわかった。いくら、メアリでもこんなの、専門外だもんな。
俺は腹を決めた。
これは元はと言えば俺の先祖がやろうとしたこと、なら、俺がその尻ぬぐいをしてやる。
しかも、その血が俺の中にも流れてるかもしれないとしたら、なおさらだ。
「心配するな。俺が絶対に解決策を見つけてやる」
●
そうは言ったものの、ゴールは遠かった……。
なにせ、前代未聞の黒魔法なのだ。解除方法の見当もつかない。しかも、残っている資料は俺の力では一読できないように書かれている。まずメアリに読んでもらうしかない。
結果として、俺はメアリに提案する側にまわる。
「なあ、オリジナルの黒魔法って、そんなに簡単に作れるものなのか?」
「もちろん、そんなの一朝一夕じゃできないよ。その点、フランツの先祖が大物の黒魔法使いだったことは間違いないかな」
先祖が大物だったことでこんなに苦労するとは思わなかった。
「ただ、才能だけじゃ作れないけどね。黒魔法の場合、その根底には負の感情が横たわっていることが多いよ」
今の俺の目にはメアリが教師に映る。
「妬み、恨み、怒り、そういったあまり楽しくない気持ちが元になってるね。ほかにも放縦――つまり迷惑も考えずに好き勝手にやるぞって気持ちが元になる場合もあるけど」
「そのあたりのことはだいたいわかる」
ぱらぱらとメアリは黒魔法用の参考書をめくる。俺が帰省用にちょっと勉強でもしようかと持って帰ったものだ。
「今回の場合は、これを元に作ってるんじゃないかな」
メアリが示しているところに書いてあった文字は――不満。
「妹と一緒になれない不満をぶちまける意味で、こんな魔法を作ったんだと思う。妹と一緒になれない国を滅ぼすつもりだったんだ」
「どこまでも迷惑な先祖だな……。けどさ、本人に不満があるだけで、こんな大規模な効果の魔法になるのかな……?」
俺だって黒魔法使いだ。黒魔法のルールは知っている。
「ほら、たいていの場合、規模がデカくなると、なんらかの代価を支払うことになるだろ。スケールも期間も長いのに、詠唱しちゃったメアリは代価を払ってない」
「それなんだけど、フランツの体があの時、光ったよね」
少し遠慮がちにメアリが話す。
「ああ、よく覚えてる」
「あれ、フランツの体が魔法発動の宿主になっているってことだと思うんだ」
「宿主って、俺が勝手に生贄みたいになってるってことか……?」
あまりイメージとして楽しくないな。たしかに術者と親しい人間を生贄にする魔法とかあるけど。
「フランツがなっているというよりも、そのフランツの体が受け継いでる先祖の血が宿主になってる。これは『詠唱が行われれば、先祖の血を引いてる魔法使いの体を使って、デフレを発動させる』魔法なんだ」
ややこしいけど、意味はわかった。
誰が詠唱しても、自分の血を引いた者を媒介にしてデフレが起こるようになっているわけだ。
「俺の体にも、妹と一緒になりたかった黒魔法使いの不満が受け継がれてるってことか……」
なんて壮大な復讐劇だよ。
しかし、その時、一つの解決策が浮かんだ。
「じゃあ、妹との距離が縮まったら、その不満も解消するんじゃないか?」
じわじわと発売日が近づいてきたなと感じております。しっかり書籍化作業も進めていきますのでお待ちください!




